第5話 邂逅
そろそろ限界なんではなかろうか。
果てしない時間をかけて、練習した。
クイックも牽制も打球処理も。
出来る事がどんどん増えて、それを極めていく事にやる事が減って。
息抜きにバッティングも練習した。
結論はピッチング程センスはなかった。
メジャー級のピッチャーのボールはまぐれでしか打てない。
目がついていかない。
高校野球レベルでしか通用しなさそう。
「あー、お酒飲みたい、タバコ吸いたい、セックスしたい。野球アドレナリンが無くなって一気に欲求が…」
虚無りそうになると独り言で誤魔化す。
俺という人間は本質的には俗物だと思う。
お金は好きだし、女性も好きだし、お酒もタバコも好きだし、ギャンブルをしなかったのが唯一良かった点か。
まぁやり方が良く分からんというのが正解なのだが。
今まで、野球が出来なかった反動でずっと熱中してきたが、やる事を極めていくと別の欲求が出てくる。このままだと、廃人になっちゃうぞーなんて軽く考えていると。
「ほう。今回の魂は中々であるな。今までで、最高の耐久時間である」
「ほぇ? え? 久々に他の声聞こえたぞ?幻聴か?とうとうお迎えですかね?」
「迎えといえば迎えである。転生ではあるがな」
「転生!? まぁ、正直期待はしてたけどまさか本当に出来るんですか? いや、待て待て。聞きたい事が多過ぎる。まずあなたは誰ですか?」
俺氏、大混乱である。
ずっと1人だったからテンパりまくりである。
転生は期待してた。
というより、このまま生まれ変わりでもしたらモテモテだし、お金もウハウハだろうなーなんて妄想してただけであるが。
「混乱するのも無理はあるまい。順を追って説明しよう。まず、私は魂の管理者である。神のパシリだとでも思ってもらえば良い。魂は普通、死した後輪廻の輪に加わるのであるが、極稀に逸脱するものがいるのだ。それは、お主というわけだな。こういう逸脱したものは未練のあるものが多い。お主の場合は珍しく野球であったが大抵は、研究者や芸術家なのだ。だから死後、逸脱したものは好きにさせておいて、ある程度たったら生まれ変わらせる。すると偶に思いもよらぬ発明や作品が出て来ておもしろくもなり、発展するという訳だな。あくまで、偶にであって全部の魂が成功する訳ではないが」
「ほほー。もしかしたら歴史の偉人とかも転生とかしてたのかな? まぁ、それはいいや。でも俺そこまで野球に未練あったのかな? 自分では分からんかっただけかな。とりあえず現状はわかったし、管理者さんが出てきたという事は転生ですか?」
「うむ。転生するにあたってのルールの説明とある程度の要望を聞く事ができる。まぁ些細な事だがな。ルールも簡単である。記憶を保持したまま転生させる訳だが、その事を誰にも言うな。それだけだ。記憶はどのように活用しても構わんがそれを転生したお陰と吹聴するなということだ」
それだけ? っていうかそれは言っても信じてもらえる訳ないと思うんだけど。
その程度なら全然オッケーである。
後は、要望か。
些細ってどのレベルなんだろうか。
「えっと、要望っていうのは、例えばどんな? 健康な体とかですか?」
「ふむ、健康な体も聞く事ができるぞ。後は、どの国に生まれたいだとかだな」
「あーそれじゃあ、健康で怪我しにくい体で生まれは日本人、成長したら今のこの体になる事は出来ますか?ずっとこの体で練習して来たんで。後、普通に野球させてくれる家庭環境がいいです」
我ながら結構無茶苦茶言ったかなと思う。
でも、健康体で怪我しにくい体って重要だと思うし、住むのは日本以外あまり考えられない。
数年とかならアメリカに住んでみたいなとは思うが。
成長した時の体はまぁ理由はそのままだ。
家庭環境は、おまけレベルであるが、親に反対とかされると面倒くさい。
「うむ。その程度なら可能である。だが、健康はあまりに不摂生な生活されると病気になるし、怪我もあくまでしにくいのであって、しないというわけではないのを忘れるな。生まれと家庭環境は問題ないが、成長した時の体はお主次第である。幼少期より無茶なトレーニングをしたりすると成長を阻害するでな」
おぉ。まさか全部通るとは。
俺次第な所もあるがパーフェクトである。
「はい。わかりました。ありがとうございます。これで新たな人生はとても楽しめそうです」
俺は思わず土下座してしまう。
それぐらい嬉しいし楽しみであるし、わくわくしている。
「よろしい。では、そのまま魂を飛ばすでな。次の人生では良き時間を過ごしてくれたまえ」
管理者さんがそう言うと、俺は目が開けていられないぐらいの光に包まれる。
あぁ。次の人生では、絶対プロ野球選手になるぞ。
そして長身で美人な巨乳ギャルと結婚するんだ。
最後に考えていたのはそんな事だった。
俺はやはり俗物なのである。
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