シンデレラになんかさせない(シンデレラストーリー妹サイド)後編
「あら、目が覚めたのね。」
「っ!」
私は一瞬身構えた。
初めて見る人なのに、私の中でこの人は自分の母親であると分かった。
大きな屋敷のような家で、私はふかふかのベッドに寝ていた。
どうなっているのか理解できなかったが、母は私に微笑みながら近づき、頭を撫でてきた。
「大丈夫?うなされていたみたいだけど…。」
「…嫌な夢を見たの…。」
「そう…もう大丈夫、ここはもう夢の中じゃないからね。」
優しい声…
なぜか私は、自分が生まれ変わったんだと分かった。
前世の母親とは違う、優しい母親…。
「ちょっと待ってて、お水を持ってきてあげるわ。」
そう言って部屋を出て行った。
「何こんなところまで来てるのよ!穢れがうつるでしょ!さっさと消えて!」
さっきまでとは打って変わって声を荒げ、何かを投げつける音がした。
驚いて部屋の外を見ると、そこには金の髪と青い目を持つ、薄汚れた女の子がいた。
「申し訳ありません…妹が心配で…」
「あんたなんかに心配されたら余計あの子の体調がおかしくなるでしょう!この疫病神が!」
そう言って女の子を平手打ちした。
「たく…身の程をわきまえなさい。」
そう言ってツカツカと母は行ってしまった。
あの子が何をしたのか分からなかったが、前世の私を見ている様で可哀想になった。
助けてあげようか迷っていると、俯いていたその子が顔を上げた。
しかし、その子から先ほどまでの弱々しい雰囲気は消えていた。
「チッ…妹に刺し殺された後にこんなところに転生しちゃって、最悪。早く婚約者とか出てきて、ここのクソ家族一網打尽にしてくれないかなぁ…」
ああ…そうか。
あの子は私が殺した姉が生まれ変わった姿なんだ。
そう分かった途端、あの子に抱いていた気持ちは一瞬で消え去った。
今までこの子の姿で姉に対してしてきた事を全て思い出した。
この世界での姉は、前妻である姉の母が不倫相手との間に生んだ子。
日本人との間に生まれたならまだしも、姉の母は何を考えたか、外国人と不倫をしたようで、生まれた瞬間に不倫が分かり、父から冷遇された挙句、今の私の母が父と不倫し、私を身籠ったことで、母と結婚するにあたり、姉の母が邪魔になった為、母と父が結託して姉の母を毒殺、その後首吊り自殺に見せかけ、姉の母は不倫したことの罪の意識に駆られて自殺した事になっている。
この世界の警察の捜査能力はどうなっているのだろう…。
そして2人はその後結婚、すぐに私が生まれ、2人から大層可愛がられて育った。
私も不倫によって出来た子ではあったが、姉の母の方が先に不倫をした為、母を悪く言う人間は誰もいなかった。
つまり今の私は、前世の私とは真逆の立場なのだ。
そして今、倒れている姉を見て、勝手に口角が上がり、体が動いていた。
「あらお姉様、そんな見窄らしい姿で、何をしていたの?」
「…あなたが心配で、何か薬を差し上げた方がいいんじゃないかと…」
「やだ怖い…その薬で私を殺そうとでもしていたの?」
「そんな事をしようなんて思っていません!」
「お姉様の持ってくるものなんて、危なくて口になんか出来るわけないでしょう!お父様を裏切った卑しい女の娘のくせに!」
「…。」
姉は俯いて黙り込んでしまった。
「黙ってないで謝って。私に不快な思いをさせた事を。」
「…不快な思いをさせてしまって…申し訳ありません…。」
「分かればいいのよ。お姉様なんて、生きてるだけで常に私達の気を逆撫でしているんだから。」
そう言って部屋に戻った。
母が戻ってきて、まだそこにいた姉を再び怒鳴りつけた。
走り去る姉の足音が聞こえた。
「全く、いるだけで殺意が湧くと言うのに、何故余計な事をするのかしら?」
