第369話 天狗



 『幼天狗

  名前  無し

  【魔物能力】

  音魔法    』


 「はぁ?」


 「ぴぃ?」


 なんだこれ? 幼天狗? 日本でもそんなの聞いた事ないぞ。いや、日本で聞いた事あるのが出て来るのが普通はおかしいんだけど。


 ずっと前から天狗とか欲しいなぁとは思ってた。酒呑童子に玉藻前が出てきたんだ。そういうかっこいい妖怪シリーズを眷属に出来たらなぁって。でも結局、なんの魔物から進化させたら良いのか分からなくて諦めたんだ。


 後は八岐大蛇ね。そういえば良い感じの蛇系の魔物にも出会った事ないや。一時はヒュドラで誤魔化そうか考えてたし。


 「余りにも俺に都合が良すぎる。誰かの介入を疑っちゃいますねぇ」


 ねえ? ノックス様? あなた何かしてません? じゃないとこんなピンポイントで出てくるなんてありえないと思うんだけど。


 「ぴっぴっぴっ!」


 「テンション高いな」


 魔力の渦から出てきた幼天狗は俺を一切警戒してない。手の代わりであろう翼をパタパタさせて、俺を見ている。なんか可愛い。


 …………まあ、とりあえず連れて帰るか。ノックス様が介入したのか、それとも俺が奇跡的な幸運を発揮したのか。


 絶対に前者だと思ってるが、せっかく欲しかった天狗なのだ。これを見流す訳にはいかない。


 問題はまだ蟲領域に滞在する期間が二ヶ月ほど残ってるという事だ。例外的措置として、今帰ってもグレースは認めてくれるかどうか…。


 無理だろうなぁ。これ幸いと勝ちを主張してくるに決まってる。


 「仕方ない。二ヶ月は俺が面倒を見るか」


 俺には妲己を立派に育てたという実績がある。あの子は元から賢かったけど、二ヶ月ぐらいならどうとでもなるだろう。


 レト流子育て術を見せてやる。


 「そういえば…」


 「ぴぃ?」


 俺の周りを楽しそうにくるくる回ってる幼天狗の顔をジッと見る。幼天狗が不思議そうに首を傾げてるのが可愛い。


 「鼻は長くないんだな」


 「ぴっ!」


 翼でペシって叩かれた。なんか言ったらダメな事だったのかな? 俺の勝手なイメージで、天狗は顔が赤くて鼻が長い山伏みたいなのを想像してたんだけど。錫杖かでっかい扇子なんて持っちゃったりしてさ。


 でもこの幼天狗は、見た目はハーピーにしか見えない。ハーピーと違うところは色だけ。天狗ってより、ハーピーのアルビノって言われた方がしっくりくる。


 「その辺は進化でなんか変化でもあるのかね? 要観察だな」


 そろそろ俺の進化が近いからペースアップしたいところだったけど、とりあえず今回の残りの二ヶ月はこいつの面倒を見る事に注力するか。


 次の遠征から本気を出そう。うん。


 「そうと決まればお前の名前を決めてやらないとな。なんか天狗っぽい名前が良いけど…」


 「ぴっぴっぴっ!」


 可愛いんだよなぁ。天狗は渋い名前っぽいって勝手な偏見を持ってるから、解釈違いな名前を付けたら脳がバグりそう。


 可愛くて且つ渋い名前か…。


 ネーミングセンスがない俺にはちょっと難しいですよ。

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