第349話 蟲のボス


 「おい。あんまり近付くな。カブトとクワガタが合体したロマン生物だからって、チヤホヤしてもらえると思うなよ。特に好きじゃないって奴もいるんだからな」


 「ギギギッ」


 「ったく。変に懐きやがって」


 影の中で仮眠をして目覚めると、おはよう! とばかりに飛び込んできたヘラクレスギラファ。


 なんか懐かれた。



 ある時。無限にいるんじゃないかって思える程の蚊の処理に勤しんでると、蚊が何かに群がってた。


 よく見るとヘラクレスギラファが蚊に集られて攻撃を受けてるではありませんか。いつもの逃げ足はどうしたんだよと思いながら、なんだかんだ暇潰しの喧嘩相手として重宝してた事もあって助けてやった。


 すると懐かれた。もう手のひらグリンで懐かれた。それからずっとこんな感じだ。どっか行けって言っても、忠犬みたいについてきやがる。


 「まあ、良いか。ここから出る時にもついてくるようだったら眷属にしよ」


 それはさておきだ。

 とうとう蟲領域のボスの縄張り近辺まで辿り着いた。


 いつでも特攻をかけられるんだけど、躊躇している。


 ゴキブリや蚊なんて目じゃないくらいにとにかく気持ち悪い。そしてこいつが持ってる能力は最悪だ。竜王が相手にしたくないってこういう事だったんだね。


 俺はてっきり強さ的な面で嫌なんだと思ってたんだけど。どうやらそうじゃないっぽい。まあ、強さもそこそこだろうけど、単体での強さならヘラクレスギラファの方が強いんじゃないかなぁ。


 「蝿かー。なんか確か蝿の王的な話があったよね」


 ベルゼブブ? ベルゼバブ? そんな感じで名前はカッコいいけど、蝿なんだよぁ。


 「ギギギッ?」


 ヘラクレスギラファが自分、いっちょやってきましょうか? みたいな事を言ってくるけど、あれは一匹倒したところで意味がない。


 大きさ的には蚊の魔物よりも一回り大きいくらい。まあ、大体50cm〜1mくらいの間かな。


 当然それがうじゃうじゃいる。で、どれがボスなのって話なんだけど。全部がボス。全部が手下。そんな感じ。


 とりあえず現時点で存在してるボス個体を倒しても、そいつは卵を産み落として、別の個体に生まれ変わる。


 これが卵から産まれてくるなら、即座にその卵を潰してしまえばなんとかなったんだけど。普通に生きてる別個体に王として生まれ変わるんだよね。


 しかも死んだ時は自動的に卵を産むみたいだけど、別に死ななくても卵は産める。だから、数は増やし放題。少数の個体をどこかに隠しておいたら絶滅もしない。


 で、放っておいたらまた数を増やす。蝿一匹の強さは確かにヘラクレスギラファより下だけど、滅茶苦茶下って訳でもない。数で押されたらどうしようもないだろう。


 竜王がブレス一発で森を消し飛ばそうにも、どこかに隠れた生き残り個体がいたら、そう時間も経たずに元の勢力として復活する。


 くそみたいな無限ループである。実質殺しようがないのだ。


 「フェニックスより不死してない? マジでどうすっかな」


 まあ蟷螂より経験値効率は良い。無限経験値野郎が増えたと思えば良いのかね。


 「でも俺が期待してたボスはそういう事じゃないんだよな。打倒竜王の足掛かりになるかもと思ってわざわざここまで来たのにさ」


 「ギギギッ」


 やっぱり地道に経験値を溜めて進化するしかないのかね。俺が一番苦手な事なんだけど。


 流石に半年ちょっともこんな何もない森の中にいると飽きる。でも戻れない。俺の今後10年が終わってしまうから。


 あー帰りたい。

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