第11話 応援するね

 葛葉君は一息つくと、改めて続きを話しはじめた。


「さっき、火事になりかけたって話しただろ。けど、大事にはならずにすんだんだ。幸太郎さんと、その百鬼夜行にいる、ナガレさんのおかげでな」

「お父さんとナガレさん? なんで?」


 ナガレさんってのは、カッパのおじさんだ。この前も うちに来てたし、小さい頃から、何度か遊んでもらってる。

 けど、どうしてそこで二人が出てくるの?


「そもそもお前、幸太郎さんの百鬼夜行が、普段どんな仕事をしてるか知ってるか?」

「ううん、あんまり」

「だろうな。そう言うと思ったよ」


 わたしがその辺をほとんど知らないのは、もう十分わかってたみたい。ため息をついてるけど、わたしだってもうそんな反応には慣れちゃったもんね。


「さっき話した妖狐みたいに、妖怪の中にも悪い奴はいる。けれど、人間と協力して、そんなのを捕まえようとする妖怪だっている。それが、幸太郎さんやその百鬼夜行の人たちだ。幸太郎さんたちも、例の妖狐を捜査していたんだよ」

「えっ、そうなの!?」


 お父さん、そんな刑事や探偵みたいなことしてたんだ。


「最初、幸太郎さんたちは家の外にいたんだ。あまり大勢で行くと、怖がらせるって思ったんだってさ。けど、結局俺は暴れて、火事を起こしかけた。それに気づいた幸太郎さんは、ナガレさんと一緒に駆けつけてきてくれた。大江は、ナガレさんがどんな力を持ってるか知ってるか?」

「もちろん。力持ちなのと、あと、水を操る力があるんでしょ」


 カッパは水の妖怪として有名だし、いかにもって感じの力だよね。小さい頃、夏にその力を使って水遊びに付き合ってもらったことがある。


「そうだ。それに、百鬼夜行契約ってのは覚えてるよな。百鬼夜行の長、つまり幸太郎さんが妖力を与えて、ナガレさんを強化させる。そうしてさらに強くなった水を操る力で、火はあっという間に消すことができたんだ」

「そうなんだ」


 お父さん、お仕事の話なんてほとんどしたことなかったけど、なんだかかっこいいじゃない。

 実際に助けられた葛葉君は、もっとそう思ったんだろうな。少し前まで辛そうだったのに、お父さんの話をはじめてから、目をキラキラさせてるよ。


「それから、幸太郎さんは謝ってくれたんだ。怖い思いをせてごめんって。あと、自分にも俺と同じくらいの娘がいるんだって。親として、子どもと同じくらいの歳の子に酷いことはしないって約束するから、どうか信じてほしいって」

「娘って……」

「お前のことだろうな」

「もう。お父さんってば。勝手にわたしの名前出さないでよね」


 知らないところでわたしのことを話してたって思うと、なんだか恥ずかしい。

 けどそのおかげで葛葉君が少しは落ち着けたんなら、ちょっと嬉しいかも。


「取り調べで、俺は事件とは無関係ってことがわかったんだけど、その間も幸太郎さんは色々話をしてくれたんだ。俺たち妖怪の力は、犯罪にも使えるし危険なこともある。だけど、ナガレさんの力で火事を消したみたいに、誰かの役に立つことだってある。自分の百鬼夜行は、そんな風に誰かの役に立つのが仕事だって。それ聞いて、カッコいいって思った」

「だから、お父さんに憧れて、百鬼夜行に入りたいって思ったんだね」


 なんだか普段のお父さんと違いすぎて別人みたいだけど、葛葉君が百鬼夜行に入りたがってる理由、よくわかったよ。


 ところが、葛葉君の話は、もうちょっとだけ続いた。


「ああ。それに、幸太郎さんから子供の話を色々聞いたのも大きいな」

「えっ? それって、わたしのことだよね?」


 お父さん、どれだけわたしの話をしてるのさ。

 すると、なぜかそこで葛葉君がニヤリと笑う。


「幸太郎さん、娘が将来百鬼夜行を継ぐみたいに言ってたからな。同い年でそんなのがいるって聞いて、すごいって思った」

「ふぇぇっ!?」

「なのに、実際会ってみると……」

「ちょっ、ちょっと待ってよ! そんなのお父さんが勝手に言ったことじゃない。わたしは知らないよ!」


 お・と・う・さ・ん・!

 なに勝手に変なこと言ってるのさ!

 葛葉君がジト〜ッとした目でこっち見てるけど、全部お父さんのせいだからね。


 と思ったら、葛葉君。今度は怒る私を見て吹き出した。


「けどお前、さっき天邪鬼を捕まえる時に言ってたよな。あんなの見たら、放っておけないって。幸太郎さんも、同じこと言ってたんだ」

「お父さんが?」

「ああ。世の中には人に迷惑をかける妖怪がいて、自分ならそれをなんとかできるかもしれない。元々はそんな気持ちから、悪い妖怪を捕まえるための百鬼夜行を作ったんだってさ。だから、お前が似たようなこと言ってて、少し見直した」

「そ、そう?」


 そんな風に言われると、なんだかちょっぴり照れくさいな。


「とにかくそういうわけで、俺は幸太郎さんの百鬼夜行に入るって決めたんだ。まだ未熟だけど、たくさん鍛えて、いつか役立てるようになってやる」


 グッと手を握る葛葉君。わざわざ引っ越してくるくらいだから、すっごいやる気なんだってのは知ってたけど、そんな理由だったんだ。


「わたしは百鬼夜行を継ぐ気はないけど、葛葉君のことは応援するね。頑張って」

「おう。ありがとな」


 本気で頑張ってるってわかったら、応援したくなっちゃうよ。


 そういえば。今の話を聞いて、ひとつ気になることが残ってた。


「ねえ。葛葉君が連れていかれる原因になった妖狐って、どうなったの?」


 妖狐族を片っ端から捕まえて徹底的に調べたなら、その人も捕まったのかな?

 けど、葛葉君は首を横にふった。


「そいつは結局見つからなくて、今もまだまだ逃げてるんだ」

「そんな。あんなに大変なことしてたのに見つからなかったの?」

「それだけ逃げ隠れするのがうまいってことだ。けど、捜査のおかげでわかったこともあるってさ。そいつの名前はシノザキ。今はお尋ね者として、幸太郎さんたちが行方を追ってる」

「シノザキ……」


 名前なんて聞いてもピンと来ないけど、すっごく危険な奴なんだよね。そんなの追ってるなんて、お父さん大丈夫かな?


「心配するなよ。幸太郎さんは強いし、仲間の百鬼夜行だっているだろ」

「百って言うには、全然足りないけどね」


 ちょっとしまらないけど、葛葉くんもこう言ってるし、きっと大丈夫だよね。

 胸に浮かんだ不安を振り払うように、心配ないって、わたしは自分自身に言い聞かせた。

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