許さないから潰そうとするお姉さん

「たか君」

「は、はい……」

「お姉さんは怒っているわ」


 で、でたあああああ!!

 真白さんが一人称がお姉さんになる時! それはいつも以上にお姉さんぶろうとしている時だ!

 ……なんて、変に一人で盛り上がるような雰囲気でもないか。

 真白さんは俺のスマホの画面を見ながら言葉を続けた。


「今日来たこのゴミ……こほん、この酷い言葉はともかく大分前から心無いことを言われているみたいじゃないの」

「そ、そうですね……」

「ねえたか君。たか君にとってお姉さんはそんなに頼りないかしら?」

「そんなことはないです!」


 違う……そうじゃないんだよ真白さん。

 確かにこうしてバレた以上は早めに伝えておいた方が良かったかもしれない……でも俺は自分で我慢出来ると思ったから……こんなことで真白さんに心配を掛けさせるわけにはいかないと思ったからなんだ。


(……いや、もしかしたらそう思うのも傲慢な考えだったんだろうか。真白さんと共に支え合い生きていく……そうして親しい関係になったのに俺は黙ってたんだから)


「たか君」


 心配掛けたくないという強がりと、結局心配をさせてしまった申し訳なさ……その二つに苛まれていた俺は真白さんの豊かな胸元に抱き寄せられた。

 ……本当にこうされるのがもはや普通であり、デフォルトかのようなポジションになってきたな……でもとても気持ちが良い。


「ごめんなさいねたか君、ちょっとだけ悪戯をしてみたわ♪」

「……真白さぁん」

「うふふ♪ 可愛いわねたか君」


 まあ……真白さんのことだからそんな感じだろうとは思っていた。

 でもやっぱりもっと早めに相談はしてほしかったようだ。


「直接的な被害がないからこそってのもあるだろうし、たか君の心が強いからダメージを受けてないというのもあるでしょうね。ただ私ならともかくたか君に対するものは許せないわ」

「真白さんなら……そうなりますよね」

「当然よ! というか今からでもこのアカウントに直接言い返したい気分だわ。ねえたか君! 見た感じこれとこのアカウントは私のガチ恋みたいだし、モザイクとかは付けるけど私とたか君のハメ撮りでも送って――」


 一旦そこまでにしましょうか真白さん!!

 きっと冗談だろうけど、実際に実行したら確実に特定の誰かで死者が出そうなその発想は止めましょうか!!

 真白さんも流石に冗談よと笑っているものの目は本気でしたけどね!?


「と、取り敢えず一旦座りましょうか」

「そうね」


 ずっと立っているのもあれなのでソファに二人で座った。

 真白さんは相変わらず俺から離れてくれないので、俺はその豊満な柔らかさを味わいつつも彼女の声に耳を傾ける。


「これ以前はともかく、流石に殺すだなんて見逃せないわ――たか君、私はこれを然るべき場所で裁いてもらおうと考えているわ」

「……やっぱそうなりますよね」

「えぇ。今後減らせるかはともかく、不安の芽は摘み取っておかないと」


 真白さんの表情はどこまでも真剣だ。

 絶対にそうしてやると目が言っているだけでなく、どこまでも俺のことを考え守ろうとしてくれている気持ちがそこにはあったんだ。


「まあ一番は単純に許せないってことよ。こいつは一体誰に対して手を出したのかってことを想い知らせないとだわ!」

「あの……俺に何か出来ることは――」

「もちろんあるわ。でもまずは明日ね! 早速連絡とかしてみましょう!」


 取り敢えず動き出すのは明日かららしい。

 今日は既に配信は終わって休むだけなので、そのまま寝室に向かったのだが……ベッドに横になる前に真白さんがこんなことを口にした。


「まだ何か隠し事とかあったりする?」

「え? 特にないですけど……」


 隠し事と言ったらさっきのことくらいだ。

 後はもう本当に何もないのでそう言ったのだが、真白さんはクスクスと笑いながら俺をベッドに押し倒す。

 ペロッと舌唇を舐めながら……こう言葉を続けた。


「たか君は嘘を吐いてないわね……でも、もしかしたらの可能性を考えて少し聞いてみようかしら――たか君の体に♪」

「真白さん……?」

「まあ、すぐにひぃひぃ言うのはお姉さんだろうけどね♪」


 あ、あ~れ~!


▽▼


 ぶっ殺してやる、そうDMが届いてから数日が経った。

 あれからどうなったかというと結果自体はまだ出てないのだが、弁護士に相談する形で開示請求はかなり早かった。

 インターネットでの活動が主流になっている時代でもあるせいか、こういうことに対して迅速に動けるように色々と変わったらしく、俺と真白さんが今回のことを伝えて動き出すまではかなり早かった。


「凄いですね……こんなに早いんだ」

「やっぱり配信者とかに対する誹謗中傷は増加してるし、何もそれは配信者だけじゃなくて他の人もそう……だからすぐに開示請求も通るのよ」

「なるほど……」

「本当に馬鹿な人たちよ。気に入らないからって悪口を書いて、それで出るとこ出ちゃって大損するんだから。こっちの相手がどうかは分からないけど、示談なんかになった時もこんなつもりじゃなかったって言う人が大半みたいだし」

「それは配信者繋がりで?」

「そうよ」


 人に悪口を言ったり、ましてや心を傷付ける誹謗中傷なんて以ての外だ。

 俺自身は決してすることはないけれど……こういうのを反面教師にするかのように絶対にやったらいけないことだって学びになる。


「あ、真白さん」

「なに?」

「俺、こんなことを言われても傷付かないって話があったじゃないですか」

「あったわね」

「あれって帰ると真白さんが居るからですよ? どんな酷い言葉を言われても、いつだって俺の傍には大好きな真白さんが居てくれる……だから傷付く暇がないんです」


 そう伝えた後、俺が真白さんに押し倒されたのは言うまでもない。

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