フェレット
フェレット。
胴体が長くて、独特のにおいがして、体が柔らかくてぐにゃぐにゃで、可愛いやつです。大好きです。
これまで2匹のフェレットを飼ったことがありましたが、どちらも承認欲求のかたまりでした。可愛い。
うちの子は、2匹とも、おやつで釣らなくても、褒めて褒めておだてまくれば、なんでもやる子でした。可愛い。
フィラリアの薬だって、「飲め」と言われれば、錠剤を自分でかみ砕いて飲み下します。可愛い。
でも、褒めてくれない人間から「薬を飲め」と言われても飲みません。獣医さんに強制的に飲まされようとしても、歯を食いしばって口を閉じて拒否します。可愛い。
獣医さんに「申しわけないんですが、この子をチヤホヤしてもらえないでしょうか。そうしたら飲みます」とお伝えして、ちょっとばかり撫で回してもられば、喜んでお薬を飲みます。可愛い。
誉めてくれる相手は飼い主じゃなくてもいいのです。誰でもいいのです。ただただ誉められたい。その欲望に素直なところに惚れ惚れします。
優しそうな雰囲気の獣医さんにジステンパーの予防接種をされるときはか弱い声で悲鳴を上げてアピールし(きゃああ、と泣きます)、なでなでしてもらおうとします。怖そうな獣医さんに注射をされるときは黙って耐えます。チヤホヤしてくれそうな相手を瞬時に見分ける能力が高いです。人間観察力の高さに惚れ惚れします。
うちのフェレットは2匹とも動物病院に行くのが大好きでした。病院にいくと、先生を初めとしたスタッフの皆さんからチヤホヤしてもらえるからです。チヤホヤのためなら注射ぐらい耐えます。可愛い。
ワンちゃんも芸をすることで知られていますが、ワンちゃんは飼い主さんへの愛情や信頼から芸をやってくれるのだろうと思います。フェレットは「自分が褒められたい一心」で、ジャンプと言われればジャンプし、口を開けろと言われれば開け、バンザイしろと言われればバンザイします。誉めてくれるのなら、どなた様の命令も喜んでー! 承認欲求に支配されています。可愛い。
あと、「本棚から本を1冊選んで、持ってきて」という、なかなか高度な芸も1匹はこなしておりましたが、もう1匹はできませんでした。知力が必要な芸は、難易度が高いです。
複雑なことを無理にやらせようとすると、指示が理解できない苛立ちからか怒ってしまって地団駄を踏みます。前足を揃えて床をばしばし叩きます。地団駄を踏むフェレット、とても可愛いです。
芸の指示を出すときは、ハンドサインを使っていました。フェレットは口頭で指示されるより、手の形で指示を出されたほうが覚えやすいようです。なんだかイルカの調教みたいですね。いつも右手で指示を出しているのを、たまに左手で指示を出すと、きょとんとして、理解できないようでした。応用が利かないですね。でも、それぐらいしっかりと手の形を覚えているのだなあと感心しました。
もうね、何ができても、何ができなくても、全部「かわいい」という結論にしかなりません。可愛い。
そんなフェレットちゃんなのですが……。私はひどいことをしてしまったことを、ここに懺悔します。
あるとき、ヨーグルトをフェレットに見せました。その子はヨーグルトが大好きだったので、大喜びで食べようとしましたが、私が突然ヨーグルトを取り上げてしまいました。なんてひどいことをするんでしょう!
フェレットは私を見上げたまま固まりました。
じわ~っと目に涙が浮かび、大きな粒となって、ぽろりと床にこぼれ落ちました。
飼い主が「直前でヨーグルトを取り上げる」という意地悪をしたので、怒るのではなく、泣いたのです。フェレットはとても悲しい気持ちになってしまったのです。
まさか飼い主がそんなことをするなんて! 泣きべそをかいた顔が、そう私に言っています。瞳をうるうるさせて私を真っすぐ見つめています。
私は慌ててフェレットを抱き上げて謝りましたが、フェレットは完全に脱力状態で体がぐにゃぐにゃになっていました。ショックのあまり全身に力が入らないようです。ぐにゃぐにゃのまま無言で泣いています。
私はすぐにヨーグルトのお皿をさしだしました。フェレットはぐにゃぐにゃ状態から立ち直り、一応食べてくれましたが、しょぼしょぼした顔で食べていました。
フェレットは芸をします。人間が褒めてくれるから、何だって頑張れるのです。そんな性格なのですから、人間に意地悪されて、さぞショックだったことでしょう。
その子が涙をこぼして泣いたのは、人生でその一度きりでした。
可哀想なことをしてしまいました。
で、こっから先が言い訳なんですけども、あのヨーグルトね、フェレットに見せたあとに「加糖」だって気づいたのよ。虫歯や歯槽膿漏になったら困るから無糖しかあげてなかったのに。私がうっかりしていて間違えてしまったんですね。それで取り上げるということになってしまったわけです。
でも、見せておいて、取り上げるなんて、それはないよね。ごめんね。
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