第一章:才能開花編

第3話:キリヤマの魔法

会って初日で抱きつかれた。彼女は相当精神的にも滅入っていたのだろう。

俺は心の拠り所になれたらいいな。こういう時はふざけず、

真面目に彼女に向き合おうと思う。今は何も言わずそっとしておこう。

それからちょっと経って、クソスベル湿地に向け、足を運ぶことにした。

モーリ森が見えてきた途端、ユルリカちゃんは我に返った。


ユルリカ

「ごっごご、ごめんなさい!さっきは勢いで抱きついてしまって!

 そっその、気が動転してたと言うかなんと言いますか、そっその...」


赤面しながら言葉を詰まらせるユルリカ。


「別に良いんだよ。むしろありがたかったし。もっとやっていいからね!?

 ていうかもっとして欲しい!!!!」


変な空気になってしまいそうだったのですかさずフォローを入れる俺。

これで俺は遠回しに全く気にしてないぞというのを伝えられたと思う。

(本心も全然入ってたし)それがわかった彼女は、安心していたようだった。

その後も他愛のない話をしながらモーリ森の中心、クソスベル湿地に到着した。

ついに、魔法を撃つことができるわけである。

道中、魔物が出てくるとは思っていたんだが、気配がない。

ユルリカちゃんもこんなに出ないのは異常だと言っていた。

まぁ先に来た凄腕冒険者が狩り尽くしたんだと思っておこう。

なんて考えていたらキングロコダイルだと思われる魔物を発見した。

ヤツは食器棚サイズの木を一口で噛み砕き、こちらに威嚇してきた。


「草食なの!?」


気になったのでちょっとツッコむ。

ふと隣を視ると、ユルリカちゃんは青ざめていた。


ユルリカ

「あんなサイズ見たことないです...一度逃げましょう!」


「依頼書には10m位って言ってたからこいつもそんくらいだと思うけど...」


ユルリカ

「その奥の影です!この湿地に山なんてありませんから!」


俺、チビリかけた。俺の初戦、あのワニなの?


こうして一度モーリ森へと逃げ込んだ。ユルリカちゃんは怯えながら説明した。


ユルリカ

「恐らくあの魔物の名前は、上位魔鰐、山鮫(バクシャーク)。

 キングロコダイルの上位種です。恐らく道中魔物が見えなかったのは、

 山鮫(バクシャーク)の魔力の強大さに怯えた魔物達が逃げていたからでしょう。

 魔物の魔力感知は常人のそれとは違いますからね。

 私達がバクシャークを見つけるより先に見つけ、

 この森や平原から逃げたのでしょう。」


その話を聞いて、俺は一つの提案をする。どうしてもやりたかったことである。


「ここ言うのもなんだけど、魔法の撃ち方を教えてくれない?

 これは只のプライドになっちゃうんだけど、俺デビュー戦で逃げるのは嫌だし、

 何よりユルリカちゃんの足を引っ張りたくないんだよね。」


ユルリカ

「良いですけど、ここでですか?まぁでも、

 あのワニもここまでは追って来ないのでいいですよ。」


そう言うとユルリカちゃんは、魔法の概念を一から教えてくれた。


ユルリカ

「人によってそれぞれ得意な属性っていうのがありましてですね?


"炎→草" "水→炎" "草→水" "風→土" "土→雷" "雷→風"  "光→闇" "闇→光" そして無


基本属性の相性は決まっていますが、稀に派生した属性や、

2つ以上の属性を持つ人、また、どれにも属さない"無"属性もありますね。

無属性は相性の善し悪しのないシンプルな魔力放出で、

非常にバランスの取れた属性なんですよね。

どの系統の人も、この属性だけは使えることが出来ます。

それと、ごくごく稀に派生系ですらないものも生まれますが...」


「ちなみにユルリカちゃんはどの属性なの?」


ユルリカ

「光が使えますよ。草も少し。まぁテラルドの一族は、

 草属性か光属性のどっちかなんですけどね。って、あっそうだ!

