やっぱり無防備すぎるお姉さん

 高校三年の冬はまあ……言ってしまうと消化試合みたいなものだ。

 卒業後が既に決まっていることもあってか、俺を含め他のクラスメイトたちはみんな思い思いに過ごしている。

 そして早くも午後の授業が終わり放課後だ。


「帰ろうぜ隆久」

「おう」


 宗二と一緒に帰ろうとすると、クラスメイトの女子があっと声を上げた。


「やっほ工藤君に前田君」

「愛理さん?」

「どうしたんだ?」


 彼女は白沢愛理と言って色々な繋がりから親しくなった女子だ。

 彼女のお姉さんがVtuberをやっており、真白さんとも知り合いということでまあそれ繋がりだ。


「ちょっと声を掛けてみただけだよ。前田君は今日配信する?」

「おう! ちょっとやるつもりだぜ!」

「そっか。それじゃあラジオ感覚でまた聴くからねぇ」


 愛理さんは宗二の配信をよく見ておりお世話になっているとか。

 宗二としてはクラスでもオタクに優しい美人ギャルとして有名な愛理さんが見てくれているというのはモチベになるらしく、プライベートでも宗二と愛理さんは仲がいいらしい。


「なんつうか……あんな風に言ってくれる人が居ると嬉しいよなぁ」

「そうだな。ちょくちょくコメント欄に来るんだろ?」

「そうそう。やり取りから同じ高校って他のリスナーにバレてるけど……まあ身バレに繋がることはないな」

「愛理さんはその辺しっかりしてそうだし大丈夫だろ」


 俺のこともそうだし、お姉さんの秘密も愛理さんはずっと守り続けているから。


「……う~ん」

「どうした?」


 下駄箱に着いた辺りで宗二が何かを考え込んでいたので気になった。

 聞いてみると宗二はもう少し学校から離れたら話すと言ったので、俺は分かったと頷きそのまま歩いていく。


「この辺でいいかな」

「なんだよ」


 宗二はどこか聞きずらそうにこう言った。


「……ないとは思うんだけど」

「うん」

「隆久……誹謗中傷とかされてないか?」

「……なんで?」


 それは……正にピンポイントだった。

 まあ誹謗中傷というか真白さんとの関係を認めないものであったり、配信に出て来るなというDMはよく来る。

 ぶっちゃけこれに関しては真白さんとの関係を公にし、日頃から傍に俺という存在が居ることが発覚してからだが。


「おいその様子だと……」

「大丈夫だって。別に気を病んだりはしてないから」

「……………」


 それでも宗二はスルー出来ない様子だった。

 ……宗二はやっぱり優しすぎる……まあ他の友人たちもそうなんだが、事情を知っているだけに誹謗中傷に関しては安易に聞き逃せないみたいだ。


「ほら、誹謗中傷で気を病んで活動出来なくなったりってあるだろ? 他に配信者とかVtuberとかでも良く聞く話だし……」

「ま、確かにあるわなぁ……」


 よく有名税だから我慢しろとか、それで傷付くなら配信者とか向いてないとか心無い言葉もよく見る……俺の場合は配信者というわけではないのだが、それでもアンチからしたら恰好の的なんだろう。


「女性の配信者ってだけでもそうだけど、ASMRとか自撮りの写真なんかでファンがめっちゃ居たからなぁ……ガチ恋勢ってのは居るもんだよ」

「それでも誹謗中傷をしていい理由はならないだろ」

「……確かに」


 まあ誹謗中傷をしてくる奴に何を言っても無駄だ。

 そもそもそれで泣き言を言ったら更に攻撃されるし、止めてくれとお願いしてもエスカレートするのは目に見えている。

 というか……俺個人としては本当にどうとも思ってないんだよ。


「いつも真白さんが傍に居てくれるから傷付く余裕がないのも大きいな」

「傷つく余裕がないって凄いな……」


 真白さんの存在がとにかく大きかった。

 もちろん真白さんにも当たり前のようにアンチは居るし、俺と別れろだのとしつこくDMを送ってくる奴は居るみたいだが、その度に真白さんはダサい人だねと笑っているほどだ。

 そんな彼女が傍に居たらある程度の耐性は付いてしまうし、それこそ少しでも嫌な気分になったら癒してもらえるからマジで傷付く余裕がない。


「だから心配するなって宗二。でもマジでヤバくなったら相談はさせてもらうか」

「是非そうしてくれよ! 何か出来るわけじゃないけど、気を紛らわせるくらいは俺にだって出来るんだからよ!」


 ……本当に良い友人を持ったよ俺は。

 その後、宗二と別れてすぐにマンションへと帰ったのだが……帰った俺を待っていたのはあまりにも無防備な真白さんの姿だった。


「すぅ……むにゃ……」


 ソファに深く背中を預けるようにして真白さんは眠っている。

 テーブルに裁縫道具が置いてあるので編み物をしていたようだ――というか、無防備なのは何もその眠っている姿だけじゃない。


「……何だこの服……エロ過ぎんだろ」


 真白さんの服装……なんだろうこの服。

 こういうタイプの服の名称が分からないので頑張って言葉で説明すると、セーターなんだけど脇から手先まで肌を露出しており、更には何故か横乳が見えるというあまりにもアレな服装だ。

 冬とはいえ暖房が効いているからこそだろうけど……え? エッチすぎない?


「真白さん……?」


 呼び掛けても返事はない。

 どうやらかなり深く寝入っているようで……もしかしたら配信の疲れが結構溜まっているのかもしれないと俺は考えた。


「たか……くぅん……すきぃ……」


 そんな寝言が囁かれ、俺はもうニヤニヤしっぱなしだ。

 取り敢えず真白さんが起きるまで傍に居ようかと考え、彼女の隣に座って俺は好きに時間を潰していく。


「……………」


 ただ……この横乳が見える服が気になって仕方ない。

 なんだろうこの視線の吸引力は……そしてなんでこんなにも手を突っ込んでみたいとか思わせるんだろうか……。

 セーターかどうかはともかく、横乳が見える服ってアニメやゲームのキャラだとしょっちゅう見る気がしないでもないが、真白さんだからこそエッチさをこれでもかと感じてしまう。


「耐えろ……耐えるんだ俺」


 とはいえ……なあ宗二?

 帰ったらこういうことがあるから本当に傷つく暇がないんだよ……だって傷つく以上に強烈な何かがあるわけだからさ。

 それから俺は真白さんが目を覚ますまで、チラチラと視線を行ったり来たりさせながらジッと待つのだった。

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