第2話 団の盗賊達

半年前のその日から、俺は今の目の前の光景に意識を戻した。


そこでは、『ガルシア盗賊団』のメンバー達がボスに詰め寄って抗議していた。

話している内容は、だいたい半年前の俺と大差ない。

それに対してボスがいつもの様にヘラヘラしながら受け答えをしている。


そんな中にあって、俺と同じように少し離れた場所からその喧騒と成り行きを見つめる者達がいた。


調査担当リサーチャーでボスの妻のマチルダ。

潜入担当シーカーのセイラ。

荒事担当アタッカーのカルロスとアリアナ。


そのあたりの古参のメンバーたちには、おそらくは俺と同じように事前にこのことが知らされていたのだろう。


盗賊として荒事を成す時も、次に盗みに入る貴族や商人の家に当たりをつける時も。

俺達の次にやることは、いつもボスが決めていた。


結局みんな、ボスに頼りきっていた。

この団は、ガルシアボスの言う通りに進んでいれば、だいたいいつもうまく行っていた。


「話は以上だ。これから俺は俺の好きな様に生きる。お前らも……、お前らの好きなように生きな」


だが、最後の最後にガルシアボスは俺たちに『好きにしろ』とだけ言い残して去っていってしまうらしい。


ガルシアの妻であるマチルダだけが、静かにその後を追っていった。


そうしてただのだだっ広い林のど真ん中に、途方に暮れる俺達が取り残されたのだった。


「ええと、つまり……。私達全員ボスに追放されちゃたってこと? ……だよね。要は最近流行りのやつ」


努めて明るく言い放った潜入担当シーカーセイラの言葉に、答える者はいなかった。



→→→→→



「俺は新しい団を立ち上げる。まだまだ暴れ足りない奴らは、俺について来い!」


ボスが去ってすぐに、荒事担当アタッカーのカルロスが大声でそんな呼びかけをし始めた。

彼は、親しい奴らを中心に自分で新たな盗賊団を結成するつもりのようだ。

主に荒事担当アタッカーばかりが集まり始めているので、たぶんガルシア盗賊団とは似ても似つかない団となるだろう。


ただ、今回の解散の件をカルロスがいつガルシアボスから聞いたのかは知らないが……

これは、カルロスがその時からこれまで、いろいろと考えた末での決断なのだろう。


カルロスは、その荒々しい言動とは裏腹に団のメンバーのことを『仲間』などと呼んで大切にしていた。

また、性格は荒々しいが腕は繊細で確かだ。


それでも、カルロスには今までボスがしていたようなことはできないだろう。

各地に散ったメンバーたちをまとめ上げながら、虎視眈々と長期にわたる盗みの計画を立てて滞りなく実行に移す。

そんなことをやれるのは、ガルシアボスだけだ。

ボスがいなくてはこの団が成り立たないという事はカルロスもよくわかっているはずだった。


「その気になれば傭兵団でも冒険者でもなんでも出来る。なんたって俺らは世間じゃ『最強』だの『幻』だの言われる『ガルシア盗賊団』のメンバーなんだからな!」


そう言ったカルロスの頬の脇を、一本のナイフが掠めていった。

ナイフは、そのままカルロスの背後の大樹に突き刺さる。


「『元』だろ? さっきのボスの言葉をもう忘れたのかよ?」


「……あぁ?」


ナイフを投げたのはカルロスと同じ『実行担当アタッカー』のアリアナだ。


一瞬にしてその場に緊張感が走った。

二人は睨み合い、すでに一触即発の状態となっている。

ピリッとした空気に、周りのざわめきが一瞬にして止んだ。


ボスがいなくなった瞬間にこれだ。

いつもなら、ボスかマチルダが無言でにらみを利かせてこの喧嘩は終わる。


だが今は、これを止めようもする者などは……


「二人ともやめて! なんでボスがいなくなったとたんにそんなことになってるのよ。これじゃあやっぱり『私たちはボスがいないとだめなんです』って宣言してるようなものじゃない」


実行担当アタッカーの二人の喧嘩を止めに入ったのは、意外にも潜入担当シーカーのセイラだった。


「実際、そうだろう?」


そのセイラの姿を見ながら、俺はついそう言って声を上げてしまった。

メンバーたちの視線が、セイラから俺へと移る。


正直、面倒そうなので関わりたくなかったが……


ガルシアボスがいなくなった以上、もう誰も『ガルシア盗賊団』の名は名乗れない」


俺は、短くそれだけを言った。

カロルス、アリアナ。

……古参のお前達ならこれでわかるだろう?


「……」

「……」


「だから、カルロスはさっさと新しい団の名前を考えるべきだと思う」


俺がそう言うと、二人が一瞬きょとんとした顔をした。


「だははは……、なんだよそりゃ? さっきは口が滑ったが、当然初めからそのつもりだぜ」


そう言って、カルロスが大声で笑い出した。


「カインは相変わらず。でも、らしいと言えばらしいね」


アリアナも小さく笑い、その場のピリリとした雰囲気が解消された。


「ってかもう決めてある! 新しい団の名前は『闇夜の鉄拳団』だ!」


それを聞いて、カルロスの周りに集まっていた連中が動揺した。

あまりにもダサすぎるからだろう。


「要は、カインは私の味方してくれたったことよねー。カルロス馬鹿が馬鹿なことを言いだすから……」


「ああん!?」


「アリアナも、いきなりナイフを投げるな」


俺がそう言うと、カルロスが再び「だはは」と笑い出し、アリアナが肩をすくめた。


セイラは、ホッと息を吐いていた。

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