サイコパス、異世界で蝙蝠に転生す。

第300話 二つの魂

　「さってと！　僕の主目的は達成したから、もうレト君は戻してあげても良いんだけど…。せっかくだから聞きたい事があれば答えてあげるよ！　答えるかどうかは僕の気分次第だけどね！」

　「おっと」

　気分次第なのですか。聞きたい事はいっぱいあるんですが。神様に会うって分かったら質問デッキを作ってきたのに、いざ急に会うと何を聞いて良いか分からなくなっちゃうな。

　まあ、まずとりあえずはこれか。

　「俺ってなんで転生したんですかね？」

　一番気になるのはこれ。なんで転生したのか、なんで蝙蝠スタートだったのか。普通オーソドックスな異世界転生モノなら人類スタートでしょうよ。人外転生もない訳じゃないけどね。

　「うーん…。なんで転生したかは分からないなぁ。普通は記憶を持った魂がこっちの世界に落ちてくるなんてありえないんだよ。だからこの世界に異物が紛れ込んだのはすぐに分かったよ。それからずっと目を付けてたんだ。あっちの世界で随分派手な事やってきたみたいだしね」

　派手？　ああ…。俺に関わった奴らを殺して回ったやつか。あれは楽しかったなぁ。こっちに来てもやりたい放題やってるけど、あの時が一番楽しかったかもしれん。まあ、俺だけの力でやれた訳じゃないし、協力者はいたんだけど。

　「蝙蝠になったのはレト君の魂の有り様がそうだったとしか言えないね」

　「魂」

　魂視を得てからちょっと勉強してみたけど、結局色についてしか分からなかったから、ずっと放置してた問題だな。

　俺の魂は蝙蝠だった訳だ。蝙蝠ってなんか風見鶏的な感じの蔑称というか、そんな感じじゃなかったっけ？　どっちつかずでその時によって美味しい方につく的な。あ、でも前世でも血が美味しいとか感じてたし、それが影響しちゃってたり？　

　「あ、そういえば俺に魂が二つあるんですけど…」

　「あるね。正しくはこっちの世界に転生して、二つに分裂したってのが正しいんだけど。蝙蝠と人間の魂に別れたんだよ。こんなのは僕も初めて見たね。魂は一人に一つ。これは神でも弄れない領分だったんだけど」

　興味深いねーなんて言ってらっしゃるけど、それは大丈夫なのですかな？　蝙蝠の魂と人間の魂が喧嘩したりしない？　まあ、これまで特に何もなかったけど。もしかしたら仲良く肩でも組んでるのかもしれん。

　「でね。僕も初めてのケースだからどうして良いか分からなくて。システムは何回も君にマニュアル通り二つ目の異能を付与しようとするし。どんな影響があるか分からなかったから、ずっとキャンセルさせてたんだよ」

　「へぇー。……ん？　二つ目の異能？」

　「そうだよ。既に異能があるのに、もう一つの魂に異能を付与しようとしてたんだ。システムは魔王の資格がある者に魂の空きがあったら異能を付与されるようになってるからね」

　ふむん？　魔王の資格とな？　そういえば魔王になった時そんな説明を見たような、見なかったような…。ちょっと昔の事すぎて覚えてませんね。

　「多分大丈夫だろうけど、異能が付与されてレト君が廃人になっちゃう可能性もあったからさ。とりあえず位階が上がって魂が強化されるまではこっちでキャンセルしてたって訳」

　「それはどうもお手数をおかけしたみたいで。ありがとうございます」

　どうやら俺はノックス様に守ってもらってたらしい。感謝感謝です。

　「向こうに戻ったら確認してみると良いよ。もう二つ目の異能は付与されてるし、異変もないみたいだ」

　「重ね重ねありがとうございます」

　「レト君には楽しませてもらってるからね！　これぐらいなんとでもなるよ！」

　なんて良い神様なんだ。封印されてるのにわざわざこんな事までしてくれるなんて。

　よし。国に帰ったらノックス様の神殿を建設しよう。残念ながらプロテクトがかかってるせいで、ノックスって神様を祀ってるかどうかは分からないかもしれないが。

　いや、ワンチャン俺の名前だしなんとかなる可能性も…。あ、でもその場合は自分を神って言って神殿を建てる痛い奴になっちゃったり…？

　ちょっとその辺は眷属達と相談しよう。

　その後もノックス様といくつか話をして、今日はお開きになった。俺が進化したお陰でいつでも呼び出せるようになったみたいだから、これからもゆっくり話を聞こうと思ってる。呼び出すにはそれなりに力を使うみたいだけどね。

　でもここで一気に言われてもレト君は馬鹿だから、処理しきれないのです。ちょっと向こうに戻ってゆっくり理解する時間が欲しい。進化したボディも気になるし、二つ目の異能とやらも気になる。

　いよいよ公爵を経て王になったはずだし、これで妲己やアシュラにも勝てるかもしれん。

　これで大公とかだったら笑えるけどね。