第87話 VS関東一高1


 「ふんふんふーん」


 「テンション高いね」


 そりゃもう。

 久々の先発マウンドですから。

 龍宮は後攻だからまっさらなマウンドだぜ。


 「出会い頭のホームランとか求めてないからね」


 「嫌な事を思い出させるなよ。今日は前回よりも調子良いから大丈夫だって。出力ギリギリの力加減も分かってきたし」


 「前回も似た様な事言って打たれてるんだよ? 信用出来る訳ないじゃん」


 辛辣〜。

 でも俺のせいなので言い返せない。


 「まあ、とりあえず今日はストレート中心で頼むよ。隙を見て、最近試してる変化球も投げるけど。ストレートをもっと磨きたいんだよね」


 「関東一高相手に舐めプする気?」


 「舐めプは言い方が悪い。実験だよ。ストレートの平均回転数を上げたいんだよね。ギアを上げたストレートは打たれる気がしないから、それをいつでも投げれるレベルに持っていきたい」


 「あれ、手首に負担がかかるんじゃないの?」


 「だから色んな投げ方を試そうかと。実戦での経験は得難いものがあるしな」


 「まぁいいけど。点取られそうになったらリード変えるからね」


 それはそう。

 負けたら元も子もないしな。

 チームの勝利と俺のレベルアップ。

 両方取りの欲張りセットを狙います。


 一回表の関東一高の攻撃。

 俺はストレートとチェンジアップのみで、三振二つと内野ゴロで三者凡退に抑えた。


 「うーん、イマイチ? ストレートが毎回無茶苦茶だから相手が戸惑ってる感じ」


 「仰る通りでございます」


 手首の角度を調整したり、指先の切る感覚を微調整したりしてるんだけど。

 どれもこれもしっくりこない。


 「球速自体はそれなりに出てるから抑えられてるけど、この調子じゃそのうち捉えられるよ」


 「すみません。精進します」


 タイガさんは辛口評価でありますな。

 期待の裏返しとポジティブに考えてますが。

 


 裏の龍宮の攻撃。

 先頭はお馴染みのウルから。

 最近は内野安打を量産して打率を上げてきている。

 本人もパワー不足と割り切って、このスタイルにしたらしく、ファールで粘って球数を投げさせたりと嫌らしいバッターになっている。

 これでパワーがもうちょっとついて、強い打球が打てる様になってきたらどうなることやら。


 しかし、この打席は7球目を見逃して三振。

 ウルは確信を持って見逃してたっぽいけど。


 「あの審判。外のゾーンがかなり広いよ。くさい所はカットしないとダメだね」


 「えー。俺が投げてた時はそんな事無かったけどな。むしろちょっと狭く感じたけど」


 帰って来たウルが納得いかなそうに話してくるけど、俺が初回投げた感じでは狭くてめんどくさい心配だなーって思ったんだけど。


 「そう? 僕の勘違いかな?」


 「うーん。どうだろ。俺も次の回はちょっとチェックしてみるけど」


 そう言いながらタイガの打席を見てると、外のボール球を引っ掛けて内野ゴロに倒れていた。


 「ウルが外のゾーンが広いって言ってるけどどうだった?」


 「広い。広すぎる。ボール一個は絶対に広い。あれはダメだよ」


 タイガがプンプンしながら感想を言ってくる。

 タイガもそう感じるなら、ウルの勘違いって事はなさそうだなー。


 「俺の時は狭く感じたんだけど?」


 「うん。ちょっとおかしいよね。次の回はちょっと球数使って確かめてみよう」


 「あいあい」


 そして、3番のレオンも見逃し三振。

 無表情で特に気にしてなさそうだけど、レオンが見逃し三振なんておかしいだろうよ。

 こいつの選球眼はチームでも随一だぞ。


 もしかしたら今日は審判との戦いになるかもしれんな。

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