第95話 VS三高5


 点を取ってもらった後の攻撃。

 ここは無慈悲に絶望を与えるレベルで抑えたい。

 どうやったらこいつから点を取れるんだと思わせるぐらいに。

 具体的言えば三振。いつも通りですね、はい。


 って事で4番からの打順だけど、積極的に三振を狙っていく。


 1球目、2球目をアウトコースのストレートでストライクを取る。

 球速も140キロ後半が出てて絶好調。

 それでいて、無理矢理出力を上げてる感じでもないから、体の心配もない。

 ようやく、伸びた体に慣れてきたって感じかな。


 3球目。タイガが出してくるサインに首を振り続ける。

 見せつけるならここだと思うんだよね。

 タイガは溜め息を吐きながら、俺が待ち望んでいたサインを出す。

 俺は食い気味に頷き、コントロールミスしない様に注意して投げる。


 インコースのベルト付近の高さに投げられたボールは、失投かと勘違いした4番のバットから逃げていくように落ちる。

 ペロりと唇を舐めて、呆然としてるバッターを見ながらドヤ顔する。

 タイガは苦虫を噛み潰したような顔してるが気にしない。


 これが最近練習して投げていた縦のスライダー。

 スプリット程球速は出てないし、変化量もまだまだだが、奇襲には持って来い。

 これで相手は純粋に落ちるボールも警戒しないといけなくなった訳だ。


 「うひひひひ。びっくりしてるびっくりしてる。手首立てて投げてるから多投は出来ないけど、落ちるボールを習得出来たのはでかいな」


 その後、5.6番はストレートのみで三振を奪う。

 やっぱりさっきの縦スラを気にしてるな。

 球種が一つ増えるだけでこうなるんだから。

 ピッチングって本当に面白い。


 三高打線もパーフェクトに抑えられてるから、何か対策をしてきただろうけど、このタイミングでの新球種投入。

 我ながらファインプレーではなかろうか。


 「でもコースは結構甘めだったよ? もうボール一個分は低めに欲しかったね」


 「手厳しいですな。まだ練習し始めて1ヶ月も経ってないんだぞ?」


 「そんな球をこの大舞台で投げようとした神経を疑うね」


 それを言っちゃあおしめぇよ。

 霊山がさっさと崩れてくれないから見せつけてやりたかったんだ。


 「この調子で試合終了まで誤魔化したいな。次の回も楽な所で1.2球投げて、もっとインパクトを与えよう。多投出来ないのをバレない様にしないとな」


 「了解」


 さてさて、一人ランナー出たら俺まで打順回ってくるし、ホームランでも打ってこようかな。



 打順は回ってきたけど、潔く三振して六回表。

 7番の霊山から。

 こいつ、バッティングも中々良いんだよね。

 そこだけは負けてると認めてやらん事もない。


 しかし、俺のプライド的に霊山に打たれる事だけは許容出来ない。

 インローへのストレートで初球ストライクを取ると、そこから縦スラを2連発。

 空振り三振でワンアウト。


 霊山から三振を奪って気持ち良くなったのがいけなかったのか。

 続く8番にちょこんと合わせられて、センター前に落とされた。

 パーフェクトピッチングが途切れてしまったな。

 はなから出来ると思ってなかったけど。


 9番は最初からバントの構え。

 バントさせてアウト一つ貰ってもいいんだけどね。

 得点圏にランナーを進められて、1番の柳生ってのもなんか嫌な感じ。

 だから簡単にはさせたくないかなーって思いながら、ナックルカーブとツーシームを投げる。

 変化量の大きいナックルカーブはバントしにくいし、ツーシームは手元で変化するからな。

 だが、そこは強豪校。

 ツーシームをしっかり転がされ、送りバントを決められる。


 打順はトップに戻り1番柳生。

 出来れば得点圏で相手したくないけど仕方ない。

 正直敬遠するほどでもないし。

 白馬君なら考えたな。


 そんな事を考えながらストレートとチェンジアップ、ナックルカーブを使いワンボールツーストライクと追い込む。

 そして、空振りを取るつもりで投げたツーシームを詰まりながらもセンターに運ばれた。


 「あ、やべぇ。落ちるか?」


 ツーアウトなので、二塁ランナーはスタートを切ってる。

 俺はかなり焦りながらも、本塁へベースカバーに入る。

 打球はショートとセンターの間に落ちようかというところ。

 しかし、ウルが快速を飛ばしながら滑り込む。

 ギリギリの所でグラブに入りアウト。

 スーパープレーである。


 「うひぃー! 助かったぁ! ウル様ー! ありがとうございます!!」


 観客が大歓声を上げる中、ドヤ顔しながら戻って来るウルを迎える。


 「ナイスー!! 助かったぜ!」


 「正直追いつかないかなと思ったけど、取れて良かったよ。ま、これも僕の日頃の行いが良かったお陰かな。パンは貸し一つだからね」


 ここまで三高打線を一安打に抑えてる俺に貸しだとぅ?

 我らがチームメイトは優しくないね。

 それならもっと点を取ってくれってんだ。

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