閑話 試合後の桐生


 「あの敬遠が失敗やったなぁ」


 決勝戦が終わってから宿舎に戻ってのミーティング。北西監督は開口一番そう呟いた。


 「せやかて監督。あそこで浅見と勝負すんのもやばかったでしょ。大浦と岸田は二打席抑えれてたし、結果論っすよ」


 「せやねんけどなぁ。それまで頑張ってくれてた尾寺に申し訳ないわ」


 まだ春のセンバツという事で、夏が残っている。

 勿論、予選を勝ち抜かなければ甲子園には出れないが、リベンジするチャンスはあるのだ。

 それもあって、エースの尾寺はカラッとしていた。


 「俺の実力不足っすよ。もっと抑えられる自信はあったんですけどね。第一打席でいきなりホームラン打たれたし」


 「あれなぁ。カーブ待ちやったんかな? 緩い球をあそこまで運ばれたらたまらんで」


 反省会というよりは愚痴大会になっている。

 しかし、こういうのも大事なのだ。

 今のうちに吐き出しておいて、また明日から練習を頑張る。蟠りを残しておかないように、鬱憤を試合後にすぐ発散させておくのが北西流である。


 「三井もやで。あんだけ揺さぶったのに、致命的な失投は結局はスプリットのすっぽ抜けだけ。思った以上に粘られたわ」


 「三井から六回までに3点取る算段やったんやけどな。2点しか取れんかったか。ええピッチャーやなぁ。三波が出てきてからはノーチャンスやったし」


 相手エースだった三井を序盤から消耗させて、三波が出てくる前に3点を取る。

 そしてそのまま逃げ切るのが当初の予定だった。

 しかし、結果は打線は2点しか取れず、こちらは5点取られた。

 改めて龍宮高校の投手陣、打者陣には感嘆しかない。


 「夏も苦労するなぁ。三波が最初から投げてきたらどうしようもないで、これ」


 「三回でヒット一本しか打てませんでしたからね。三振も五個と完全にしてやられました」


 「三波に待球策やら揺さぶりは通じひんやろうな。ほとんどゾーンで勝負してくるし、今までの試合を見てる感じ、フィールディングもピカイチや。こういう才能ある奴は、疎かにしがちなんやけどな」


 三波対策。これをどうにかしないと、とりあえず夏も同じ様な結果になるだろう。

 龍宮打線もどうにかしないといけないので、現状はかなり厳しい。


 「春の新戦力に期待やなぁ。お前らもレギュラーとかベンチ入りを奪われんように頑張れよ」


 桐生はその実績とブランド力で、全国からエースと4番を集めてくる。

 今年もシニアの全国大会優勝チームからエースと4番が入学予定だ。

 準優勝チームからも4番が入学予定で、レギュラー争いが激化するだろう。

 北西監督はこれが良い刺激になってくれればと思っている。


 (でもこれは、龍宮にも言える事なんよなぁ。向こうもスカウトはしてるやろし。ちょっと、誰を獲ったんか確認させとこか)


 北西監督は心の中で帰ってからの予定を立て始める。三波や浅見程の逸材がまた入学してたら、たまったもんじゃない。

 夏こそは必ず勝つのだ。後援会もうるさいし。


 (頼むから大浦みたいに突然変異みたいな逸材は出てきてくれんなよぉ。いやでもなぁ。あそこは三波の父ちゃんがコーチしとるし、なんかの弾みで化けたりしても不思議じゃないんよな)


 今年の夏、いや、これからの高校野球は中々に苦労しそうだ。

 しかし北西監督は笑っていた。

 これだから高校野球は面白いのだと。


 

 

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