ある雪の日に
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある雪の日におじいさんは、町に薪を売りに出かけました。
その途中で罠にかかった鶴を見つけました。
かわいそうに思ったおじいさんは、鶴を助けてあげることにしました。
「二度と罠にかかるんじゃないぞ」と声をかけながら、罠を外してやりました。
そしてその夜、雪が激しく降ってきました。おじいさんとおばあさんが「雪が激しくなってきましたねぇ」と話していると、戸をたたく音が聞こえてきました。
「ばあさんや、誰か来たようじゃ」
「じいさんや、今日は雪が強い。気のせいじゃ」
「そうか、そうか」
しばらくすると、声が聞こえてきました。
「ごめんくださーい」
「ばあさんや、やはり誰か来たようじゃ」
「じいさんや、今日は風も強い。気のせいじゃ」
「そうか、そうか」
またしばらくすると、今度は先程よりもっと大きな声が聞こえてきました。
「ごめんください!聞こえていますか!!気のせいじゃないわよ。客が来ているんだから、はやく開けなさいよ。外、めちゃくちゃ寒いのよ!!」
そんな声を聞きながら、おじいさんとおばあさんは、恐る恐る戸をあけました。
外には、美しい女が立っていました。
しかし、頭から雪をかぶり、髪の毛は風で舞い上がり、顔は蒼白で、唇は紫色です。
「うひゃぁ!!雪女じゃ!!」
おじいさんは悲鳴を上げました。
「失礼ね。あんたたちのせいでこんなことになってんのよ。寒い中待たされたんだから。しかも雪女じゃないわ、泊めてもらおうと思った旅人よ!!」
おじいさんとおばあさんは、女の話を聞き、謝りながら招き入れました。
「さっそくだけど、泊めてもらうお礼に機を織るわ。本当はいろいろと手順があるのだけれど、もういいわ。奥の部屋を借りるわね。機を織っている間、決して中をのぞかないでね」
そういうと女は奥の部屋に入っていきました。
しばらくすると、機を織る音がパタン、パタンと聞こえてきました。
最初は、気にならなかった機織りの音ですが、だんだん気になってきました。
そして、なんでのぞいてはいけないのか。
おじいさんとおばあさんは、じりじりと襖のほうに寄っていきます。
「おじいさん、なぜのぞいてはいけないのでしょう?」
「さあ、なんでじゃろう」
「のぞくなと言われるときになりますねぇ」
「そうじゃのう」
そういって、二人が襖に手をかけようとした、その時。
スパンっと襖が開きました。そして、女が仁王立ちをしていました。
「のぞくなって言ったでしょ。油断も隙も無いんだから」
「いや、まだ、のぞいては…」
とおじいさんが言いますが、女は全然聞いていません。
「まったく。私はね、昼間に助けてもらった鶴よ。恩返しに機を織ろうと思ったけど、見られてしまったら、もうおしまいね。機織りは途中だけど、帰らなくてはいけないわ。仕方がないから、機はそのままにしていくわね」
おばあさんが、そっと部屋の中をのぞくと、機織り機が見えました。
パッと見、きれいな布が織っている最中に見えました。が、よく見ると仕上がり的には残念な感じでした。端がガタガタ、糸はきれいなのに柄が…。
おばあさんがそっと女を見ると、女は真っ赤な顔で言いました。
「鶴にもね、得手不得手というものがあるのよ。と、とにかく、正体がばれた私は、仲間のところに帰らせていただくわ」
そう言って、女は外に出ました。
「次に助ける鶴は、裁縫が上手だといいわね。」と女は捨て台詞をはくと、鶴に姿を変え、飛び去っていきました。
おじいさんとおばあさんは、空を見上げながら、ぽつりと言いました。
「何だんだったのだろう?」と。
しかし、おじいさんたちは、もしかしたら、鶴が帰ってくるかもしれないと機織り機をそのままにしているようですよ。
めでたし、めでたし。
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