スケベエルフになったお姉さん

「……まさかこうなるなんてなぁ」


 学校が終わった放課後、俺は昨今問題になっている誹謗中傷について考えそう呟いた。

 つい先日に真白さんに相談する形で弁護士さんも雇い、あまりにも早いスピードで開示請求が通り……結果としては示談という形に落ち着いた。


「……最初からすんなよってなるよなこれだと」


 たとえどんなに気に入らないとしてもこうして罪だと認められ、普通では払わなくて良いほどの大金を払う羽目になる……こんな馬鹿らしいことはないだろう。

 少なくとも俺はどんなことがあっても他人に誹謗中傷しようとは思わないが、弁護士さんの話だとやっぱりこういうことは最近多いらしく、実際に罪だと認められるまで自分が悪いことをしている意識のない人がほとんどと聞いた。


『もちろん悪いことだと分かっている人も居ます。ですがそう言う人たちは決まってこう思ってるんですよ――どうせ訴えられない、どうせ何もされない……弁護士に相談すると言っても口だけとね』


 そもそも弁護士を雇うだけでも、或いは裁判沙汰になるにしてもそれだけでお金が掛かるためほとんどの人は訴えたりしない……それもまた、酷な話だが誹謗中傷を助長する要因だったりするみたいだ。


「……改めて真白さんにはお礼を言わないと」


 真白さんにお礼を伝えるのはもちろんだが……でも敢えて考えてしまう。

 そんな社会問題の一つともなる誹謗中傷の的になったこと……基本的に悪いことは何もしていないというのに理不尽なものだ。


「……まあだからこその有名税ってやつなのかな」


 それでも理不尽だろうとは自信を持って頷くけどな!

 取り敢えず今回のことは解決に向かっていることは確実なため、ずっと心配し続けてくれている宗二にも大丈夫だって事の経過と共に伝えるつもりだ。

 真白さんの方も配信で注意喚起と……今もなお強い言葉を送り続けている人たちに対する警告として話をするみたいだし、俺もそれは構わないと言っている。


「これ以上は気にしても仕方ないしとっとと帰るか!」


 真白さんもきっと気にしすぎだって笑うだろうし、そもそも俺が真白さんのおかげで気にする必要がないくらいに幸せだと言ったんだから……だから気にするくらいなら真白さんに癒されることを選ぶぜ!

 そうと決めた俺の行動は速く、すぐにその場から駆け出してマンションへ帰った。


「……汗掻いちまった」


 寒い中でも激しく体を動かせば僅かに汗は掻く……汗を掻いてまで真白さんに会いたかったんだと思われるのは恥ずかしいけれど、それも別に間違ってはないので良いかと開き直った。


「ただいまです――」


 部屋の扉を開けた瞬間、まさかの光景が目の前に広がった。


「おかえりなさいたか君」

「おかえり隆久君」


 学校帰りの俺を二人のエルフが出迎えてくれた……エルフ?


「……はっ?」


 待て待て……なんでエルフ?

 ポカンとする俺の前に立っているのはあまりにも露出の多い姿をした美女が二人、尖っている耳がエルフの証であり人ではない証明でもある……なんて、冷静になれよ隆久エルフなんて存在が居るわけないだろ。


「真白さんと……林檎さん?」


 そう、目の前に居るのはエルフのコスプレをしたお姉さま方である。

 金髪エルフは真白さんで、赤髪エルフは随分前に隣の部屋に引っ越してきたエッチなお姉さんこと更科林檎さんだ。

 とはいえ突然こういうことをされたらビックリするのは当然であり、俺はポカンとしていたが真白さんに腕を引かれた。


「ほら、ああいうことがあったからこういう不意打ちではあってもたか君を癒したいと思ったのよ♪ まあ今回のことは林檎ちゃんの発案だけどね」

「林檎さんの?」

「そうよ? 真白さんにも隆久君にもお世話になってるし、それで何か隆久君に出来ないかってね」

「……はぁ」


 それでこれか……あぁうん。

 確かに目の保養という意味においてはこれ以上ないほどの景色だ……真白さんがスタイル抜群の美人というのはもちろんだけど、林檎さんも美人だしスタイルも凄い人だからだ。


「っ……」

「あら、たか君が視線を逸らしちゃったわ」

「せっかく着たんだから見てほしいですよねぇ真白さん?」

「もちろんよぉ!」


 あ……あぁ二人ともそんな動かないでくれ!!

 これが普通のコスプレなら全然良かったよ! でも二人のエルフのコスプレはなんというか……とにかくエッチなんだ!

 さっきも言ったけど露出の激しさもそうだが、胸の部分が本当にマズい。

 だってちょっとでも動いたら捲れちゃうぞそれ!? ただ布が大事な部分を僅かに隠してるだけじゃんそれ!!


「……何がエルフだよスケベエルフじゃないか」

「うふふっ♪ たか君だけのスケベエルフよ?」

「スケベエルフの住む部屋にようこそって感じかしら?」


 ……あ、ちょっとマズいかもしれない。

 俺を部屋に引き入れる二人のドスケベエルフを見ていると……何故か頭がフワフワしてふらついてきた。

 視界から直接襲い掛かるエロと言う名の暴力……どうやら逆上せた状態に今の俺は近いらしい。


「それにしても流石林檎ちゃんね! とてもエッチだわ♪」

「ふふっ、真白さんにそう言われるのなら嬉しいですね!」


 ……俺はこの時、実は薄らと考えていた。

 こんな風に眼福以上の光景を見れるだけでも、嫉妬に狂った連中に誹謗中傷されたとしても仕方ないんじゃないかって。

 まあ、誹謗中傷はいけないことなんだけどな。

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