 大事なの忘れてました!え、えっとですね、

 魔法の出し方にも分類があるんですよ。

 まず、魔力に属性を込めて放つだけの放出系魔法。

 (属性付けたかめ◯め波みたいな感じ)

 魔力の形を練り変える錬成魔法、

 そして肉体や武器に魔力を纏わせて攻撃する付与魔法があります。

 放出系魔法はすぐ放てて高威力なので、智力が低くて、魔力総量が多い人向け、

 錬成魔法は魔法を練るのに時間がかかるので、魔質と智力が高い人向け、

 付与魔法は物理攻撃、物魔防御UPにも使える万能型で、

 剣や拳などの物理での攻撃力が高い人向けですね。」


「なるほど、じゃあ取り敢えず、俺の属性が知りたいな。」


ユルリカ

「わかりかました。じゃあ手を貸してください。」


そう言うとユルリカちゃんは俺の手を取った。

これは傍から見たらどう見ても手を繋いでいる...なんなた俺から見てもそう。

なんだろう、少しこうふn...やめろ、抑えろ、俺。


ユルリカ

「終わりました!えっと、無属性ですね。」


「なるほど...誰の弱点も突けないのか...」


ユルリカ

「いえいえ、そんなことはありませんよ!?

 無属性は一番恵まれた属性とも言われていて、

 練り方を変えればどの属性にも近くなる万能に近い属性なんです。」


「じゃあ俺も雷とかバンバン打てるの?」


ユルリカ

「鍛えればできるかも知れません。でも、その場合だと雷属性に近づくだけなので、

 雷属性が得意な人の魔法より少し劣ってしまいます。

 (雷属性の人が撃つ雷魔法は1.5倍の威力、弱点に対しては2倍。

 対して無属性含むその他属性の人が撃つ雷魔法は1倍、

 弱点に対しては1.7倍程度である。)ですが、

 キリヤマ様は魔質が高いので問題はないと思います。」


「なるほどね。タイプ一致補正みたいのがあるのか。

 ていうかそもそも魔法はどうやって放つの?」


ユルリカ

「この星の人々は感覚的に放てますけど、

 キリヤマさんは魔法もないところから来たんですよね?

 教えるのは難しいけど、頑張ってみます!」


俺のために頑張ってくれる...なんて素敵なことなのだろう。

そんなことを思いながら理解力と適応力を高めて魔法を教わった。

基本魔法のあれこれを頭に入れ、詠唱(技名叫ぶアレ)して魔法を放つ。

取り敢えずキングロコダイルは雷弱点らしいので雷魔法を多めに習得した。

今回覚えたのは、

上から雷の槍を落とす中位錬成系魔法、

・落雷(ライサンダー)

シンプルに魔力消費量で威力を操作する中位雷系放出魔法

・砲雷(デストロイボルト)

女神様に教えてもらった小位炎系錬成魔法

・小火弾(ファイヤ)

の3つである。まあこのクエストをクリアした後は、

他の基本魔法も、しっかり覚えていくつもりだ。


「よし、早速試してみてもいいかな?俺こういうのには憧れがあってさ、

 なるべく早く撃ってみたいんだよね!」


ユルリカ

「う〜ん。万が一危ない時は私が援助しますので、

 どんとかましちゃってOKですよ!」


よし、エイムは初期保有スキル、

狙撃補助(エイムアシスト)を使えば多少は当たるようになる。

敵の反射神経が良ければ躱されたり防がれたりするらしいが、

ここは不意打ちの


「落雷(ライサンダー)!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ゴオオオオオオオオオォォォォォォォォォォオオォォオォオォォオォオォ!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

湿地に雷の音が響き渡る...ワニは一撃で丸焦げになった。

が、そんなことはどうでもいい。俺、魔法撃てた。しかも凄い音鳴ってた。

ガチで雷落ちたときの音してた。心臓に悪い。やめて。

ていうか元々でかすぎるワニから逃げて、魔法を覚えて戻って来たわけだけど、

さっきのワニどこ行ったの?影も見当たらないが?


ユルリカ

「下です下!キングロコダイルは泥の中までなら泳ぐことは可能です!」


突如地震が起きた。即座退散しようと思ったが泥濘みに足を取られ、

うまく動けない。だが、


「強化した俺の適応力をナメるな!」


そう言い放ち、東北地方の人が雪の上を滑らず歩いていくかのように、

足早々と逃げようたした時...


バクッ


キリヤマは山鮫(バクシャーク)に食われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る