閑話 スカウト
春の甲子園決勝。
ネット裏では日本の12球団のスカウトが勢揃いしていた。
いや、日本だけではない。
メジャーからのスカウトもちらほらと見受けられる。それだけ注目せざるを得ない選手が出場しているのだ。
「どうもー」
「あぁ。パンサーズの」
隣同士になった東京パンサーズと大阪オルカのスカウト。
東京パンサーズは豹馬の父、勝弥が在籍していた、東京の人気がない方と言われている。
近年ではそんな事も無くなってきているが。
大阪オルカは甲子園を本拠地としたセの人気球団。その応援は日本一と言われている。
尚、マナーの悪さも日本一である。
「お目当ては?」
「うちはとりあえず三井でんなぁ。桐生の尾寺も気になっとるけど。そっちは?」
「こっちも三井と尾寺ですね。後は龍宮の清水も」
「あの子かぁ」
スカウトとは腹の探り合いである。
良い選手をいかに指名順位を抑えて獲得出来るか。パンサーズとオルカはここ最近のスカウトは不発で、そろそろ生え抜きのスターが欲しいと思っていた。
一位指名が抽選になるのは避けたいところだが、今大会で大きく名を上げた選手が多くいる。
「龍宮高校は人材の宝庫ですな。今年は三井と清水。来年はやばいでっしゃろ?」
「何人がプロ志望するかは分かりませんが、有望な選手は沢山いますよね」
試合が始まり、早速レオンのホームランで先制。
見ていたスカウトはもう呆れるしかない。
「あの子は今すぐプロ来ても活躍出来るやろなぁ」
「来年の一位指名ですか?」
パンサーズのスカウトは軽く探りを入れてみるが、オルカのスカウトは適当に誤魔化す。
「パンサーズこそ、浅見は欲しいんちゃいますの? 勝弥以来の生え抜き大砲でぴったりやし。ポジションも一緒で、勝弥に指導してもらってる。運命ちゃいますか?」
「いやぁ。どうでしょう。うちは息子の方も気になってるんですよね。向こうからもセならパンサーズが良いと言ってくれてますし」
「Jrか。あいつも欲しいなぁ。どうにかして二人とも取れへんかな」
「無理でしょ。このまま怪我なく成長したら、恐らくどの球団もあの二人が一位指名するでしょ」
「せやろなぁ。考えとくんは、外れ一位やな」
それからもちょこちょこと会話を挟みつつ、試合を眺める。
スコアは2-1と桐生のリードだ。
「三井はここで交代やろな。最後に150を計測したんはびっくりしたけど」
「あの子は夏の怪我さえなければもっと伸びてたでしょうね」
「龍宮は育成も上手いよなぁ。三井なんて去年までは、そんなに名前聞かんかったで? 素材は良いって聞いてたから育成ならって思っとったけど」
「あそこは勝弥さんの奥さんがいますから」
「トレーナーか」
勝弥の妻、沙雪は実はプロ野球関係者の中では結構有名である。
大学で最先端の技術を学び、そのまま結婚。
それからは、勝弥のサポートや指導メニューまで全て任されていた。
自主トレ期間でも、勝弥が若手と一緒に練習し、沙雪にアドバイスを貰うと成績が向上するなど、選手からは女神のように扱われている。
それはメジャーに行ってからも続き、メジャーの練習法を学んでは自分流にアレンジ。
それを自分の息子や他の若手に指導して、一気に名を上げた。
「大浦なんてその典型例なんちゃうんか?」
「いや、あれは突然覚醒したらしいです。勝弥も見逃してた才能だったとか」
目の前では大浦が逆転スリーランホームランを放って、球場は大盛り上がりだ。
「外れ一位はあの子に集中するかもなぁ」
「競合したくない球団が外れじゃなくて、そのまま一位指名する事もありえますよね」
来年のドラ1候補が龍宮高校に三人もいる。
二人は顔を見合わせてため息をついた。
それからも試合は進み、とうとう三波の登板。
高校生らしからぬ、ふてぶてしいピッチングで桐生高校を寄せ付けない。
「三波は勝弥の息子やのに、なんで投手の才能に振り切ったんやろな。あのバッティングはひどいで」
「勝弥もお手上げみたいですね」
苦笑いしながら、目の前で豪快に三振した三波を見る。
父の勝弥はフルスイングしながらも、天性のバットコントロールを持っていた。
しかし、豹馬はフルスイングまでは同じだが、当たる気配は全くない。
DHがあるパなら問題ないが、セなら自動アウト扱いだろう。
「龍宮高校の優勝か。ここからは龍宮一強で高校野球が進むかもなぁ」
「新戦力が上手い事ハマればそうなるでしょうね」
最後の一球を何度も首を振り、ストレートと勘違いさせてのチェンジアップ。
投手としてプライドは高そうなのに、ピッチングは現実主義。
高校生で既にこの域に達しているのは見事としか言えない。
「来年のドラフトが今から楽しみやわ」
「自分もです」
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