第360話 説得
「開発をやめるんだぞ…?」
「いや、やめるというか、なんというか…。ちょっとペースを落として欲しいらしい。扱う側の体制が整ってなくて、ウェインが張り切って開発してくれても、使えないらしいんだ。それって勿体ないだろ?」
「確かに…。道具は使われてこそなんだぞ」
グレースと話し合った翌日。俺は文官達に吸血鬼を召喚して焼石に水程度の人員補給をした後、手土産を片手にウェインの説得に来ていた。まあ、手土産って言ってもただの素材なんだけど。
俺は相変わらず蟲のボスである蝿野郎には手を出さず、蟲領域を探索してるんだけど、とにかく広い。
何回行っても新種の蟲の魔物が見つかる。それを写真に撮って、テレサのお土産に、仕留めた素材はウェイン達生産連中のお土産にして、ご機嫌取りをしてる訳だ。
今もウェインは新しい素材を舐めるように観察しながら俺と話をしている。一瞬、開発をストップしてもらいたいって言った時は、絶望したような表情をしてたけど、理由を話したら一定の理解は得られた。
「グレース達も使いたいのは山々って言ってたんだけどな。ほら、今はお祭りの企画やらで忙しいだろ? それでそっちまで手が回らないらしくてさ」
「仕方ないんだぞ…。当分は育成に力を入れるんだぞ」
「まあ、そうしてくれると助かるな」
ウェインは教え上手だからな。テレサは意外と、理論派の皮を被った感覚派なんだけど。学者みたいな仕事をしてるくせに、ここ1番ってところでは、自分の感覚を信じてる気がする。
「じゃあ、レト様にはこれを持ってて欲しいんだぞ」
「ん? 何これ?」
「レト様が暇な時に言ってくれる前世の知識をまとめたものをメモったものだぞ。これを見て次に何を開発するか決めてるんだぞ」
「あーそう言えばそんな事をしてたな」
まだ国を作る前に、主に影の中で生活しながら冒険とかしてた時に、暇があったら前世の話とかしてたんだよな。俺のあやふやで適当な知識をウェインはメモって、今現在に至るまでまで大事に保管してたらしい。
凄いよね。テレビとか電話とかさ。車とかもそうだけど、本当に俺は原理とかを知らない。でもウェインは、完成形から想像してここまで作ってるんだ。
ペラペラとノートにまとめてある色々な案を見ながら感心する。中にはロケットの理論とかも事細かく書かれててびっくりだ。
合ってるかは分からないけどさ。ちんぷんかんぷんだし。いつか宇宙に進出する時があるかもしれん。
「あ、でも今使ってるものは完成までやらせて欲しいんだぞ。これはグレース姉ちゃんにも頼まれてる事なんだぞ」
「ん? なにを作ってるんだ?」
「これなんだぞ。もう試作品は完成してて、今は不具合がないか確認してるとこなんだぞ」
ウェインがそう言って魔法鞄から取り出したのは、前世でも見た事があるものだった。
「コピー機?」
「前にグレース姉ちゃんにこのノートを見せた時に、食い付いたんだぞ。これがあれば書類仕事が格段に楽になるとかなんとか言ってたんだぞ」
「ほーこんなもんまで出来てたのか」
確かにこれがあれば楽になるだろうなぁ。今までテンプレの書類とかも一枚一枚手書きで作ってたみたいだし。
やっぱり原理は分からないけど、見た感じ前世で見たコピー機と同じ感じだ。紙を挟んでボタンをポチッとしたら、転写されて出てくる。
そろそろテレビゲームの開発とかしてくれないかな。滅茶苦茶暇を潰せる気がする。まあ、それを今言ったらグレースに怒られそうな気がするから、我慢しないとなんだけど。
祭りに集中するって約束したからね。
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