第2話 孤独な練習
会話がない。
ロボットキャッチャーはこちらの要求に応えてくれる様だが、話かけても反応がない。
キャッチャーボールをしてるが、言葉のキャッチャーボールがない。
それはさておき。
キャッチボールしてても分かる。
自分の指先の感覚が、怪我する前に戻ってると。
というか、俺の今の体は何歳ぐらいだ?
身長は多分生前と同じ。中学2年の時でも180cmと平均より高かったのだが、野球を辞めてからこれから成長期ですという様に身長が更に伸びて高校卒業時、198cmでそこからは伸びていなかったはず。
全盛期の頃の体の再現なのかな?と自己完結しつつ、ウォーミングアップを終える。
「キャッチャーさーん。座ってもらっていいですかー?」
俺の言葉に応える様にキャッチャーさんが座って構えてくれる。球種とか言った方がいいのかな?
まぁ、いいか。
とりあえずストレートを投げて感覚を取り戻していこう。
ノーワインドアップから体を少し捻る。なんちゃってトルネードだ。
そこから、出来るだけ足を内側に踏み出して少し窮屈になる。
腕が遅れてくる様に調整して最後に鞭の様にしならせる。
これが左殺しと言われた俺の投球フォームだ。
キャッチャーの構えた所にズバッと決まる。
あぁ、気持ち良すぎる。そうだ! そうだよ!
この感覚だよ!
久しぶりすぎて涙が出そうになる。
死んでるはずなので、出るかわからんが。
忘れないうちにどんどん投げたい。
「適当に色々なとこに構えて下さい!」
俺は我を忘れて構えた所にどんどん投げ込んでいく。
しかし。
「コントロール終わってんな」
最初の1球は構えた所にいったが、それからがひどい。
まぁ、指先の感覚が戻ったとはいえ、もう何年投げてないんだって話だし。
ちょっと調子に乗りすぎたな。コントロールも意識してしっかり投げ込んでいこう。
そこから、丁寧に投げ込んで30分程したころ。
「疲れないんだが? 死んでるから疲労はありませんってか?」
全く疲労がない。肩も肘も熱を持ってる気がしないし、足腰も消耗していない。
まぁ、いいか。
とりあえず今は投げるのが楽しい。
今はひたすらストレートを投げて、コントロールの精度を上げていこう。変化球はその後だ。
マジでずっと投げていた。
1時間、2時間と時間が過ぎて、ふと。
「スピードガンとかないの?」
言った瞬間、キャッチャーの真後ろに球速掲示板がでてきた。
「本当にどうなってんだってばよ。野球関連の事は言ったらなんでも用意してくれんのか? じゃあフォームチェックとかスピン量とか測りたいんだが!?」
高性能っぽいビデオカメラやパソコン、なんか体にペタペタ貼って色々調べるんだろうなっていう器具とか出てきた。
「えぇ…なんか怖くなってきたけど、今更感もあるよなぁ。体に貼るやつとか使い方知らないし」
取り扱い説明書とかあるんですかねぇ。
とりあえずビデオカメラを設置して投げてみますか。
ふぉぉぉぉ! 148キロ出てるんだが! コントロールはまだまだだがこれは150キロも夢ではない!?
ここからフォームチェックやらなんやらしたら、もっと出るかも??
これは器具の使い方を覚えねば!
ちょっとピッチング練習は中断じゃい!
すげぇ。俺もそんなに詳しい事は分からないんだが、俺の知ってる以上の科学アプローチであらゆる動作解析が出来る。
重心移動からボールを離す時のタイミング等々、ありとあらゆる事がわかる。
フォームを微調整しては投げ、1人で試行錯誤していく。それこそ時間を忘れるように。
もう何時間経ったかも分からないし、数日経ってるかもしれない。
それでもひたすら試行錯誤する。
だって楽しいから。
自分の中では完璧と思ってたフォームもまだまだ全然完成形ではなかったと知った時は落胆より興奮が勝った。
とりあえずなんちゃってトルネードはあまり意味ないらしい。
気持ち的には捻る事によって回転運動が上がって球速が上がってると思ってたんだが。
まぁ、やってもやらなくても変わらないならやるんだが。
トルネードかっこいいので。
後は、変に足首や、股関節に負荷が掛かってるのを調整したりとかなり有意義な練習が出来ている。
そして。
「ふははははは!! 俺様は遂に次の領域へと至ったぞ! しかも! まだまだ改良の余地はあるときた! もっともっと効率を突き詰めてやる!」
テンションが上がり過ぎてハイになってしまった。
でもそれも仕方ないのだ!
とうとう! 大台の150キロを超え、今では最速156キロである!
コントロールはこれからだが…
もう何日やってるか分からないけれど、まだストレートだけなんだよなぁ。
ストレートを仕上げたら変化球に手を付けたいのだが。
楽しいからいいか。
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