第3話 変化球


 トラッキングマシン良い。

 もう俺はこいつ無しでは生きていけない。

 死んでるんだが。


 とりあえずストレートは満足いく出来になったと自負している。

 コントロールも9分割で投げれる様になったし、球速も162キロまで計測した。

 ストレートだけならメジャーでも通用するだろう。

 まぁ、そこに至るまでの時間は果てしなかったが。

 体感では10年は軽く超えている。

 1人孤独で黙々と。

 何回も虚無感に襲われたが、最高球速を更新していく喜び。

 フォームを改良していく、なんていうか進化的な感じ。

 脳汁が溢れ出したね。

 それなりにやり切った感があるので、ここらで変化球に手を出そうという訳だ。


 俺が中学時代に投げていた変化球はナックルカーブとチェンジアップの2種類のみ。

 本当は、スライダーとツーシームも投げたくて練習してたんだが、肘に負担がありすぎた。

 まだまだ体が出来てなかったし、中学レベルならその2種類で抑えれてたから、もう少しインナーマッスルとかを鍛えて高校で仕上げようなんて考えてたんだ。

 まぁ、結局怪我しておじゃんになったわけだが。

 だが! 今の俺には心強い味方のトラッキングマシンやその他、各種機材がある!

 そして、死んでるからか、怪我の心配もない。

 これで心置きなく、各種変化球を鍛えれるって寸法よ。

 勿論、本当は怪我するかもしれないので、負担の無い投げ方を模索していこうとは思っているが。

 まずは、チェンジアップからだ!





 チェンジアップは順調だな。

 正直、多少なりともフォームが崩れるかと思ったが、ストレートから抜くだけだからか、かなり良い感じである。

 コントロールはまだまだ甘いが、元々スクリュー気味に落ちる球だったし、球速も130キロ台前半としっかりと抜く事が出来てると思う。

 もう少し投げ込んでビタビタのコントロールを身に付けよう。





 ナックルカーブは曲者すぎる。

 元々指で弾きながら抜いて投げる球なので、コントロールが難しい。

 ある程度は思った通り投げれるんだが、完璧なコマンド能力とは程遠い。

 そしてフォームが崩れる。

 ぱっと見では分かりにくいが、機材で見れば一目瞭然である。

 これはまだまだ突き詰めていく必要があるようだ。




 2年ぐらい掛かったんじゃないかな。

 息抜きにストレート投げたりチェンジアップ投げたりしたが、それぐらい難物であった。

 だが、時間を掛けただけあり、満足のいくコントロールも得られたし球速も140キロ後半が出る事もある、魔球レベルである。


 ここからは自分的には未知の領域である、スライダーとツーシームも習得していく。

 ナックルカーブ以上に時間が掛かるだろうが、問題ない。

 とにかく楽しい。これに尽きる。






 投げてる内にスライダーが2種類なった。

 1種はスライダーというよりもカットボールみたいであるが、俺的には曲がりの小さいスライダーである。

 今はスラッターなんて言い方もあるよね。

 実は少し憧れてたんだ。

 これでバックドアやフロントドアも使えるよねって。

 必殺技みたいで高校に入ったら絶対習得しようと思ってたんだ。

 球速も150キロ台が安定して出るようになった。


 もう1種は、曲がりの大きいスライダー、スイーパーである。

 これも名前がかっこいい。

 だがスラッター以上にコントロールに難がある。

 とにかく変化し過ぎるんだ。

 これを制御するのになかなか苦労した。

 でもこれを身に付ければ凄い武器になるぞ! と自分鼓舞して頑張った。

 今の所披露する予定は無いんだが。

 球速は制御に重きを置き過ぎて思った程出てないがそれでも140キロ後半は出る。





 ツーシームはあまり時間は掛からなかった。

 勿論、肘に負担があまりないような投げ方の模索をしたりしたが、基本的はストレートの握りを変えただけなので苦労はしなかった。

 ちょっと変化量が多過ぎて高速スクリューみたいになってるが問題ない。

 150キロ後半のスクリューって、もう無敵ではなかろうか。



 そんな魔王的高笑いをしながら、各種変化球のコントロールやフォームを調整しつつ、ストレートも交えてコンビネーションの練習をして、本当に時間感覚が無くなって、何年経ったかも分からなくなった頃。

 思ってはいても口には出さなかった事がある。

 これをしてしまえば、本当に沼にハマると確信していたからだ。



 「バッター出せるよね?」

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