「おバカだから仕方が無いのよ。自分の身の程をわきまえられていないのね…可哀想。お姉様を本当の姉だと思ったことなんか一度もないのに、お姉様は私を本当の妹と思っているみたい。迷惑な話よね。あんな穢れた存在。」
「本当よ。生まれた瞬間からこの家の汚点だったんだから。」
姉はこの世界ではまるで前世の私のような扱いを受けていた。
でも、自業自得だと思った。
少しした後、姉を嫁がせると言う話が出てきた。
基本的に家を継ぐのは長子ではあるが、前妻の、しかも父と血の繋がりのない不倫相手との子である姉を後継にするなどと言う事は当然の事ながら出来る訳が無かった。
とは言え、嫁がせるにしてもこんな訳ありの女を娶ってくれる男もいないであろう。
そんな時に候補が上がったのが、婚約者に酷い扱いをし、ことごとく婚約者が逃げ出すと言う噂を持つ男であった。
年も30近くになり、この世界の感覚では男でもこの歳で結婚していないと訳あり扱いされ、大体の女が厄介払いのために嫁がせると言う名目でこの人と婚約させられるらしい。
年齢以外でも、婚約者が逃げ出す時点で十分訳ありだと思うが…
婚約者が逃げ出すとは、どんな酷い男なのか…
後日、その男が家に来た。
両親は来なかったようで、その人1人と、付き人1人が来た。
30歳の割に若い見た目、整った顔立ちをしていたが、無表情でその場にいる様は、まるで氷のように冷たかった。
その日だけは綺麗にしておかなければと、姉を風呂に入らせ、化粧や髪も整え、それなりの服も着せてその場に居させた。
「その娘が、私の婚約者と言うことですか?」
「はい。前妻の不貞により生まれた子で、目や髪色が日本人と大きく異なりますが、働き者の娘でございます。」
「なるほど…私も贅沢を言える身分ではありませんからね…いつこちらに来てくださいますか?」
「いつでも構いません!」
両親揃って前のめりになってそう言った。
本当に両親は姉をすぐにでも追い出したかったようだった。
まあ私も、あの憎き姉の生まれ変わりだと思うと、早く目の前から消えて欲しいと思ってしまう。
「…分かりました。では1週間後にこちらに来ていただけますか?」
「1週間後ですね、その日の昼にでもお送りします。」
「ではそう言う事で。」
そう言って、姉の婚約者は退室した。
その時、何故か私は婚約者が気になり、後を追って行った。
庭に出た所で、婚約者が振り返ってきた。
「あ…あの…少しお庭に出たいと思って…」
「〇〇…だよね?」
「!?」
その名は、私の前世の名であった。
「どうして…」
「…僕だよ…××だ。」
私は耳を疑った。
その名は、前世の婚約者の名前…。
「何で…姉を失ったショックで、あなたも自ら命を絶ったの?」
「違う。君を失ったからだ。あの女は、僕が君との婚約を解消し、自分と結婚すれば君を虐げるのをやめてくれると言ったんだ。それのなのに…あの女はありもしない俺とあの女とのやりとりを動画で君に見せて絶望させてやったと、親に暴力を振るわれてボロボロになった君の画像と共に送ってきたんだ…。」
「え…あなたは、姉と愛し合っていたんじゃないの?」
「妊娠も結局嘘だった。動画もアイツの知り合いで背格好の似た男と、ディープフェイクを使って作ったらしい。僕はまんまとあいつに騙され、君を傷つけただけだった…だからあの事件の後、僕はマンションの屋上から飛び降りて死んだ。信じられないかもしれないけど…。」
私は驚いて目を丸くした。
てっきり彼は私より姉を選んだのだと思っていた。
彼が嘘をついているとは思えない。
彼は自分だけを守る嘘はつかない。
見え透いた、その場しのぎのバレバレで笑ってしまうような嘘と、あの日私の前で吐いた、私を守るための嘘しか知らない。
