第13話 緊急、お泊まり会

「スズちゃん、大丈夫かな……」


 あれから、わたしもスズちゃんと一緒に車に乗せてもらって、家に帰りつく。

 スズちゃんとは車の中でも色々お喋りしたけど、やっぱりどこか寂しそうだった。

 無理ないよね。


 なんとかしてあげたいけど、わたしじゃどうすることもできない。そんなモヤモヤした気持ちで家に入ると、お父さんが出迎えてくれた。


「やあ、真弥。お帰り」

「お父さん? 今日はお仕事はもういいの?」


 お父さんはお仕事の都合で、帰ってくるのが早い時も遅い時もある。だけどこんな時間に帰ってるのは、かなり珍しい。

 それにお父さんのそばに、旅行用のスーツケースが置いてあった。


「これ、どうしたの?」

「それが、急な仕事で泊まりがけで海外に行かけなくちゃならなくなったんだ。だから真弥には留守番してもらうことになるんだけど、いいかい?」


 本当に急な話だ。スズちゃんのお父さんも急な用事って言ってたし、はやってるの?


「わたしなら平気だから。それよりお父さんこそ大丈夫? お父さんのお仕事って、悪い妖怪を相手にするんでしょ。妖狐族の、シノザキって奴」

「ああ。その話、葛葉君から聞いたんだっけ」


 お父さんは強いらしいけど、そういう悪い奴と戦うってのは今もイメージできないし、シノザキってのは相当危ないみたいだから、どうしても不安になる。


「心配ないよ。葛葉君から、人間の中にも妖怪をサポートする組織があるって話も聞いてるんだよね。今回の仕事は、シノザキに狙われているかもしれない組織の人の護衛なんだけど、さっきも言ったように、その人がいるのは海外。シノザキが国外に出て何かしたって話は聞かないから、しばらく日本に戻らずじっとしてれば、きっと大丈夫だよ。お父さんが護衛につくのは、念の為さ」

「そうなんだ」


 シノザキって奴とは直接戦わずにすみそうで、少しホッとする。


「それよりお父さんは、真弥の方が心配だよ。今まで泊まりがけの仕事に行く時は、百鬼夜行の誰かが家にいたからな」

「わたしは大丈夫だよ」


 お父さんの言う通り、わたしだけでそんなに長く留守番するのは初めて。


 そんなの平気だよって思ったけど、お父さんは心配みたい。


「そこでだ、葛葉君に、泊まってもらうよう頼んでおいた」

「ふぇっ、 葛葉君に? 別にいいのに」


 その葛葉君なんて、一人で暮らしてるんだよ。少しの間お父さんがいないからって、わざわざ泊まりに来てって頼んで、笑われたらどうするのさ。


 だけど葛葉君は、もう少ししたらうちに来るそうだ。


 まあいいや。お泊まり会みたいで、ちょっと楽しそうだしね。

 お父さんがいないってことは、いつもよりちょっぴり夜更かししても大丈夫そう。ちょうど明日はお休みだし、一緒にゲームでもして遊ぼう。


 けど、待って。

 そこまで考えた時、ふとあることを思いついた。


「ねえお父さん。葛葉君以外に、もう一人呼んじゃダメかな?」




◇◆◇◆




「葛葉君、いらっしゃい」


 わが家の居間で、泊まりにきた葛葉君に挨拶する。

 それに、もう一人。


「スズちゃんも、来てくれてありがとう」

「こっちこそ、誘ってくれてありがとね」


 今日うちに泊まるのは、葛葉君だけでなく、スズちゃんも。


 急遽、お父さんが帰ってこれなくなったスズちゃん。

 スズちゃんは仕方ないって言ってたけど、本当は寂しがってる。


 なんとかして、元気にしてあげたい。そこで思いついたのが、このお泊まり会。わたしと一緒にたくさん遊べば、少しは気持ちも晴れるかなって思ったの。


 お父さんにも許してもらって、スズちゃんに電話したら、最初はすごくビックリしてた。けど、すぐに坪内さんたちに話をして、行くって言ってくれたんだ。


 元々お父さんから連絡をもらってた葛葉君もやってきて、三人でのお泊まり会開始だ。


「さあ。今日は遅くまで起きてたって怒られなし、思いっきり楽しもう」

「幸太郎さんからは、あんまり夜更かしはするなって言われてるけどな」


 わたしが勢いよく言ったところで、葛葉君が釘を刺す。

 もう。せっかく盛り上げようとしてるんだから、わざわざそんなこと言わなくていいじゃない。


 すると葛葉君は、さらに声を落として囁いてくる。


「って言うか、俺が来てジャマじゃないのか? お前と一条の、二人だけの方が楽しいんじゃないか?」

「だって、葛葉君はお父さんがもう呼んでたんだもん。それに、たくさんいた方がスズちゃんの気も紛れるなかって思って。迷惑だった?」

「いや。お前と一条のジャマにならないならそれでいい」


 スズちゃんのお父さんが帰ってこれなくなったことは話してあるから、葛葉君なりに心配してるんだと思う。


 そのスズちゃんはというと、持ってきた鞄の中から、ひとつの箱を取り出した。


「ケーキ持ってきたけど、あとでみんなで食べない?」

「ほんと! ありがとうスズちゃん」


 どこかお店で買ってきたのかなって思ったけど、よく見ると手作りっぽい。

 けど、泊まりにこないかって電話してからそんなに時間経ってないし、作る暇なんてなかったよね。

 多分これも、帰ってくるお父さんのために焼いたんだろうな。けどわざわざそれを言っちゃうと、空気が重くなりそうで、黙っておくことにした。


 それから、三人で晩御飯。お弁当でも買ってこようかって思ってたけど、わたし以外の二人が作るって言ったから、みんなで台所に行って準備することにした。


 作るのはハンバーグ。そこでわかったのは、葛葉君がすっごく手際よかったこと。


「葛葉君、料理得意なんだ」

「それなりにな。一通り家事ができるようにならないと、こっちで一人で暮らすのはダメだって言われてたんだよ」


 そうなんだ。スズちゃんも、さっきのケーキみたいにお菓子作りをすることはあるし、けっこう料理はできる。

 わたしもたまにお父さんがご飯を作るお手伝いをするけど、二人には全然かなわないよ。


 ご飯の後は、みんなでゲーム。可愛いキャラクターを操って、競走したりパズルを解いたりしながら順位を決めるやつで、わたしとスズちゃんがゲームする時は、たいていこれ。

 けど葛葉君はやるの初めてで、ほとんどビリになっていた。


「くそっ、また負けた!」

「初めてなんだし、わたしたちの方がうまいのは当たり前だよ」

「も、もう一回だ!」


 悔しくてムキになる葛葉君は、なんだか新鮮。

 スズちゃんもそれを見ておかしくなったみたいで、声をあげて笑ってた。


 スズちゃん。寂しいの、少しは紛れてくれたかな?

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