元盗賊の転職希望者 〜元最強盗賊団の無口なメッセンジャーは、再会した幼馴染と普通に暮らしたい〜
3人目のどっぺる
『解散』
第1話 解散宣言
「今日をもって、この団は解散とする。後のことなんざ知らん! 全員好きにしな! がはははは!」
精一杯の重々しい雰囲気を纏い、メンバー全員の顔を順番に睨みつけた後。
ガルシア盗賊団のボス『ガルシア』はそんな言葉を口にした。
「「「えっ!?」」」
ガルシアの言葉に、五十名からなるガルシア盗賊団のメンバー達が一斉に呆気に取られたような声を上げる。
そして、ざわめきが広がっていく。
場所は『湖畔の隠れ里』付近の林中。
そこに、珍しく『ガルシア盗賊団』の全メンバーが集められていた。
珍しく……、というか、これだけの数のメンバーが一度に集められるのは、少なくとも20年前に俺がこの団に加入して以来では初のことだった。
「ボス……、じょ、冗談ですよね? これはいつもの……」
「この顔が、冗談を言っているように見えるか?」
「……」
ボスのいつものニヤケ顔。
冗談を言っているようにしか見えない。
とは、流石に誰も言えなかった。
やはり一部の古参を除く大部分のメンバーにとって、その解散宣言は寝耳に水の話であるようだった。
いつもよりも人数が多いこの集まりも。
ここ最近あまり盗賊団としての大きな活動をしていなかったことも。
全ては、この次にとんでもなくでかい盗みの仕事を計画しているからなのだと、ほとんどのメンバーはつい先程まで信じて疑っていなかった。
『この次は、ボスはついに王宮にでも盗みに入るつもりなのではないか?』
メンバーの間では、そんな噂までもがまことしやかに流れていた。
そんな中での、突然の解散宣言だった。
やがてメンバー達のざわめきがやみ、風が草を揺らす音だけがサラサラと流れていた。
言葉を発するものがいない中、俺の頭の中ではボスの言葉が何度も何度も繰り返し流れていた。
今しがたの『解散宣言』ではない。
半年ほど前。
俺は次の仕事に出かける直前でボスに呼び出され、今回の解散の件を事前に知らされていた。
今、俺の頭の中で繰り返されているのは、その時のボスの言葉だ。
「この一味は俺が作った。……俺の名前を付けた俺の一味だ。俺が引退する時には誰かにこの立場を譲るなんてことをするつもりもない。『ガルシア』の名を名乗らせるつもりもない。始めから、いつかはそうするって決めてたんだ」
一つ一つ絞り出すように紡がれる首領の言葉。
口元はいつものように半笑い。
だが、その目は真剣そのもので、有無を言わせぬ力強さを秘めていた。
「ボスが……、
「ああ、お前ならそう言うだろうな」
「だが俺達はどうなる? ここを離れては、俺達は生きていけない」
俺をはじめ、物心ついてからこれまで盗賊しかしてこなかった奴らも多い。
そんな奴らがこの団を出て、ボスの元を離れてまともに生きて行けるはずがないと思った。
「生きて行けるだろうよ。誰だって、何処でだってよ。お前だって、俺に拾われるまでは人並みの生活をしてたんだろ? その事を、よーく思い出してみろよ」
「……」
思い返してみても、ぼんやりとした夕食の光景以外にまともな思い出などは浮かんでこなかった。
そんな幼い頃の……ボスに拾われる前の記憶など遥か彼方の遠いものだ。
まぁ、それをいうなら……
盗賊として過ごしたこの二十年間だって、今すぐにこれと言って思い浮かべられるような思い出なんか特にないのだけれど……
街から街へひたすらに最短距離で走り抜けるか。
物陰に身を潜めてひたすら時を待つか。
そんなことばかりをして来た気がする。
「半年後、皆をまたこの場所に集める。他の連中にも、その時にこの件を伝えるつもりだ。それまではこの件は他言無用だ」
「了解、ボス」
「ふん、相変わらず無口な奴だな」
「……そうか?」
「ああ」
「……」
「……」
そうして二人で黙り込み、それっきり話は終わってしまった。
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