第9話 未来の百鬼夜行の長
全部の授業が終わって、放課後。今日も車でお迎えが来たスズちゃんから、また家まで乗って行かないかって誘われたけど、断ったの。
葛葉君が道を覚えられるよう、一緒に歩いて帰る。そうスズちゃんには言ったけど、実はもうひとつ、大きな理由があるんだよね。
葛葉君と一緒に体育館倉庫に入ると、そこにいるのは、さっきわたしが縛った天邪鬼。
天邪鬼は、わたし達を見るなり怒り出す。
「おい、いつまでこんなことろに閉じ込めておく気だ。さっさと縄をほどけ!」
「その前に、まずはしっかり反省してよね。そしたら、ほどいてあげてもいいよ」
今度こそ反省してくれたら。そう思ったけど、天邪鬼はフンと鼻を鳴らす。
「やなこった。こんなことして、タダですむと思うなよ。今に酷い目にあわせてやるからな!」
せっかく許してあげようと思っているのにこの態度。
葛葉君も呆れ顔だ。
「コイツを反省させるのは、捕まえるより大変かもな」
わたしもそう思う。けどどうしよう。これじゃ、とても自由にするなんてできないよ。
「反省するまで、ずっと縛っておく? でも、さすがにそれはかわいそうな気もするんだよね」
「だよな。その間に腹が減って死んだりしたら、後味が悪い」
「ご飯は、時々わたしたちが持ってくるとか。犬や猫飼うみたいに」
「こんなの飼うなんて嫌だぞ。なんでこいつのために食べ物用意しなきゃいけないんだよ」
「わたしも、飼うならもっとかわいいのがいい」
二人で話しても、なかなかいい案が浮かばない。すると、それを聞いてた天邪鬼が声をあげる。
「お前ら、人を動物扱いするなーっ!」
もう。あなたがちゃんと謝れば、悩む必要なんてないんだからね。
けど相変わらず、反省する気はないみたい。
「どうせ何やったってムダなんだから、さっさと諦めて俺様を自由にしやがれ」
すると葛葉君。本格的に腹が立ったのか、額にくっきりと青筋がうかべた。
「もういい。普通に話しても無駄だ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「脅す!」
お、脅す!?
なんだか凄く物騒なこと言ってるけど、やりすぎたりしないよね?
「安心しろ、危ないことはしない。ちょっとズルい手は使うけどな」
葛葉君は縛られてる天邪鬼に近寄ると、その頭をグイッと持ち上げ睨みつける。
「おい。お前、百鬼夜行って知ってるか?」
「ああ? なんだよ急に。そんなの、妖怪がたくさん集まった大軍団に決まってるだろ」
「そうだよな。知ってるなら話は早い。こいつの父さんはな、その百鬼夜行の長なんだよ」
ビシッとわたしを指さす葛葉君。ズルい手って、うちのお父さんの名前を出すってこと?
れど、それでも天邪鬼は平気な顔をする。
「へっ。そんな嘘でビビるとでも思ったのかよ。お前、天邪鬼がどういう妖怪か知ってるか? 天下一のひねくれ者。けどその分、他の奴が嘘をついてる時は、よく見ればなんとなくわかるんだよ」
天邪鬼って、そういう特技もあったんだ。
けれど、葛葉君はさらに凄む。
「嘘だと思うなら、もっと俺をよく見てみろ。もう一度言うぞ。こいつの父さんは、百鬼夜行の長だ」
「だからそんな嘘ついても……って、あれ? 嘘じゃない? ってことはこいつのオヤジって、本当に百鬼夜行の、妖怪の大軍団の長?」
その時、はじめて天邪鬼の顔に焦りが見えた。
「そうだ。百鬼夜行に入れてもらうために、わざわざ遠くからやってくる奴だっている」
「そ、そうなのか?」
「お前、このままだとその全員を敵に回しかねないんだぞ。それでもいいのか?」
「それは……」
「それとな、こいつは、将来その百鬼夜行を継ぐって聞いたぞ。つまりお前は、未来の百鬼夜行の長に候補にケンカを売ってるってことだ」
「ひっ!」
いつの間にか、元々青かった天邪鬼の顔が、ますます真っ青になってる。これは、かなり怖がってる。
けど葛葉君の話を聞いて、わたしはなんだか微妙な気分になっちゃうよ。
確かに、わたしのお父さんは百鬼夜行の長だよ。
けどね、その百鬼夜行の人数はとっても少なくて、大軍団って言うには全然足りないよ。世の中、には本当に大軍団って感じの百鬼夜行もあるらしいけど、なんだかだましてる気分。
それにわたしが百鬼夜行を継ぐってのは、お父さんが勝手に言ってるだけだもん。
けどそれを知らない天邪鬼は、とんでもないことをしでかしたと思っているのか、ガタガタと体を震わせる。
「さあ、どうする。これでもまだ、反省する気はないか?」
ダメ押しって感じで言うと、天邪鬼は一瞬悔しそうな顔し、それから観念したように、わたしに向かって頭を下げた。
「申し訳ございません。まさかそんなすごい方にはちっとも見えず、大変な失礼をしてしまいましたーっ!」
おぉっ。さっきまでの威勢はどこへやら、すごい勢いで謝ってくる。
それを見て、葛葉君がわたしに目配せをしてきた。えっと、何か言えってことだよね。
なんだか騙してるみたいだけど、せっかく反省させるチャンス。ここは、ビシッと言ってやらないと。
「じゃや、みんなに迷惑かけたことを謝って、もうしないって約束するなら、今回は許してあげる」
「はい。もう二度といたしません! ごめんなさい、この通りです!」
見事な謝りっぷり。とりあえず、これで反省させることはできたかな。
縛ってたロープを解くと、何度もありがとうと言っては、ヘコヘコと頭を下げてきた。
「約束、ちゃんと守ってよね」
「はい。もちろんです、鬼の姐さん」
「あ、姐さん!?」
突然の言葉にギョッとする。なにその変な呼び方!
「はい。未来の百鬼夜行の長なんですから、それっぽい呼び方にした方がいいと思ったのですけど、ダメでしたか? なら、大将とか。親分なんかはどうです?」
「どれもダメーっ!」
だいたいわたしは、百鬼夜行なんて継がないの。けどそれを言ったら、またひねくれ者に戻っちゃいそうだし、言うのをグッと我慢する。
すると、隣でこれを見ていた葛葉君が、おかしそうに吹き出してた。
もう。葛葉君が変なこと言ったせいでこうなったんじゃない!
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