第3話 それぞれの行き先
「で、お前らはどうするんだよ?」
カルロスが、俺、アリアナ、セイラを順番に見やりながら言った。
カルロスについていくつもりの者も、そうで無い者も、迷っている者も……
その場の全員が俺達に注目していた。
ボスとマチルダがいなくなった今、実力から言ってこの4人が元ガルシア盗賊団のトップだ。
その中で、口火を切ったのはアリアナだった。
「私は、適当な街の歓楽街にでも潜り込むわ。で、踊り子の館にでも雇ってもらおうかな。それでうまくやって金持ち商人の情婦にでもなって……後は適当に楽しくやるわ」
そう言って、アリアナはケラケラと笑った。
「ふんっ。お前のお遊戯みたいな踊りに金を払うやつなんかいねぇだろ? 情婦? やれるとしたら護衛くらいだろう?」
「はぁ? あんた今なんつった?」
アリアナとカルロスがまた喧嘩を始め、それを見たセイラがまたおろおろしていた。
「……二人とも、やめろ」
セイラに前に押し出された俺が渋々そう言うと、二人はとりあえず落ち着いた。
「確かに、アリアナは護衛の方が似合ってるかもな」
「あんだとカイン!?」
アリアナから飛んできたナイフを、ひょいと掴んで投げ返した。
金持ちの情婦になんかなったら。
たぶんアリアナは、そいつのことを……
「結構本気で守るだろ?」
「まぁね。よくわかってんじゃん」
アリアナは、少し考えてからそう言った。
そして、笑い出した。
『
実際の現場では、そもそもが戦闘にならないようにして立ちまわるのが基本だが……
いざやるとなれば、圧倒的な「早さ」と「強さ」で一瞬にして相手を制圧することが求められる。
更にそこに『殺してはいけない』という制約までがついてくる以上、そこには圧倒的な実力差が必要になる。
そこには、尋常ならざる戦闘能力が求められる。
それが、ガルシア盗賊団の
そしてそんな
アリアナが本気になれば、ちょっとした自警団の本部くらいならば一人でも壊滅させられるだろう。
そんな腕っぷき主義の『
そのため『
非力な一般人に紛れることこそが『
ただ、セイラは魔術的な知識が非常に豊富で、相当に繊細な術を使う。
標的の財産に魔術的な防衛がなされていた場合、事前にその解析を進めつつ当日にそれを取り除くこともまた、彼女の重要な役割となっていた。
そしてその点において、ガルシア盗賊団の中ではセイラの右に出る者はいなかった。
「で、どうすんだよアリアナ」
「はぁ? なにがよ?」
「盗賊、マジで続ける気はないのか?」
「続けないわよ。今言ったでしょ? 私はこの機会にきっぱりと足を洗ってまっとうに生きることにするの」
「俺は『ガルシア盗賊団』の生き方が、まっとうじゃなかったとは思ってねぇ」
「盗賊は、盗賊よ。人様の物を盗んでいい思いしてるってことに変わりはないの」
「ふんっ、……そうかよ」
そう言って、カルロスがそっぽを向いた。
中には、そんな生き方しか選べないような奴もいる。
俺だって、自分はそう言う人間だと思っていた。
カルロスは、そんな奴らの受け皿になる気なのだろう。
そんなカルロスには見向きもせず、アリアナはセイラに向き直った。
「セイラはあたしと一緒に来るでしょ? この辺は魔獣だらけだからね。適当な街まで一緒に行こう」
「えっ?」
「あんたも引退するんでしょ? ボス達がいなくっちゃ、この業界で『
「うん……、そうだよね。じゃあ私も引退かな。そんなに多くは求めないし、適当に暮らしていけるだけ稼げればいいから……。私も、アリアナと同じでどこかの街でなにか楽そうな仕事を探すことにしよっかな。情夫とかは、なんとなく嫌だけど」
「あんたまでそれ言うの……」
そういって、アリアナがガックリと肩を落とした。
セイラほどの魔術師であれば、正直言って裏稼業では引く手あまただろう。
この稼業を続けるつもりのカルロスにしても、実際は喉から手が出るほどに欲しい人材のはずだった。
それが分かっていたから、アリアナが先手を打って保護した形だ。
この一瞬のやりとりの中にも、各々の思惑が駆け巡り、水面下で腹の探り合いが起きている。
盗賊らしいといえば盗賊らしい。
ただ、セイラは「盗賊稼業はもうこりごりね」などと言いながら、アリアナと一緒に歩き出していた。
やはりセイラも、ボスとマチルダがいたからこそこの仕事を続けていたという口だろう。
何人かの『
「私達も、街まで同行させてください」
「ん? いいよ。ついてきな」
そのまま、アリアナとセイラは去っていった。
「……ふんっ!」
カルロスはそんなアリアナと『
「で、カイン。お前はどうする?」
「そうだな……」
俺も、この業界を抜けることにする。
そう言いかけた俺に、突然カルロスが殴りかかってきた。
「死ねおらぁぁぁぁあああーっ!!」
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