第111話 地獄の終わり


 「おかしいな、体が動かないぞ」


 12月30日。地獄の合宿最終日である。

 最後の1日だ、頑張ろうと起き上がろうとしたが、体が言う事をきかない。


 「ふぎぎぎぎぎ」


 マッスルがペインなんだ。

 前半がちょろく感じる程、後半は追い込んでいるせいだろう。

 筋トレだけじゃなく、守備や走塁を徹底的に洗い直すべく、泣きたくなるほど練習したからな。


 「ふんふんふーん。体が重いんだよー。ふん。ふふふーん」


 なんとか体を動かして食堂に行くと、テンションだけは高いウルが鼻歌を歌っていた。

 顔は元気そうだが、その歩みはゾンビの様で。

 あいつだけは、マジで楽しそうに練習してるんだよなぁ。

 しっかり体はバキバキみたいだが。


 


 「よーし。怪我せずに最終日までこれたなー。最後やからって気抜くなよー」


 そして始まる地獄のサーキット。

 本当にもう体は動かないが、なあなあにならないように。

 適当にやって怪我でもしたら笑い話にもならない。

 母さんが個人個人に組んでくれたメニューを終わらせてその後はウェイト等の筋トレ。

 間食やお昼ご飯を挟み、午後からは全体練習。


 「ばっちこーい!! ……あかーん!!」


 龍宮高校は普段必要以上に大声を出したりしないが、合宿が進むにつれて声が出てきた。

 大声を出して疲れを誤魔化そうとしてるんだけど、結果的に更に疲れるという。

 今もノックで大声出してたけど、足がもつれて転けてしまった。


 「今日が終われば3日まで休み。今日が終われば3日まで休み。今日が終われば3日まで休み」


 「俺、この合宿が終わったら一日中寝るんだ」


 念仏のように唱えたり、フラグの様な事を言って気を紛らわせつつも、最後の練習を乗り切る。


 「ありがとうございましたー!!!」


 そうして、地獄の冬合宿を終えた。

 来年もやる事を考えると今から気が滅入る。

 年が明けても筋トレ等は継続だから、筋肉痛とはまだお別れできないんだけどね。


 「終わった終わった! 明日は寝るぞー!!」


 「ねぇねぇ、みんなで初詣は行かないのー?」


 「あ、行こうぜ! 隼人は彼女か? なんだったら連れて来ていいんだぞ?」


 「あー、連絡して聞いておく」


 「みんな、新春ガチャの為の石は貯めてるだろうな? せっかくだから一緒に引こうぜ!」


 「なんか強いキャラが出るみたいだよね。お年玉課金しちゃおうかな」


 「課金はやめとけって。沼だぞ」


 地獄からの脱出にみんなテンション高めに、わいわいと話していく。

 金子なんて、涙を浮かべてるな。

 この合宿、あいつは中々追い込んでたからなぁ。効果が出てくるのは春辺りだろうけど、今から楽しみだね。


 「年内で会うのは今日が最後か?」


 「僕は明日、家族で豹馬のお風呂に行くよー」


 「年中無休って凄いよなぁ」


 年中無休、朝から6時から深夜0時まで営業しております。


 「んじゃ! みんな良いお年を〜!」


 怪我したりもしたけど、なんだかんだ今年は楽しかったなぁ。

 来年はセンバツもあるし、夏にも甲子園行けるように頑張ろう。

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