第8話 葛葉くんとの協力プレー

 それどころか天邪鬼は、わたしを見てケラケラと笑ってた。絶対、昨日のこと根に持ってるよね!


「今度こそ許さないんだから!」


 転んだ痛みなんてとっくになくなってるし、勢いよくコートに飛び込む。

 荒木くんから引き剥がして、今度こそこらしめなきゃ。


 荒木くんに近づき、肩に乗ってる天邪鬼に手を伸ばす。

 だけど。


「へっ。捕まってたまるかよ!」


 なんと天邪鬼。荒木くんの体を器用にはい回って、わたしの手をかわす。

 一度チャレンジするけど、天邪鬼はビックリするくらいすばしっこくて、なかなか捕まらない。

 それだけじゃない。


「今度はこっちからいくぞ!」


 天邪鬼がそう言うと、荒木くんがわたしに向かって体当たりしてきた。


「わっ!」


 痛っ!

 転んだりはしなかったけど、これじゃとても捕まえるなんて無理。


「昨日の威勢はどうしたよ〜」


 ムッカ〜!

 腹が立つけど、怒りにまかせて突っ込んでいっても、また同じことになりそう。

 どうしたらいいかわからず困ってると、葛葉君がやってきた。


「おい、大丈夫か?」

「うん。けど、このままじゃ荒木くんが取り付かれたままだよ。なんとかしないと」

「すばしっこい上に、荒木って奴を操って邪魔してくるから、厄介だな。けど、お前が全力を出したら、何とかなるんじゃないか?」

「えっ? だ、だめだよそんなの!」


 葛葉君の言葉に、慌てて声をあげる。

 実は葛葉君の言う通り、いくら天邪鬼が素早くても、わたしが本気を出せば、力づくで捕まえることはできるかもしれない。

 けど、それは無理。


「だって、天邪鬼は荒木くんを盾にしてるみたいなものなんだよ。わたしが本気の力を出したら、荒木くんにケガさせちゃうかもしれないじゃない。別の方法考えないと」


 天邪鬼を捕まえようとしてるのは、人に迷惑かけるのが許せないから。なのに、捕まえる時に荒木くんにケガさせたりしたら、そっちの方が大変だよ。


 けどどうしよう。このままじゃ、そのうち天邪鬼くんは、他の子たちにも嫌がらせしだすかも。


 悩んでいると、ポツリと葛葉君が呟く。


「なんか、意外だな」

「えっ? 何が?」

「だってお前、妖怪としての誇りなんていらないとか言ってただろ。なのに、こういうのは本気でなんとかしようとするんだな」

「なに言ってるの。当たり前じゃない」


 そりゃわたしは妖怪の誇りなんてないけどさ、それとこれとは別。こんなの見て、何もしないなんてイヤだもん。


 すると、そこで葛葉君はニヤリと笑った。


「そうだな。俺もなんとかしたい。なら、二人がかりでやらないか?」

「葛葉君と二人で?」

「ああ。お前一人でやるより、そっちの方がいいだろ。俺だって、さっき転ばされた借りを返したい」


 確かに、わたし一人でやるより、そっちの方がなんとかなりそう。


「ケガさせたりはしないよね?」

「当たり前だろ。ちゃんと、そのための作戦は考えてある」


 そうして葛葉君は、わたしにその作戦を話す。それならいけるかも。


 そうと決まれば、早速作戦開始。

 荒木くんを見ると、ちょうど相手チームからボールを奪ったところだ。

 わたしはさっきと同じように荒木くんに近づくと、くっついている天邪鬼を捕まえようとする。


「へっ、何度やってもムダだよ!」


 天邪鬼は、またも荒木くんの体を這ってかわしていく。ここまではさっきと同じだ。


 けどこれでいい。わたしの役目は、こうやって天邪鬼の気を引くことなんだから。


 天邪鬼を捕まえようとしてるのは、わたしだけじゃない。葛葉君もいる。

 葛葉君ならわたしと違って、天邪鬼の姿が見えるってことはバレてない。隙をつけば、絶対捕まえられるはず。


 わたしが天邪鬼の気を引いてる間に、葛葉君はこっそり後ろに回り込む。そして天邪鬼が荒木くんの背中に回ったところで、一気に手を伸ばした。

 ところが──


「そんな手に引っかかるかよ!」


 なんと天邪鬼、それをヒラリとかわしちゃった!


「誰だか知らねーけど、お前も俺のこと見えてるだろ。さっきから二人で何か相談してたし、バレバレなんだよ!」


 天邪鬼はバカにしたようにケラケラと笑う。それがすっごく憎たらしい。


 だけど、だけどね、実はこの作戦、まだ終わってなかったの。


 もう一度、葛葉君が捕まえようと手を伸ばし、天邪鬼がそれをかわす。けど次の瞬間、天邪鬼の体は、別の何かにはじき飛ばされた。


「なにっ!?」


 地面に叩きつけられる天邪鬼。今こそ、捕まえる絶好のチャンス!

 急いで近寄ると、その頭をガッツリと握って掴みあげた。


 その間に葛葉君は、近くに転がってたサッカーボールを、遠くに向かって蹴り上げる。

 これでみんなの注目は向こうにいったはず。さあ、今のうちに話をしよう。


「もう逃がさないよ」

「いてててて、離せよ! さっきのは何だったんだよ!」


 自分をはじき飛ばしたのが何なのか、天邪鬼はまだわかってないみたい。

 わたしは天邪鬼の頭を握る力をちょっとだけ緩めると、顔を葛葉君の方に向けさせた。


「お前、俺やこいつの手にばっかり警戒してただろ。けど残念だったな。俺には手だけじゃなくて、シッポもあるんだよ」


 その言葉通り、今の葛葉君には、太くてふんわりとしたシッポが生えていた。


 さっきはそれを天邪鬼に思いっきりぶつけて、地面に叩きつけたんだ。


「そのシッポ。お前、狐かよ!」


 ちなみにこのシッポは、自由に出したり消したりできるし、力をうまくコントロールすると、天邪鬼の体と同じように、普通の人間には見えなくなるんだって。だから、人に見られて騒ぎになる心配もないんだよ。


「さて、後はこいつをどうするかだな」

「うーん。とりあえず、今は授業中だから、その辺の話は後にしない?」

「そうだな」


 このまま話し込んでたら、変に思われるかもしれないからね。


 葛葉君も頷いたところで、わたしは、天邪鬼を捕まえたまま、しゃがみこんで足をさする。


「ああっ。さっき転んだ時に足をくじいたみたい〜」


 本当はもう痛くなんてないけど、大声でそう言うと、先生やスズちゃんが心配してやってきた。


「真弥ちゃん、大丈夫? 保健室行くなら、わたしも一緒について行こうか?」

「ありがとう。けど、保健室に行くのはわたし一人で大丈夫だかから」


 そう言ってスズちゃんの付き添いを断ると、一人でコートの外に出て、保健室に向かう。

 と見せかけて、本当の目的は、近くにある体育館倉庫。


 中に入ると、さっきから掴んでた天邪鬼が騒ぎだした。


「おい、お前。俺様をどうするつもりだ!」

「それはこれから考える。けどとりあえず、放課後まで大人しくしてもらうからね」


 この体育館倉庫には、グラウンドに白い線を引くライン引きや、三角コーンみたいな道具が入ってるんだよね。そしてその中には、ロープもあった。


 それで天邪鬼を縛って、とりあえずはこれでよし。

 続きは放課後、葛葉君と一緒に考えよう。


 天邪鬼は騒いでたけど、君が悪さをしたんだから、これくらいは仕方ないよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る