事件発生
第16話 買い物中止?
その日のお昼ごろ、わたしとスズちゃんと葛葉君の三人は、街にあるショッピングモールに来ていた。
たくさんのお店が入っているから、買いたいものがある時や遊びに行く時は大抵ここに行く。
まだまだこの街に慣れてない葛葉君に、案内してあげることにしたんだ。
けど男の子だと、わたし達とは興味ある場所も違ってくるかも。
「どこか行ってみたいところってある?」
「うーん、今は特に買いたいものもないからな。二人は行きたい場所ってないのか?」
「いいの? 今日は葛葉君を案内するために来たんだけど」
「ああ。気になる場所を見つけたら、その時言うよ」
じゃあ、お言葉に甘えて。実はさっき見たアクセサリーショップで、気になるのがあったんだよね。
お店の中に入っていって、入口の近くに置いてあった、ピンクのリボンのついたシュシュを手に取る。
「あっ、可愛い」
スズちゃんも、一目見て気に入ったみたい。
一方、葛葉君はというと──
「それって髪に結ぶやつだろ? 一条はともかく、大江の髪はそこまで長くないし、変にならないのか?」
なんて言ってる。
たしかにわたしの髪は、スズちゃんと違って肩くらいまでしかないけど、それだけあれば十分だよ。
「いい、葛葉君。よく見てて」
スズちゃんにシュシュを渡す。するとスズちゃんは、そのシュシュを片手で持ちながら、もう片方の手で、わたしの髪を軽く握って束ねていった。
「例えばこうやって……ほら、ポニーテール。次は……おだんご」
「ねっ。ちゃんとできるでしょ」
ちょっと短くても、スズちゃんが結んでくれた髪はちゃんとかわい。
実はこういうオシャレ、わたしはスズちゃんから教わってるの。スズちゃんのうちはお金持ちだけど、わざわざ高いものを買わなくても、ちゃんと可愛くはできるんだって言ってた。
他にも色んな髪型にしてもらうけど、その度に、違う自分になれるみたいで楽しいんだよね。
「どう?──って、もしかして男の子には退屈だった?」
わたし達は楽しかったけど、葛葉君はどうだろう。もしかして、失敗だった?
「いや、そんなことないぞ」
葛葉君はそう言うと、わたしにだけ近づいて、そっと耳元で囁いた。
「変化の術で女の子に化ける時、服とかアクセサリとか、どうすればいいかわからないことが多いんだ」
なるほど。
そういえば、昨日スズちゃんのお母さんに化ける練習をしてた時も、どういう服にすればいいかすっごく悩んでた。
葛葉君が化けると服まで変わるけど、どんな服があるのかとか知らないと、うまく変えることもできないよね。
「じゃあ、今度わたしが女の子のオシャレを教えてあげるね」
それから、モールの中にあるファストフード店でお昼ご飯を食べる。
それぞれ注文したハンバーガーを頬張っていると、わたしのスマホが鳴り出した。お父さんからの電話だ。
「もしもしお父さん。どうしたの?」
「真弥か。今、どこで何をしてるんだい?」
「スズちゃんや葛葉君と一緒にモールに来てるよ」
わたしが何してるのか気になって、連絡してきたのかな?
そんな風に思ったけど、それからお父さんは、急に深刻な声になる。
「真弥、よく聞いてほしい。本当に悪いんだけど、今すぐ家に戻ってくれないか。葛葉君も一緒にだ。そして、お父さんが帰るまで、誰も中に入れないように」
「えっ?」
どうして急にそんなこと言うんだろう。
「わかった。けど、いったいどうして?」
「それは……」
本当のこと言うと、もっとここで遊びたい。けどお父さんの様子はすっごく真剣で、とても嫌って言える雰囲気じゃない。
だから余計に、その理由を知りたかった。
「今、お父さんが、シノザキって妖怪を捜査してるってのは知ってるよね。そいつが、僕たちの住んでる街の近くにいたかもしれないって情報を掴んだんだ」
「えっ? なんで?」
「わからない。けどシノザキ、僕から追われてるってのを知っているのかもしれない。その上で、わざわざこの街にやってきたんだとしたら、僕のことを調べてたのかもしれない」
それって、すっごく大変なことなんじゃないの?
けどちょっと待って。それでわたしも家に戻れってことは……
「もしかして、わたしも狙われてるかもしれないの!?」
「い、いや。それはあくまで念のためだ。街の近くにいたってのも確かな情報じゃないし、本当だとしても、目的なんてわからない。ただ、もしそんなことになったら大変だから、一応用心はした方がいいって思ったんだ」
「そ、そう?」
だったらいいんだけど、そんなこと言われたら、やっぱり心配になるよ。
もしかしたら、今もどこかから狙われてるかも。なんて思ってた周りを見回したけど、シノザキってのがどんなやつかも知らないし、わかるわけなかった。
「とにかくそういうわけだから、早く家に帰るように。お父さんも、なるべく早く帰れるようにするから」
「うん、わかった。お父さんも気をつけてね」
そこまで話したところで、電話が切れる。
遊ぶのが中止になるのは残念だけど、そんなこと言ってる場合じゃない。お父さんの言う通り、すぐに帰らないと。
問題は、葛葉君には全部話すとして、スズちゃんには何て言うか。妖怪に狙われてるかもしれないから帰るなんて、とても言えないよ。
けれどそのスズちゃんを見ると、いつの間にかわたしみたいに、スマホで誰かと話していた。
そして通話を終えると、なんだか不思議そうに首を傾る。
「えっと……真弥ちゃん、葛葉君、ごめんね。今お父さんから電話があって、すぐに家に帰るように言われたの」
「ふぇっ。スズちゃんも? なんで!?」
同じタイミングでそんなことになるなんて、いったいどういうこと?
だけどスズちゃんは、詳しい理由までは聞けなかったみたい。
なんだか変な感じだけど、みんな家に帰ることは決まった。
食べかけだったハンバーガーを急いで食べ終えると、三人揃ってモールの外に出る。
するとそこで、わたし達を出迎えるように、知ってる顔が現れた。スズちゃんのうちのお手伝いさん、坪内さんだ。
「ああ、よかった。行き違いにならなくて。鈴音お嬢様、実は、旦那様からすぐに家に戻るようにと連絡があったのです」
「うん。さっきお父さんから電話があったよ。迎えに来てくれてありがとう」
坪内さん、迎えに来てくれたんだ。
車で来てるって言うから、スズちゃんが、わたし達も家まで送ってほしいって頼んでくれたの。
「かしこまりました。それでは、みなさんこちらへ」
坪内さんについていって、モールの駐車場にやってくる。そこに止まっていたのは、普段学校に迎えに来る時に使ってる、スズちゃんのうちの車──じゃなくて、初めて見るやつだった。
「いつも使っている車は点検に出していて、今日はこの車できました。さあ、乗ってください」
坪内さんに促されて、後ろの席に座る。
初めて乗った車の中は、少し甘い匂いがした。
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