「そして目覚めたら、漫画や小説でよくある悪名高い男になっていた…。あの女、さっきいた今世の僕の婚約者に転生しているだろ?」
「そこまで分かったの?」
「目が合った瞬間に分かった。弱々しいフリをして反撃の機会を伺うような雰囲気があった。そして僕があの女を迎え入れると行った瞬間、俯いたまま笑っていた。僕はアイツを許さない。散々虐げて、鼻柱をへし折って、追い出してやる。」
「…そうね。それが姉に対しての、2人の最大の復讐になるわね…。」
そう言って、彼は帰って行った。
ついに姉が嫁ぐ日。
「ようやくお姉様の顔を見なくて済むようになるのね。せいぜい追い出されて野垂れ死なないようお気をつけて♪」
「例え追い出されても、お前の居場所などここには無いからな!2度と戻ってくるな!」
「戻ってきたら私が殺してやるわ…」
両親と私から散々言われたが、姉は表情ひとつ変えなかった。
「お世話になりました。」
そう言って、この家を出て行った。
「あー、ようやく目の上のたんこぶが消えてくれた。」
居間に戻り、そう言って父はソファに座った。
「本当、やっといなくなったわ。あの穢らわしくて憎い不貞の子…。」
「…。」
2人の様子を何となく見つめていると、2人がそれに気付いた。
「どうした?」
「あ…いや、何でもないわ。」
「何でも言いなさい?怒ったりしないから。」
そう言われ、私は思ってもいないことを言った。
「もし、あの悪名高い方が、実はいい人で、お姉様と結婚してしまって、仕返しに私達に何かをしに来たらどうしようと思って…」
そう言うと、両親は吹き出して笑った。
「あの方に限ってそれは無い!名目上婚約という形でアイツを出したが、あの方の所に行く女は皆何かしら訳ありなんだ。不貞をおかしたものの子供や、罪を犯した女、家族が手に負えなくなったもの、口減し、そう言う目的で追い出す女を、婚約という形で一時的に預かり、追い出すんだ。」
「噂では他の働き先を紹介してくれる場合もあるらしいけど、あんな毛色の人間に働けるところなんてある訳ないわ。あったとしたら見世物小屋ね。」
そう言って笑っていた。
「そうよね…あり得ないわよね…。」
「心配するな、何があっても守ってあげるからな。」
そう言って、父が頭を撫でてくれた。
前世では両親がこんなことをしてくれたことは無かった。
その後、彼の言った通り姉は追い出され、途方に暮れながら歩いていた。
「あら、お姉様じゃない?」
「何?もう屋敷を追い出されたの?」
「っ…」
計画が丸潰れになり、一網打尽にするはずだった私達に見下され、大層悔しいだろう。
「奪われる気持ちはどう?姉さん。」
そう姉の耳元で囁くと、姉は目を見開いて私を見た。
「まさか…あんたも転生したの…?」
「そう。あの後姉さんを刺している所を両親に見つかって、首を切られて死んだ…私はただ平和に生きたいだけだったのに、あんたが全部奪い去ったのよ…。今度は私が奪う番…。」
そう言って、絶望する姉から離れ、母の元に戻った。
「お姉さまの戻るところはどこにも無い。いつまで生きる事ができるかしらね?フフフ♪」
「行きましょう。こんな薄汚い人間と一緒にいると、私達まで同類に見られるわ。」
その後私と母は姉に殺された。
そしてまた目覚めると、また違う世界にいた。
目の前には姉が眠っている。
もう分かる。
あの姉であることは。
「あ、やっと目が覚めたんだね。お姉ちゃん♪」
絶望に歪む姉の顔…。
さて、今度はどうやって絶望のどん底に叩き落としてあげよう?
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