第150話 VS桐生2
「相手はエースの尾寺。140キロ後半のストレートに変化の大きいスライダー。後はフォークとたまにカーブを投げてくる感じか」
そしてサウスポー。オーバースローで地面に叩きつける感じで投げてくる、普通にプロ注目の選手だ。
ここまで三試合に登板して失点は2。日によってコントロールのばらつきがあるけど、今日はどうだろうかね。
先頭は不動の1番バッターウル。
今大会も3割後半の打率と4割超えの出塁率を誇っている。最近は粘って球数を投げさせる事に喜びを感じてるようで、ますます嫌らしい1番バッターに成長している。
「ここでウルが出るか出ないかで、龍宮の得点力が違ってくるからな。なんとか頑張って出塁して欲しいところ」
「地元桐生の応援が凄いねー」
正確には甲子園は兵庫なんだけどな。なんか大阪って感じがしちゃうよね。
俺と金子はブルペンからウルの打席を見守る。
「セーフティもしっかり警戒してるか。ウルは元々あんまりバントしないんだけど」
隙があればやるけど。普通に上手いんだけど、打つ方が好きだからね。
そして結局フルカウントまでもつれ込む。
尾寺のコントロールは今日は可もなく不可もなく。程よく散っていて逆に狙いにくい感じになっている。
その後ウルはファールで3球粘るものの、最後はボテボテのセカンドゴロ。
もう少しでセーフといった当たりだったけど、流石に相手の守備も固い。
「スライダーキレッキレだな。左打者は打ちにくいかも」
「レオンなら打てるよ。いつも豹馬の相手をしてるんだし」
まぁね。サウスポー対策としてこれ以上ない相手だろう。ちょっとフォームが変則だから、正統派相手にはどうなるかが分からないけど、あのスライダーには苦戦しないと思う。懸念があるとしたらフォークか。
俺は一応縦スラを投げれるけど、まだ練習中でフォーク程の落差はない。
それに、最後は泥臭く打ったとはいえ、江陵のエースのフォークにやられてたからね。そこがどうなるかが気になるな。
2番はタイガ。今大会は進塁打やバントで繋ぎに徹してる所もあるけど、一応3割を超える打率は残している。
器用すぎるのも考えものだね。大体の要望に応えれる技量があるから、ついあれこれお願いしたくなっちゃう。もっと自由にやらせれば、打率ももう少し上がってた事だろう。
「むーん? ストレートが微妙に動いてるのか? 中々捉えられてないな」
ウルもそうだったけど、打ち損じのファールが多い。神宮や映像では分からなかったけど、何かカラクリでもあるのか。
で、タイガは詰まらされてのピッチャーゴロ。玉数は投げさせられてるけど、最終的には打ち取られている。
「真打ち登場ってか」
レオンの名前がコールされると、甲子園の観客からは凄い拍手で迎えられる。
一気にファンを開拓したなぁ。あー羨ましい。
「さてさてどうなるか」
俺が勝手に、苦手なんじゃないかと思ってる落ちる球が来る前に叩くのか。
それとも敢えて落ちる球を狙うのか。
因みに俺は打席で基本ストレートしか狙ってません。変化球なんて当たる気しないからね。
そして初球。江陵戦の情報を元にしたのか、フォークから入ってきた。
しかし、レオンはピクリとも動く事なく見送る。
「いやーな見送り方。何を待ってるか分かりやしねぇ」
判定はボールで続く2球目。
左打者の膝辺りから外に逃げていくスライダー。
これにも腰を引く事すらせず、微動だにしないで見送った。判定はストライク。
「マジで何待ってるんだあいつ。怖いんだけど」
「あのマウンドだけには立ちたくないね」
相手ピッチャーの内心は如何なものか。
プレッシャーは半端なさそう。
そして3球目。意表をついた、この試合初めて投げるカーブ。
真ん中からアウトコースへ逃げていくボールにはレオンは反応。
一気に木製バットを振り抜き、打球は逆方向のレフトスタンドギリギリの最前列へ。
今大会四本目となる先制ホームランで龍宮高校が一点を先制した。
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