第86話 父とタイガ


 「タイガはな、高校に入ってから飛ばそうという意識が強すぎるんだよ」


 練習が終わり、タイガとマリンを家に連れて来た。

 タイガは父さんにバッティングのアドバイスを貰いに。

 マリンは俺に新作の感想を貰いに。


 家に着いて銭湯で汗を流して、みんなでご飯を食べつつ、最近のバッティングのビデオを見る。


 「中学の頃は、軽く芯に当てるだけで外野の頭を越えてたけど、高校は一段レベルが上がってるからな。まぁ、簡単に言うとパワー不足だよ」


 父さんが中学の頃のタイガと今のタイガのビデオを見比べながら説明する。


 「で、長打が中々出ないから最近大振りになってきてるんだよ。自分でも気付いてない? 微妙な差だけど」


 「気付いてなかったっす」


 うーん? 俺にも分からんな。

 どこが違うのかさっぱりだぜ。


 「狼希もパワー不足で大振りになってたから注意しようと思ってたんだけどな。あいつは、最近それを割り切ったバッティングをする様になってるから大丈夫だと思う」


 あー確かに。

 最近わざと詰まらせて内野安打を連発してるな。

 ウルはタイガよりもパワー不足だし。


 「まっ、こればかりはすぐには解決しないよ。コツコツとパワーをつけていくしかない。急に無茶なトレーニングすると怪我するだけだしな。今年の冬で体をどれだけ大きく出来るかが重要だ」


 「なるほど。大浦が急に伸びたから俺も焦ってたんすかね。確かに長打に固執してる部分もありました」


 大浦な。

 龍宮高校の突然変異種。

 なんであんなに急激に伸びてきたのやら。


 「大浦はね、腰の使い方がとても良くなった。足腰がかなり強靭なんだろうね。夏と秋では別人だよ。ピッチャーの練習をして覚醒したらしいけど、そこで何か腰の使い方のコツでも覚えたんじゃないかな。数字で見てもスイングスピードが上がってるしな。あんな才能を見逃してたなんて、俺もびっくりしたよ」


 腰。腰か。

 俺には分からぬ世界だな。

 てか、スイングスピードなら俺も中々の物だと自負してるんだが?

 当たらないけど。


 「豹馬は致命的に目が悪い。深視力が壊滅的なんだろうな。UFOキャッチャーとかもド下手だと思うぞ。もし彼女出来ても調子に乗らない事だな。俺の息子なのに、なんでピッチャーの才能に全振りしたのやら」


 これは褒められてるの?

 呆れられてるの?

 父親にまで匙を投げられる俺の打撃センスのなさよ。

 悲しくなってくるね。


 「まぁ、バッティングを犠牲にしてもそれを凌駕するピッチャーとしての才能があって良かったな。お前はピッチャーとしてなら世界に出れるよ」


 うへへへへ。

 褒められてるんじゃん。

 三波豹馬は単純な人間なので。

 簡単にやる気になっちゃいますよ。


 「とりあえずタイガは、この秋、外野の頭じゃなくて内野の頭を超えるバッティングを心掛けよう。あんまり力を入れずに、芯に当てさえすれば簡単だろう」


 「分かりました。今日はありがとうございます」


 「いや、最近練習に行けてなかったからちょうど良かったよ」


 ふむ。

 これでタイガの最近の打撃不調もなんとかなるといいんだが。


 「じゃあ、次は私の番ね! はいこれ!」


 マリンが待ってましたとばかりに、カバンから新作を取り出す。

 相変わらず絵が上手いな。


 「ん? ケモ耳? BL本じゃないのか?」


 「BL本だよ? モデルはパンとタイガだけど、それにケモ耳をつけてみたの」


 ふむ……。これは…。

 中々の代物ですね。

 もう自分がモデルになってる事に疑問を抱かなくなってきた。


 「マリンちゃんは将来、こういうので生計を立てるの?」


 「いえ、趣味なんであんまりそれは考えてないです。コミケで出すくらいかな?」


 「そうなんだ。良く出来てると思うけど」


 「ありがとうございます!」


 父さんはね。

 自分の息子がモデルにされてる事に何か言うべきだと思うの。

 忌避されがちな趣味に理解があるのは良い事だと思うけど。

 実の父親に、自分がモデルのBL本を読まれるのは流石に恥ずかしいぜ。

 絵が上手いし、内容が面白いの相まって、文句を言えないのが辛い所です。


 「へぇー。ここで豹馬とタイガが…。なるほど。こういう展開になるんだね」


 あかん。

 やっぱり恥ずかしいです。


 

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