誹謗中傷には戦うお姉さん
『は~いみなさんこんばんは』
:こんばんは~!
:待ってた!
:今日もマシロを見に来たぜ!
:50000¥
:出た無言赤スパニキ!
:流石っす
:あれ? たか君居ないんだ?
本日も夜9時辺りをスタートとして真白さんの配信が始まった。
いつものように無言でスパチャを投げて行った人には苦笑したが、コメントにもあったように俺の姿はそこになく真白さん一人での配信だ。
『今日はちょっとやりたいことがあるらしくてたか君は別室で作業中よぉ。なによなによ、もしかしてたか君が居なくて寂しいのかなぁ?』
「ま、真白さん……」
頼むから俺のことでそんな風に煽らないでほしいんだが……。
ワイプに映る真白さんは楽しそうな様子なので、特にこの場からメッセージでも送って辞めさせたりはしないものの、こういうことをされる度にコメント欄の動きが気になって仕方ない。
:見たいに決まってる
:むしろたか君が見たい
:たか君の的確なツッコミを聞かないと寝れない
:たか君からマシロのことを聞くのが楽しいしな
:たか君の話の中でマシロさんが照れるの可愛いですし
:要らねえよ
:もう二度と出すな
:マシロはファンの気持ちを考えるべき
前半はともかく、後半に関しても最近より一層増えてきたコメントだ。
ただのアンチによるものか、それとも愉快犯なのかは分からないけど俺と真白さんの仲を頑なに認めない連中……あれ?
「……もしかして」
そのコメントを見た時、俺はもしかしてと考えてツイッターを開いた。
見ようと思っていたのはDMで、俺に誹謗中傷をしてきた名前と真白さんのコメントに現れたその名前を照らし合わせた時……見事に同じだった。
捨てアカウントと思われるのもいくつかあるが、普通にフォロワーがそれなりに居るアカウントもあった……ていうかこれマジで同じなのかな?
『アンチのことを考える必要なんてないよね? 君たちブロックね』
一緒なのかどうか、それを考えていた時に真白さんの冷淡な声が響く。
不適切な表現をしていたというわけではないけど、明らかに俺に対して攻撃的なコメントを書いていたアカウントが軒並み消えていく。
本来であればモデレーターでもある俺の仕事ではあるんだけど、今日は雑談配信ということで真白さんの手により粛清が行われていく。
『こうやってアンチとか私たちのことを気に入らない人を徹底的にブロックしてくのってさ……人によっては配信者っていう立場なんだから我慢しろって思う人も居るとは思うの。でもやっぱり一人の配信者として気持ち良く配信がしたいし、純粋に私たちのことを応援してくれるリスナーのみんなにも気持ち良く配信を見てほしいから』
:いやいやそれで良いと思うよ
:配信者だから我慢しろってのがそもそもおかしいよね
:マシロとたか君が幸せそうにしてくれるのが活力になるんや!
:自衛は大事だと思う!
:図に乗らせない方が良いと思いますよ!
アンチを弾いていけばコメント欄が平和になるのも当然と言えば当然だ……でもこんな風に受け入れてもらえるというのはやっぱり嬉しい。
思えば俺たちの関係を匂わせ、これ以上は隠せないとして公表した時も確かに嫌なコメントはちょくちょくあったけど……どっちかと言えば温かいものが多かった気がする。
『みんなありがと! それと誹謗中傷とか、本格的にヤバいものが届いたり目に余る事態になったら迷わず開示請求とかするから安心してね! 企業所属とかじゃない個人勢だけど、お金はたくさんあるし!』
おぉ……思えばこうやって戦うと真白さんが断言したのは初めてじゃないか?
配信者というか目立つ人間に対して誹謗中傷が少なからず行われるのは日常茶飯事みたいなものだけど、やっぱりいけないものはいけないから戦うと断言するのは大切なことなんだろう。
「ありがとう真白さん」
別室で配信をしている真白さんに俺の声は届かない……だというのに、モニターに映る真白さんがニコッと微笑んだ気がした。
それから俺は真白さんの雑談配信をBGMにしながら、これから本格的に真白さんをサポートしていくために必要なことを勉強していく――最近、俺が真白さんと一緒に配信に出ないのはこれが忙しいからでもある。
「……ふむふむ……なるほどなるほど……」
勉強と言ってもそこまで難しいものではない。
既に慣れている編集の技術向上のためだったり、切り抜きを作る場合にはどんなことに意識すれば良いのかなど……まあ難しいものを敢えて言うなら必要になるであろう書類の作り方や確定申告に関するものくらいか。
「こういう高校生の身分だと絶対に習わないようなことを勉強すると……なんつうかもうすぐ社会人として飛び立つんだなって感慨深い気持ちにさせられるよ」
もちろん分からないことは真白さんに聞いたり、父さんや母さん……そして真白さんのご両親だったりと頼れる人は多く居る……だから大丈夫だ。
『よし! それじゃあそろそろ終わろうかなぁ……う~ん! おっぱい重たくて肩凝っちゃったからたか君にマッサージしてもらおうっと♪』
:お疲れ様でした!
:……うん? マッサージ?
:肩のだよね?
:そりゃ肩でしょ
:今の声えっど!
:どこをマッサージしてもらうんだよ!!
『肩かおっぱいかどっちかなぁ? ま、おっぱいなら気持ち良くなってそのまま……うふふ~♪』
……真白さん、お酒飲んだりしてないですよね?
コメント欄が凄まじくヒートアップしたものの、そこで配信は終わった。
「全く……でも、俺の方もこんなところで良いかな」
俺も作業を終えて真白さんに合流しようとしたその時だ――偶然気になってツイッターのDMを覗くと新しいメッセージが届いていた。
「……うわ」
それはやっぱりアンチからのもの……というか、真白さんが配信中にブロックした名前で俺の方でも一致していた名前からのものだった。
『お前のせいでブロックされただろふざけんな。絶対に見つけてぶっ殺してやる』
殺す……それは流石にマズいんじゃないかと俺はため息を吐いた。
このご時世どうなるか分からないし、そもそも顔すら知られていないのでそう言う心配がないことも分かっている……でも、これは俺だけの問題じゃなくて真白さんにも何かしらある可能性がある……それを考えた時、俺はスルー出来なかった。
「たか君! 終わったわよぉ!」
ギュッと背中から真白さんが抱き着く。
三桁を越える巨乳をぐりぐりと背中に押し付けてくるその感触が気持ちいいなと思いつつも、俺は真白さんにこのDMを見せることにした。
「真白さん……実はこういうのが来て」
そのDMを見た時、真白さんの瞳から光が消えた。
彼女は何も言わずに俺のスマホを手に取り、しっかりとユーザー名を記憶に刻むかのようにジッと見た後……小さく呟いた。
「いい度胸じゃない」
俺は久しぶりに、真白さんが怖いと思った。
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