第5話 鉄の掟三ヶ条
ガルシア盗賊団は、その名の通りボスのガルシアがいるからこそ成り立ってるような団だった。
と、俺は思っていた。
ガルシア盗賊団は、吟遊詩人が唄う物語の中に出てくるような、まさに夢物語のような盗賊団だ。
良く言えば、
悪く言えば、古臭くって夢見がち。
昨今では物語の中でしか聞かないような『鉄の掟三ヶ条』を掲げ、他の盗賊団とは一線を介した方向性の活動をしていた。
『殺さず』
『犯さず』
『取り過ぎず』
盗みに入るにあたっては、決して街人や護衛の者を殺めず。
女性を犯すこともなく。
そしてどんな相手からも過分には盗まない。
凄まじいまでの時間と労力をかけた下準備を行い、その最後の最後に標的の全財産を前にして、その半分ほどをそっと持ち去るのだ。
だから自然と、その狙う先は貴族や名の知れた豪商などといったとんでもなくハイレベルな相手ばかりとなる。
もちろん相手も自らの財産や命を守るために鉄壁の守りの陣を敷いている。
物理的に護衛を雇うことになど加え、財産のありかは巧妙に散らされ、隠され、幾重もの魔塾的な防衛網がはりめぐらされている。
そのような相手に真正面から立ち向かっても、並の盗賊などでは屋敷の敷地内に入ることすらできないだろう。
そんな相手に対抗するため、ガルシア盗賊団のメンバーは、主に四つの役割分担がなされていた。
それは『
まずは、盗みに入るお屋敷について、首領が当たりを付ける。
おそらくは自分の足で各地を歩き回っているのだろうけれど……
どうやって見つけてくるのか全く分からないような辺鄙な場所や 街の片隅にさえも、ガルシアの目と耳と鼻は及んでいた。
そうしてガルシアからもたらされた標的に対し、手始めに『
次に、その調査結果を元にして『
最も怪しまれないような形で、メイドや奉公人や取引相手や時には教師として標的へと近づき、その
そこまでで、ガルシアはいつも数カ月から半年もの時間をかける。
そこからが、また長い。
『
……長い時には三年以上の時間をかけ、その屋敷の内部のことを調べ尽くす。
途方もない時間と労力をかけて、盗みに入る相手のことを徹底的に調べ尽くすのだ。
財産の隠し場所はどこか?
その総量はどれほどか?
屋敷内部の護衛や防衛魔術の敷設状況は?
お屋敷の内部構造は?
屋敷の
就寝時間は? 起床時間は? 来客の頻度は? 家族構成は? 従業員や使用人の家族構成は?
途方もないほどの長い時間をかけ、『
そうして得られた『
そんな下準備を、ボスは各地で何十件も同時に進めていた。
そんなガルシア盗賊団の活動の全貌を把握しているのは、ボスとマチルダくらいのものだった。
そして期が熟すと、最後の総仕上げとしてボスからの指令が下り、そこへ『
実行日当日。
そして、驚くほどに静かだ。
以前から屋敷の内部に侵入している『
その手口は巧妙かつ静粛。
ゆえに、場合によっては屋敷の者が金品を盗まれたことに気が付くのに、盗まれてから数日かかることさえもあった。
昨今の大多数の盗賊は、白昼堂々と荷馬車を襲って荷物を強奪したり、大きな財産もないような家や村に力任せに押し入って、なけなしの全財産を奪っていったりするようなやつらばかりだ。
そんな中にあって、こんな大掛かりなやり方で周到に準備を進めて盗みを行う盗賊団など、ガルシア盗賊団をおいて他にいないだろう。
そして、その全てを統括しているのが、ボスのガルシアだ。
同じことをやれと言われてできる者など、まずいないはずだった。
ちなみに俺は、この四つの役割のうちの『
一時期は『
そんなボスと俺との出会いは、俺が六歳の時だ。
当時住んでいた村の付近に盗賊が棲みつき、その襲撃を受けて俺の村は呆気なく滅んだ。
そして、焼け落ちた村のど真ん中で盗賊の残党に向かってナイフを振り回してるところを、俺はたまたま通りかかったボス達に保護されたのだ。
その後のことは、あまりよく覚えていない。
別に盗賊になりたかったわけではない。
ただ、他に選べる道がなかっただけだ。
全ての知り合いを殺し尽くされた天涯孤独の六歳の子供としては、目の前の大人に言われるがまま、言われたことをする以外にできることなどなかった。
ただ、俺の唯一の幸運はその相手が『殺さず』『犯さず』『取り過ぎず』などという盗賊らしからぬ『三ヶ条』を掲げるガルシア盗賊団だったことだった。
もしそうでなかったら……
たぶん俺は。その場でガルシアに襲いかかって、返り討ちにあって死んでいたかもしれない。
俺の両親を『殺し』、俺の姉を『犯し』、俺の村にあったわずかな蓄えを『根こそぎ奪った』
そんな大嫌いな盗賊達と、ガルシアの盗賊団のやり口は全くの別物だった。
だから俺は、盗賊としての活動を強いられながらも、ガルシアやマチルダに対し徐々に心を許していった。
そうして俺は、ガルシアの元で戦闘を含む様々な技術を学んでいったのだった。
ガルシアの元であれば、『盗賊』である自分ですらも許すことが出来た。
いつしかそれが、俺のごく普通の日常になっていった。
でも、やはり……
それが異常な日常であることが、心のどこかでずっと引っかかり続けていた。
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