短い物語たち

親（若干残酷描写あり）

「これだから片親はダメなのよね…。」

幼稚園で、私の子供と同級生の子の親で、事あるごとにそう言ってくる母親がいる。

名前をA子と言っておく。

片親と言っても私がシングルマザーというわけではない。

私は旦那と子供、仲良くやっている。

私の親がシングルファザーだったのだ。

母は不倫で、私と父を捨てて行ったのだ。

しかし、父は母親の分まで私を愛してくれていた。

どこからそれを聞きつけたのか、同級生の母親は皆知っている。

しかし、他の母親はそれを知ってても変わらぬ態度で接してくれている。

A子だけが片親のことであれこれ言ってくるのだ。

私の子がA子の子供に比べて落ち着きがなく、言うことを聞かないのは、親が片親でろくに躾もさらずに育ったからだ、やはり両親が揃ってないとまともな子は育てられない、等と言ってくる。

私も言い返すが、全て片親の負け惜しみで片付けられてしまう。

確かにA子の子供はおとなしくて、よく言うことを聞くお利口な子だった。

しかし、どことなくA子に怯えているように見えた。

そんなある日、いつもに増してA子が騒がしくしているので、何だと思えば2人目が出来たらしい。

「私の夢はあの子が叶えてくれるから、この子にはのびのびと育ってほしいわ！」

愛おしそうにお腹を撫でながらそう言うA子の言葉に違和感を覚えたが、その時はそれがどう言う意味なのかわかっていなかった。

その後、無事A子第二子を出産。

しかし、退院してすぐ、悲劇が起きた。

上の子が下の子を階段に投げ落とし、死なせてしまったのだ。

その後A子の家庭での様子が噂で流れてきたが、A子は上の子に、自身の夢を叶えてもらうために様々な事を無理強いしていたらしい。

しかもいう事を聞かない場合は旦那に頼んで暴力を振るい、反抗しないように徹底的に躾けていたらしい。

これはもはや躾ではない。

さらに、それはA子の家で代々行われてきた事だと言う。

A子の家では、長子が母親のなりたかったものを叶えるというしきたりがあり、長女であったA子は、絵を描く職に就きたかったがしきたりによって諦め、A子の母がなりたかった教師になったらしく、A子は上の子に自身の夢を押し付けていたのだ。

A子の旦那が大人しく従っていたのは、旦那が婿養子で、尚且つA子の兄弟とも同居していたようで、逆らいようがなかったからとのこと。

上の子がなぜ下の子を階段から落としたのかを聞いたところ、

「パパとママが私にしていた事をやっただけ。いう事を聞かなかったから階段から落として痛い思いをさせてやったの。」

と言ったらしい。

A子の子供の体には、服で隠れる所にあざがたくさんあった。

A子の子供は14歳未満の為罪に問われることはなかったが、躾の域を逸脱した両親の

行為がわかり、その後両親は逮捕、子供は施設に預けられることになった。

「私だって同じ目にあったのよ！子供に同じことして何が悪いのよ！」

そう警察に怒鳴ったようだが、警察は冷静に、

「あなたの家庭ではそれが普通だったのかもしれませんが、これからその普通がどれだけ異常なことであったか思い知らされるでしょう。」

女性刑務所では、子殺しや虐待をした女性が特に酷い扱いを受けると聞いたことがある。

私の親は片親でもまともで良かった…