第11話 街道
翌朝。
どうやら一人分の認識票が足りなかった様で、ミトは再び使用人達の亡骸の場所に戻りたいと主張した。
一応は雇い主なので渋々従うことにして現場に戻ることになった。
念のため「見ない方がいい」と言って忠告しておいたのだが……
すでに大部分を魔獣に食い荒らされた後の亡骸を見て、ミトとミリシアはその場にうずくまって昨晩の飯を吐き出し始めていた。
ミトによると、見つかっていないのは『シャオ』という名の女性の使用人の認識票だそうだ。
「……見つからない」
ざっと付近を歩いてみたが、それらしきものは見つからなかった。
「もしかしたら、うまく逃れたのかもな」
心にも無いことだったが、このままここで探し続けられたら、今夜もまた山道で野営をする羽目になってしまう。
この言い方でも、ミトならその辺りまで含めて判断をしてくれるだろう。
「わかりました。先を急ぎましょう」
「ああ」
俺はミトやミリシアにもある程度の荷物を持つようにと指示した。
文句を言い出すかと思いきや、二人は何も言わずにそれを背負って歩き始めた。
そうして山道を下り、昼頃までには街道に出ることが出来た。
「ミト様、ここまでくれば安心です。ここから先は人通りもありますからね」
「そうですね、同行と保護を頼めそうな商隊がいれはすぐに交渉に入りましょう」
マルクハットまでは、山を迂回する平原地帯の街道を抜けていく必要がある。
だいたい三日程の行程だが、歩き慣れていない二人を連れていれば四日から五日くらいはかかるかもしれない。
再び歩き始めて数十分。
顔を隠したフードの下で、二人は早くも荒い呼吸を繰り返していた。
「……休むか」
馬車を引いた商隊なんかが通りかかれば、ミトは乗せてもらう交渉をする気のようだが……
残念ながら今は見渡す限り徒歩の旅人以外はいないようだった。
「キツイものですね。商売のために一日中街を駆けずり回ったことはあっても、外を歩けば半日もせずに体力が尽きてしまいます」
「道が悪いからな」
街の外は、整備された街中とは違う。
特に山道は高低差や凹凸が激しくて歩きづらい。
さらには、たとえ街道に出ても所々に馬車の車輪跡などがあって徒歩ではなかなかに歩きづらい。
「以前、
そう言って、ミトは苦笑を浮かべながら凸凹の街道を見やっていた。
豪商のご令嬢というのは、俺の想像していたのとは少し違う人種の様だ。
もう少しわがままで、自分勝手で、自らを顧みることのない様な者だと思っていたのだが……
「次は、街道を走る馬車の中で書き物をしようなどとは考えないことだな」
「そうですね、勉強になりました。……随分と高い授業料を払わされてしまいましたけど」
そう言って、ミトが「そろそろ行きましょう」と加えて立ち上がった。
この平原でも、幾度も魔獣の襲撃を受けたが……
俺の
その後二回ほど、馬車を引いた商隊が俺たちを後ろから追い抜かして行ったが、結局ミトは最後まで自分の足で歩くことを選んだようだった。
俺の疑いは晴れたわけではなさそうだが、時間を過ごすうちに二人の警戒心が徐々に薄れて行っているのを感じていた。
そして、俺の見込み通りに四日目の夕刻頃。
俺達はマルクハットの街に辿り着いた。
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