第361話 映画
「すげぇ、すげぇ、すげぇ」
「レト様静かに」
「すみません」
ウェインの説得が終わったら、俺は自由時間。半年の休暇期間を楽しんでやるぜと思いながら、特に予定もなく城を歩いてたら、食堂からお菓子やら、ジュースやらを大量に持ち出して、猛ダッシュしてるローレライとパトリック、ロマン、キンブルとそのハーレム達何人かが居た。
ローレライとパトリックとロマンは分かる。あいつらは仲が良いからな。けど、キンブルとハーレム達? 一体どういう組み合わせだと思って俺は後ろから着いて行った。
で、城の一室。まるで映画館みたいになってる場所で、さっきのメンバーが上映を今なお今かと楽しみにしてた訳だ。
まず城にこんな設備があった事が驚きなんだけど。ここ、一応俺の家の中だよね? いつの間にこんな映画館が…。
それにビデオやらが発明されてるのは知ってたけど、映画まであるなんて…。
俺がすげぇすげぇとbotみたいになってたら、ローレライに映画館では静かにするのがマナーだと説教された。おっしゃる通りなので、静かにしながら俺も映画を見てみる。
まだまだ映像は荒いけど、確かに映画だ。なんでキンブルが来てるんだと思ってたけど、その理由も分かった。
キンブルハーレムの一人が主演女優的な感じで出てるからだ。
「これ、脚本とかどうしてんだろ…。ん? いや、なんか知ってる話だな」
俺は一人でぶつぶつと小声で言いながら、見てたら知ってる話だった。向こうの大陸で有名な英雄譚だ。片田舎に生まれた少年が、数々の苦難を乗り越えて英雄になる話。
これ、前世ならパクリとか言われちゃうよね。勝手に映画にしてるんだから。まあ、どうでも良いけど。
「実際に魔法とか使えると映えるなぁ」
映像技術はまだまだ前世の方が上だけど、CGとか無しに魔法を使ってる分、滅茶苦茶迫力がある。
まあ、前世で映画をあんまり見た記憶がないから、あれだけどさ。
そして約二時間の映画が終わってエンディング。しっかりと製作に関わった人間の名前を出したりと、本当に前世の映画を見てる気分になってくるな。
「これって、国のみんなも見れるようになるの?」
「いや、これはこの国で作られた初めての映画で公開する予定はないみたいだよ。どうもヤミキザ君は、まずは一本映画を作ってみて、出来栄えを確認してみたかっただけみたいだし」
「なんで? 普通に良い出来だったけど」
映画が終わってキンブル達に聞いてみる。ヤミキザ君というのは、小人の男でこの映画の総監督的な立場のやつだ。小人にしては珍しく、手先が不器用だけど、発想力とかアイデア力は良くて、色んなところでアドバイザーみたいな仕事をしてた奴だって聞いてる。
会った事があるかどうかはちょっと思い出せないけど。
「いや、だってこの話…。最後のボスはワイバーンだよ? そんなのこの国の成人してる子なら、誰でも倒せるじゃないか。英雄譚にはならないでしょ?」
「まあ…」
確かに。向こうの大陸基準では強敵で、ボスとして相応しい相手だろうけど、この大陸の人間が見ちゃうとね…。ワイバーンに熱くなって死にそうになってるのは茶番かもしれない。
「自分達に映画を作れるかどうかを確かめる為に、とりあえず原作に忠実に再現してみたみたいだよ。僕もこの作品の原作を見た事はあるけど、しっかり出来てると思う。あ、そうだ、レト様もこれ」
「ん?」
「ヤミキザ君に頼まれてるんだ。忌憚ない意見を頼むよ」
キンブルにアンケート用紙みたいなのを渡された。この映画を観て思った事や、良かったところや、悪かったところ、改善してほしいところがあれば書けるようになっている。
こういうのも将来色んな人が出てきて職業になっていくんだろうな。俳優女優もたくさん出る事だろう。
「あれ? これって製作費は誰が出してるの? 結構お金使ってるような気がするけど」
「ヤミキザ君が色んな人に寄付を募ってたよ。僕もいくらか出したしね。眷属の中ではウェイン君やテレサちゃん、後はグレースさんも出してたんじゃないかな。凄いよね、ヤミキザ君。あのグレースさんにお金を出してくれませんかって直談判しに行くんだから」
「行動力」
後から聞いた話だけど、眷属のほとんどの奴らが出資してたらしい。ヤミキザ君が眷属全員に直談判しに行ったんだとか。
理由はお金をいっぱい持ってそうだから。馬鹿みたいな理由だけど、それで眷属に突進していけるのは凄いよね。
結局成功する人ってのは、ありえないぐらいの行動力がモノを言うのかもしれん。まあ、それで失敗する人もいっぱいいるだろうけど。
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