短い物語たち

ファンからアンチになった子の話

私の推しは罪を犯した。

一般人と結婚したのだ。

アイドルは皆のもの。

誰のものにもならないからこそ尊いのだ。

それなのに…一介の人間なんかと結婚して…許せない。

私は熱烈なファンであったが一転、アンチと化した。

他のアンチ達と一緒に、元推しのアカウントには連日大量の誹謗中傷をした。

誰かのものになったあなたなんていらない。

結婚したならアイドル辞めて、芸能界も辞めて、陰日向でひっそり暮らせ。

いつまで私たちを騙し、傷つけ続ければ気が済むんだ。

祝福の言葉なんて送るから調子に乗るんだ。

私は祝福コメントを片っ端から通報し、一つでも消えるように活動し続けた。

元推しのした事がいかに罪深いか分からせるために…。

しかし、時間が経過するとともに、アンチも少なくなって来た。

何故だ…どうして皆あいつを否定しない…？

私は1人でも続ける。

私が愛した推しに裏切られたこの恨みは、10年やそこらで消えるものではないことを思い知らせてやる…。

そうしてアンチを続けた結果、今度は私の方にいろいろな意見が飛んできた。

いつまでやってるの？

もう昔の話だし、浮気したわけじゃないのに何で今までしつこく叩いてるの？

目障り

そんな言葉ばかりが連日来るようになった。

…は？

何で私が否定されなきゃいけないの？

人に夢を見せる存在がファンに対して最大の裏切りをしたんだよ？

逆に何で皆は認められるの？

私は皆に問いかけた。

そうするとこんな言葉が返ってきた。

じゃああなたはどうしたいの？

推しが相手と別れて不幸になっても良いの？

ファンが推しにしてあげられることなんてたかが知れてる

ファンが推しの人生背負ってやれるの？

その覚悟も無いのに軽々しく裏切ったとか言わないで

…何言ってるの？

アイドルって仕事選んだなら死ぬまでファンの理想を貫くのがファンでしょ？

死ぬまでアイドルやるなら私は死ぬまでついていくつもりだった

推しだけが自分の生きがいだったから

私はそう返した。

そうするとこんな言葉が返ってくる。

それはエゴ

理想を押し付けて方本当の意味で推しを理解していない。

推しが可哀想

そしてこんな言葉が私を突き刺した。

あんた今までまともな恋愛した事ないでしょ（笑）

考え方がストーカーっぽい

あんたみたいなファン持ってつくづくあんたの推しは可哀想

…何なの？

私の恋愛遍歴なんて関係ないでしょ？

真のアイドルなら、ファンが求めるものを常に提供するのが当たり前でしょ？

あの子達は凡人では到底行き着けない地位に行き着いている。

だったらせめて選ぶにしても同じ地位にいる人を選ばなきゃダメでしょ

何で逆にあんたたちはそう思わないの？

私はこの時ムキになっていた。

そしてこの時の発言が、後に私を苦しめることになる。

それから数日が経ち、衝撃的な話題が目に飛び込んできた。

私がアンチをしていたアイドルが、芸能界を引退したのだ。

本人は前から体調不良が続いており、治療に専念するために芸能界を引退することにしたと言っていたが、SNS上ではしつこくアンチをした奴らのせいで精神を病んでしまったのではないかと言う憶測が飛び交い始めた。

そしてその矛先は、私に向けられた。

お前が追い詰めたんだ。

お前があんな事を言わなければ、もっとあの子のキラキラした姿を見ることができたんだ。

お前のせいだ。

責任とれ。

そんな書き込みが大量に私の元に届くようになった。

さらに、それに便乗して心無い言葉を投げつけてくる人間も出てきて、収拾がつかなくなった。

私はアカウントを消してそこから逃げた。

あの子は10年前、こんな状況に耐えていたのか…。

その後、その子は完全に芸能界から姿を消してしまい、SNSなどもやらなかったので、その子がどうなったのかは分からずじまいだった。

その後、私はSNSをやるのをやめた。

衝動的に書き込みをすると取り返しのつかないことになると言うことを、ようやく理解した。

これからは静かに暮らそう…。