第160話 久々の部室


 「ふんふんふふ〜ん♪」


 「ご機嫌だな」


 春休みに練習参加する新入生も居るだろうし、気になってたので早めに部室にやって来た。

 しかし既に結構な人数が来ており、少し出遅れた感がある。

 鼻歌を歌いながらご機嫌なウルに挨拶をして周りを見渡す。


 「入部予定の新入生はまだ?」


 「いや、何人か来てたよ? もうグラウンドに行ってるんじゃないかな? あ、そういえばミズチもいたよ」


 「知ってる。昨日会ったからな」


 「へぇー! 苦手なのにね」


 苦手ではない。もう少し距離感をなんとかして欲しいだけだ。さもないとマリンの餌食になってしまう。

 あいつ、甲子園中にやたらとネタ帳に書き込んでたからな。今から新作が怖くもあり楽しみでもある。


 「なんか若干燃え尽き症候群気味なんだよな。神宮の時程では無いんだけど」


 こう、いまいちやる気が湧いてこないというか。

 まぁ、すぐに元通りになるんだけど。

 野球大好きなので。


 「新入生に会えばやる気も湧いてくるでしょ」


 「それもそうか」


 高校に入って始めての後輩だ。

 先輩の貫禄というのを見せてやらんとな。

 俺がいつもやってる一日一万回感謝の素振りを見せてやろう。これでお前達もホームランスラッガーになれる事間違いなし。


 「やめなよ。パンが打撃指導なんてしたら、龍宮が一回戦負けしちゃう」


 「失礼な!! 俺の甲子園での華々しいデビューを忘れたか!」


 「立った打席は全部三振だったよね?」


 「はぁ? 一回送りバント決めましたー」


 バントは出来るんだよ。なんで振ると当たらないのか。どこぞの沢村○純みたいにバスターにしたら打てるようになりますかね。




 「ちゃーっす!」


 ウルと絶交してから30秒で仲直りしてグラウンドに向かう。

 すると準備万端な新入生五人が出迎えてくれた。


 今年はスカウトも四人取ったらしい。

 特待二人に準特待を二人。

 その四人は来てて、もう一人の子は知らないな。

 一般入部の人かね? やる気があってなによりです。あ、ミズチもしっかり居るな。


 「もうちょっと待ってね。まだ全員揃ってないし」


 因みに本日キャプテンは不在である。

 代表合宿とやらにお呼ばれしてる。今年のアジア大会のやつだろうな。W杯は今年無いし。

 まだ候補だけど、キャプテンなら普通に選ばれるんじゃなかろうか。


 「滅茶苦茶キラキラした目で見られるんだけど。気持ち良いよね」


 「一番はミズチだけど」


 ウルとボソボソと聞こえないように話す。

 これが甲子園優勝の力かっ! これは学校が始まってからが楽しみですなぁ!

 モテモテの豹馬フィーバーが起こる事間違いなし!


 「レオンと大浦に持っていかれるだろうね」


 「言うな」


 俺だって完全試合したんだ。一躍、時の人ですよ。モテモテになっても良いじゃんか!

 まあ? 俺は? 渚ちゃん一筋だけど? それは別としてチヤホヤはされたいんだよね。

 承認欲求を満たすのは俺のパフォーマンスにも影響してくるので。


 「それはそうと、ウルさんよぉ。うちのエンジェルとは最近どうなのよ?」


 「普通に連絡は取り合ってるけど、進展はないんだよね。まぁ、東京に帰って来たばかりだし。パンも人の事言えないでしょ?」


 「すいませんねぇ。俺はデートの約束を取り付けましたぁ」


 優勝してからそっこーで連絡したからね。

 そろそろ俺も本格的にアクションを起こしていかないと。渚ちゃんは美人さんだからな。

 モタモタしてると誰かに掻っ攫われるかもしれん。BSS程ダサいもんはないからな。

 そんな主人公にはなりたくありません。



 ウルと男同士の恋愛話をしていると、ようやく全員が揃った。

 さてさて、自己紹介からの親睦を深める軽い練習でも始めましょうか。

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