第62話 苦戦


 現在37階。

 レト・ノックスと愉快な仲間達は大苦戦中であります。


 「ガチガチガチガチ」


 「んどらぁ!」


 俺は魔法を纏って手刀を振り下ろす。

 しかし、金属が擦れ合う様な音がして弾かれる。


 「はぁああ!」


 グレースも剣で斬りかかるが結果は同じ。

 妲己の魔法も【超念力】も。

 アシュラの金棒による打撃も。

 全てを弾いてくる。


 「くそが! 硬すぎるだろうよ! 意味がわからん!」


 「どうしますか、レト様。正直打つ手無しですが」


 「ぐぅぅう! 撤退! てったーーい!」


 戦略的撤退だ!

 攻撃が通らないなら、何しても意味がねぇ!




 

 「くそ、あんな形で順調な歩みを止められるとは」


 撤退して逃げ切り、影の中で愚痴を吐く。

 今日はやけ飲みだ! 飲みまくってやる!


 「あれを避けて次の階層に行く手もありますが? 多分他の冒険者もそうしてるでしょう」


 「嫌だね!! 俺が負けたみたいじゃん! 攻撃が効くならどうとでもなるんだよ!」


 「その方法がない訳ですが」


 「キュン…」


 「グガ…」


 それはそうなんだけどさ。

 むかつくからなんとして倒したい。

 アシュラはともかく、妲己はここまで不利な相手と戦った事ないからな。

 落ち込み具合がすごい。

 イライラを抑えるために、とりあえず煙草を吸いつつ考える。


 迷宮に籠り始めてから2ヶ月。

 順調に階層を進み、宝箱も1つだけ見つけ、それが魔道具だったりと、順風満帆だった。

 先程の魔物に出会う迄は。


 『ジャイアント・ハードハイセンチピード

  名前  なし

  【魔物能力】

  身体装甲金剛化

  毒酸

  土魔法

  再生

  魔法耐性              』



 くそムカデがよぉ。

 とにかく硬すぎるんだよ。

 俺の【音魔法】を纏った手刀でもちょびっとしか削れない。

 削ってもすぐ【再生】で元通りだし。

 今までなんでもスパスパ斬ってきた安心と実績の手刀さんだったのに。

 夜にはバイブにローターと大活躍の【音魔法】の纏い手刀が役に立たん。 


 「装甲が厚い相手には、体の内側から攻撃。これが鉄板よ。古事記にも書いてある」


 【音魔法】をなんとか浸透させれればと思うんだが、ムカデの持ってる【魔法耐性】も厄介なんだよなぁ。

 耐性のくせに、装甲で魔法弾いてきてるからな。

 もはや、魔法無効なんじゃないの。


 「これはあれだな。今の俺達では勝てない。36階に戻って、誰かが進化するまで修行にしよう」


 「致し方ないですね。まさかあんな魔物が深層以外でいるとは。50階以上でも苦労しそうです」


 そうなんだよな。

 まだ37階だぞ?

 イレギュラー個体であってくれないと、ここからかなり苦労する。

 まぁ、まだまだ暇になる事はないとポジティブに考えますかね。





 「で、36階に戻ってきた訳だが。この階で出てくる魔物ってなんだっけ?」


 「コボルト系ですね」


 「ああ。可愛くない犬畜生か」


 前世ではね。

 犬ってのは可愛い生き物だったんだ。

 昨今では野良犬は見かけなくなって触れ合えたのは野良猫だけなんだが。

 遠目から見てても可愛いなーって思ってたんだ。

 なのにさ。


 「ガルルルル!」


 「可愛くなさすぎる」


 犬の顔をした二足歩行の魔物。

 よだれをダラダラ垂らして、目がちょっとイッちゃってる。

 これで上位種はオーガより厄介なんだよな。

 とにかく速い。それはもう速い。

 アシュラがイライラするぐらい速い。


 「脳筋のアシュラとは相性が悪いよね。丁度いいや。ここで自分より速い敵への対処を学んでもらおう」


 「そうですね。コボルトの上位種ならアシュラでも翻弄されながらなんとかやれるでしょう」


 「アオーーーン!」


 「問題はあれだよな」


 ワーウルフ。

 まぁ、コボルトの顔面を狼にしただけなんだけど。

 速さが段違いなんだよな。


 『ワーウルフ・ナイトリーダー

  名前  無し

  【魔物能力】

  嗅覚超強化

  瞬足

  直感

  爪撃

  剛脚

  集団統率           』



 中々に強いんだよな。

 この直感がずるいんだよ。

 妲己の【超念力】も避けてくる。

 避けれないぐらい弾幕を張って対処してるが。


 「この直感ってグレースのユニークスキルと何が違うんだろうな。勘な事には変わりないし」


 「そう言われると、わたしのユニークスキルってなんか残念な感じですね」


 俺とグレースは喋りながら魔法をばら撒く。

 肉弾戦を挑んでもいいけど、今は妲己とアシュラが頑張ってるからね。

 援護程度にしておく。


 「まぁどっちも理屈じゃない感じは一緒っぽいけど、直感は戦闘でしか反応しないのかな。シックスセンスの方が鋭いとか。知らんけど」


 知らんけど。

 これ、魔法の言葉ね。

 語尾にこれをつけると全ての責任を回避出来るんだよ。


 「ユニークスキルにも格があるのかも知れませんね。他のユニークスキル持ちに会ってみたいです」


 「冒険者とか見かけたら【魔眼】使ってるけど、全然居ないもんなー。どんなユニークスキルがあるのか気になるんだけど」


 お、アシュラが【戦闘学習】のお陰か段々慣れてきたな。

 慣れてきただけだけど。


 「なるほど。どれだけ最適化しても体が追いついてなければ意味がないんだな。弱点といえば弱点か」


 「アシュラは身体強化もまだまだですからね。これを機に真面目に練習してくれればいいんですが」


 どうだろうね。

 体術の練習にはそれなりに興味を持ってるみたいだけど、身体強化とか魔力操作は好きじゃないみたいだからな。

 身体強化を極めれば、体術はもっと凄くなると思うんだけど。


 「あ、やばいな。押されてきた。グレースはアシュラのフォローを。俺は妲己のワーウルフの方に手助けしてくる」


 「かしこまりました」


 ちょっと焦って階層進みすぎたかな。

 36階でも若干の苦戦を強いられてる。

 どうせムカデにはまだ勝てないし、ここで修行するかね。

  

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