第37話 VS松美林3


 四回裏の龍宮の攻撃は得点圏にランナーを進めるも無得点。

 初回からずっとこんな感じ。

 最後の一本が出ない。

 なんか嫌な感じ。

 相手ピッチャーはこれといって特徴のあるタイプではない。

 創英のエースの西の方が断然手強かった。

 不思議ですね。


 五回表、内野の間を抜けるヒットを打たれるも、その後をしっかり抑え一応今日の責任回を終える。

 調子は良くないがもう少し投げたい。

 白馬君にリベンジしたい。


 「豹馬、もうちょいいけるか?」


 「願ったり叶ったり! でもなんでですか?」


 「こういう、なんでか最後の一本がでえへん時は試合が長引く事があるんや。延長も見越すとなると三井を出さずに温存しときたい」


 なるほど。監督の経験ってやつですか。

 俺からしたらどんと来いですね。

 力抜いて投げてるから肩肘を消耗してる感じもないしね。


 監督の言葉通り五回裏も得点が入らず続投。

 六回表は白馬君に打席が回ってくる。

 次こそは仕留めてやるぜぇ。


 先頭バッターをレフトフライに打ち取り、迎えるは天敵白馬君。


 初球、アウトローへのチェンジアップ。

 前の打席で打たれたボールで入る。

 中々に勇気がいる事だが、見送ってストライク。


 続いてアウトハイへのストレート。

 これは振り遅れてファール。

 よしよし。追い込んだぞぉ。

 ここからは慎重に行かねばなるまい。

 焦って打たれたら元も子もないからな。


 3球目はアウトコースへ外れるスラッター。

 しっかり見送られ、ワンボールツーストライク。


 4球目はインローへのフロントドアのスラッターをカットされてファール。

 簡単にバットに当てないで欲しいんだけどなぁ。

 最初はレオンにも通じたのに。

 バットコントロールはレオン以上かね。


 5球目はインローへのツーシーム。

 これはストライクからボールになるコースへ。

 白馬君はストレートだと思ったのか、空振り。

 三振である。


 思わずガッツポーズしてしまった。

 いや、後1人残ってるんだけど。

 それを忘れてしまうくらい嬉しかった。

 んはぁー。汁出た。脳内麻薬がえらい事なってる。


 そのままの勢いで続くバッターも三振に抑えチェンジである。


 「抑えたのはいいけど、かなり神経使った。体は疲れてないけど精神的にはヘトヘト」


 ベンチに戻ってラムネを食べる。

 糖分が足りてねぇ。

 口に入るだけ放り込んでエネルギー補給。


 「どうする? 代わるか?」


 「いや、勝ち越すまでは粘ります。先輩もこのピリピリした状態で交代はしんどいと思いますし」


 「ほな、頑張ってもらおか」


 「了解です」


 ビシッと敬礼してネクストに向かう。

 この回は俺に打席が回ってくるんだよ。

 はいはい、自動アウト自動アウトとか思いながら素振りする。

 なんでこんなにセンスないんですかねぇ。

 前世ではもっと打ててたと思うんだけど。

 内心でぼやきながら打席にいく。

 ツーアウトながら1.2塁とチャンスではある。

 ベンチをチラッと見るとみんな守備の準備をしている。

 ベンチの暖かさに涙がでるね。

 せめて声掛けでもして期待してるフリぐらいはして欲しいもんだ。

 アウトコースのストレート一本狙いでいきまーす。

 腕が長いからインコースは苦手なんだよね。

 相手もそれを分かってるからか、インコースはゾーンにアウトコースへはボールと徹底していじめてくる。

 教育委員会に連絡しますよ?

 そんな事を考えてたら一回も振らずに追い込まれたので、とりあえず次ゾーンに来たら振るかぁとヤケクソ気味にスイングする。


 カッキーーン!!!


 「え?」


 「「「「え!?」」」」


 俺とベンチのみんなは呆然と打球を見送る。

 ポカーンである。

 白球は白馬君を超えてバックスクリーンへスリーランホームラン。

 俺はハッと我に返り、ダイヤモンドを一周する。

 ベンチに帰ると祝福の嵐。


 「お前、クスリでもやったんか?」


 「1年に1回あるかないかの当たりだったな!」


 「パンってあんな綺麗に打つ事あるんだね!」


 「今年の運は使い切ったんじゃねぇ?」


 「明日死ぬんか?」


 こんな暖かいチームメイトを持てて、私、三波豹馬は幸せ者です。

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