第348話 半年


 「うるせぇ! お前ら全員焼き払ってやる!!」


 ブーンという音にイライラして、魔道具の火炎放射みたいなのを、俺の周囲に振り回す。


 蟲領域を探索して半年。そろそろボスの姿を見れるかなーなんて思ってたら、強くはないけど、イライラする魔物に出会ってしまった。


 蚊の魔物である。こいつら、一匹一匹は弱いんだけど、とにかく数が多い。大きさも30cm〜50cmぐらいの大きさだし、たまったもんじゃない。


 「血を吸うのは吸血鬼のアイデンティティだぞ! お前らは全滅させちゃる!」


 こいつからが複数匹集まると、もう何か黒い物体にしか見えない。隙を見て血を吸ってこようとするんだけど、あれは小さいからなんとかバレずに人から血を吸えてたんだ。


 流石にどんな鈍感野郎でも30cmオーバーの蚊が、体に張り付いて血を吸おうしてきたら気付く。


 「もう採血なんよ」


 肉眼で把握出来るぐらいに立派な針を、必死に俺に突き刺そうとしてくる蚊。体のデカさからして、もし吸われたら、その量は半端ない事になるだろう。


 まあ、俺はどれだけ吸われようが、血のストックは大量だから大丈夫なんだけど。


 そして蚊の何が一番ムカつくって、羽音である。前世でも寝てる時とか、耳音でぷーんって飛ばれたら、マジでイライラした。


 あいつら、どれだけ厳重に入ってこないようにしてても、いつの間にか存在してやがるからな。俺はこの世で信用しちゃいけないのは、人間と網戸だと思ってる。




 「はぁ。ここら辺になってくると、個で強いってより、数で圧殺みたいな魔物が増えてくるなぁ」


 とりあえず目に付く限りの蚊を焼却処分して、影での中でため息を吐く。


 ヘラクレスギラファくらいか? あいつは未だにこっちにちょっかいを掛けてくる。なんか近所の悪ガキを相手にしてる気分なんだよね。


 後は、さっきの蚊もそうだし、浅い場所で出て来た蟻とか蜂の上位互換みたいな魔物が出てきたり。とにかく数が多い。まあ、経験値はそれなりに美味しいから、良いんだけどさ。


 「まだ器、1割も溜まってないけど」


 半年続けてこれだもんなぁ。マジで何年掛かるんだろ。先が思いやられる。


 あ、なんか先の事を考えたら急激に飽きてきた。これはいけない兆候ですよ。せっかくここまで頑張ったんだ。後は半年、なんとしても耐えてみせる。


 「ふむふむ。良い感じに書かれてるじゃない。完成が楽しみだね」


 この前の人間大陸を攻めた魔王達お披露目会。


 これを作家と『RSG』の面々が協力して本にしてくれている。魔王の恐ろしさが分かるように、そして俺達の存在を大々的に知らしめるように。


 この国では英雄のような扱いをされてる眷属魔王達だけど、向こうの大陸では恐怖の象徴として存在する訳だ。


 タイトルは『ラグナロク』

 俺も詳しく知ってる訳じゃないけど、なんか人類の終焉みたいな? なんちゃら神話にあったと思う。ヴェガがラッパを吹いてて思い付いた。


 「まあ、物語なんて一方的な見方をしたらそうなるよね」


 どんな物語でもそう。片方の国では勇者だの英雄だの言われても、侵略された側からしたら、諸悪の根源、不倶戴天の敵である。


 戦争っていいよね。人を殺しても、自国の為なら正義になるんだから。これが人間が人間である限り争いがなくならない理由だろう。


 あ、俺達は魔物だった。

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