第165話 高校野球の厳しさ


 「やっほーい! ミズチにはまだまだ負けないよーん!」


 勝利したウルがニコニコ顔で帰ってきた。

 この一年でかなりいやらしい打者に成長したよな。あれだけ粘られて、最終的には出塁されるんだもん。ピッチャーからしたら、たまったもんじゃない。

 今日はランナー居ない設定やるけども、本当ならウルがランナーとして居るんだ。

 龍宮高校に死角無し。


 「次は俺か。俺も先輩らしさを見せれるように頑張らないと」


 イケメンスマイルを輝かせながら打席に向かうタイガ。

 甲子園では終始繋ぎに徹していて、そんなに目立つ事はなかった。

 それでも打率は3割打っていたし、長打も一年前とは比べ物にならないぐらいに増えている。

 これから更に成長するだろうし、一気にブレイクしてもおかしくない。


 「甘ーい」


 ウルに打たれた事で動揺していたのか、初球のアウトコースへのストレートが甘めに入った。

 それをタイガは狙い打ち。打球はネットにまで到達してホームラン。


 「容赦ない奴だな」


 「タイガって身長の割にはホームラン少ないよね」


 高校でも練習試合含めて十本も打ってないしな。

 アベレージヒッターって感じ。

 でも成長期がそろそろ終わるみたいだし、ここから筋肉がついていけば数も増えてくるんじゃなかろうか。


 でもタイガはあんまり筋肉をつけすぎないようにしてるからどうだろ。

 捕手として、身軽に動けるようにしてるみたいなんだよね。

 一昔前までは、捕手はでかい体の方が良かったんだけど、今のトレンドは違うからなぁ。

 そのせいで打てる捕手ってのが貴重になってる感もあるけど。


 「そしてレオンである。ミズチにはご愁傷様としか言いようがない」


 「シニアで準優勝した投手なんだねどねぇ」


 高校野球は打球のスピードから何から全然違うからな。俺達が早めに順応出来たのがイレギュラーなんだよ。

 まぁ、それも俺が普段からバッピとかして慣らしてたお陰だろう。

 俺もレオンや父さん相手に、レベルの高い打者と勝負出来てたしね。


 金子と、ウルがにゃんこだ! って言って追いかけていったら、それが実は捨てられたビニール袋だったって馬鹿話をしてたら、レオンの打席が終わっていた。

 右中間を破るツーベースだったらしい。


 「お前ら見てなかったのか?」


 「正直、どうせ打つだろうなって思ってて気を抜いてた」


 「俺も」


 ミズチには悪いけどね。なんかレオンと大浦は甲子園経てからのレベルの上がり方が尋常じゃない。

 どこかでボーナスステージを見つけたのかってぐらいレベルが上がっている。

 シニアから上がりたてのピッチャーに抑えられるとは到底思えないんだよね。


 「ほら。レオンが文句垂れてる間に、大浦も打ったじゃん」


 「なんか大浦は決勝でホームランを打ってから風格的なのが出てきたよね」


 「喋り方は下っ端っぽいのにな」


 大浦も右中間を弾丸の様に破るツーベース。

 あいつもそろそろ木製バットデビューした方がいいのでは? なんか金属バットを使うのが反則にすら思えてきたぞ。

 プロを目指してるのかは本人から聞いてないけど、目指してるなら早めに木製チェンジしても良いんじゃないかな。

 木製を使いこなしてるってのもアピールポイントになるからね。


 「さーて、ミズチが打ち取れるとしたらここだな」


 「ランナーがいない打席勝負で隼人か」


 得点圏にランナーが居ないと俺並みに打たない隼人。次の清水先輩も簡単に打ち取れる相手じゃないし、チャンスがあるとしたらここだろう。


 「ミズチもそれを分かってるのか、かなり気合いが入ってるな」


 「でもなぁ。甲子園でランナー居ないのにホームラン打ってたからなぁ。あれでもしかしたら化けてるかもしれん」


 本人は大浦に置いてかれ気味なのを気にしてたな。まぁ、この一年で差がついた感じはあるけど。

 隼人は得点圏じゃなくても。せめて2割5分ぐらい打てれば文句ないんだけど。

 いや、俺が言うのも烏滸がましいんだけどね?


 「お!」


 5球目のスライダーを打ってサード強襲。

 結果は内野安打。

 だけど、あれはサードが良く止めたと言っても良いだろう。触れてなければ長打になってた筈だ。


 「隼人覚醒の時が近いか」


 「良い当たりだったね」


 マジで今年の龍宮高校に死角無しでは?

 これは怪我だけには気を付けないとな。


 「さーて、最後の清水先輩だけど」


 甲子園ではほぼ毎打席外野フェンス手前まで運ぶもどうしてもあとひと伸びが足りなかった。

 本人の感覚的な問題なんだろう。試合が終わってから映像をチェックしては、父さんにアドバイスを貰いに行ったりと、かなり真面目な筋肉ゴリラだ。


 「まぁ、そりゃそうなるわなぁ」


 甲子園のエースクラスのボールをフェンスギリギリまで持っていってたんだ。

 最近まで中学生だった選手のボールを持っていけない道理はない。

 フォークをアッパースイングで思いっ切り掬い上げてネットまで。

 文句なしのホームランである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 蛟を『ミズチ』のカタカナ表記に変えました。

 これで多少見やすくなったかなぁと。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る