第7話 天邪鬼再び
「転校生の葛葉信彦くんだ。みんな、仲良くするように」
教卓に立った先生が、教室を見渡しながら言う。そして、その隣にいるのは葛葉君。
本当に同じクラスになっちゃった。
「葛葉信彦です。よろしくお願いします」
自己紹介は、実にあっさり。それでも、転校生ってのは目立つもの。おまけに、顔はかなりのイケメンだ。
何人かの女子がキャッキャと色めきだって、朝の会が終わったとたん、葛葉君に質問をあびせてくる。
「どこからきたの?」
「得意な科目ってある?」
「どうして転校してくることになったの?」
葛葉君は淡々と答えていくけど、最後に聞かれた転校の理由だけは、ちゃんと答えずごまかした。
そりゃ、百鬼夜行に入れるように修行するため、なんて言えないよね。
わたしはそれをちょっと離れたところから見てたけど、その時隣にスズちゃんがやってきた。
「ねえ真弥ちゃん。もしかして、あの子と知り合いなの?」
「えっ、なんで!?」
「今朝、一緒に学校に来てるところ見かけたの」
そうだったんだ。うちから学校まで案内してたから、そりゃ見てる人もいるか。
「えっと、わたしと言うより、お父さんの知り合いかな」
「真弥ちゃんのお父さんの? お父さん友だちの子供とか?」
「そんなとこ。あと、うちの近所に引っ越してきたから、お父さんが何かと面倒見てるの」
わたしももちろん、妖怪や百鬼夜行のことは言わない。
特にスズちゃんは、オバケやホラーがすっごく苦手なんだから、絶対に隠しておかないと。
「葛葉君、ちょっとかっこいいね」
「そ、そう?」
どうやらスズちゃんから見ても、葛葉君はイケメンみたい。もちろんわたしが見たってそうだ。
「イケメン転校生と一足先にお知り合いか。少女マンガなら恋が始まるかも」
「ふぇっ!? なにいってるの。そんなことないって!」
スズちゃんは、わたしと葛葉君を交互に見て、目をキラキラ輝かせる。少女マンガや恋愛小説が好きだから、時々こんなこと言い出すことがあるんだよね。
けどわたしにとって葛葉は、イケメンって以上に、怒って怒鳴ったり睨んだり呆れたりする印象の方が強いよ。
まあ、見た目は普通にかっこいいと思うけどね。
◆◇◆◇
この日最後の授業は体育で、競技はサッカー。今は、男子も女子も一緒に試合をしている。
こういう時、はりきって全力でプレイする子と、それなりに動いて楽しむ子がいるけど、わたしはそれなり。と言うか、かなり手を抜いてるの。
だってそうしないと、わたしじゃ力が強すぎる。
ボールを全力で蹴ったら、それに当たった子をぶっ飛ばしちゃうかもしれない。
ちょっとつまんないけど、鬼ってバレたり迷惑をかけたりしちゃいけないからね。
妖狐は鬼と違って怪力って話は聞かないけど、葛葉君はどうなんだろう?
見ると、ちょうど葛葉君のところにボールが飛んできて、それを奪おうと、相手チームの子がやってくる。その中には、サッカー部の男子もいた。
三人が葛葉君を取り囲み、ボールに向かって足を伸ばす。
とられる!
そう思った瞬間、葛葉君はサッとボールを操り、ギリギリのところでかわす。他の子もボールを奪おうとするけど、なかなかとれないでいる。
妖怪の力とかじゃなくて、純粋にサッカーがうまいんだ。
これには元々葛葉君に騒いでた女子はもちろん、男子も声をあげた。
「おぉっ。あの転校生、やるな!」
だけどその時だ。葛葉君の後ろにいた子が、急にぶつかってきた。
「うわっ!」
葛葉君は転びはしなかったけど、大きくよろける。
これって反則じゃない!
体当たりしてきた子は、荒木くんっていう、サッカー部の子。
なんだか、わざとやってるように見えたんだけど。
もしかして、葛葉君が上手なのを見て、ムキになったとか?
だけど、だからってあんな卑怯なことする子じゃなかったと思うんだけどな。
心配になって近づいてみると、葛葉君はよろけながらもなんとかボールをキープしてる。荒木くんがわざとやったかはわからないけど、さすがに何度もあんなことはできないよね。
けど、その考えは甘かった。
荒木くんがボールに向かって足を伸ばしたと思ったら、それは葛葉君の足に強引に絡みつく。
「危ない!」
慌てて駆け寄るけど、タイミングが悪かった。
大きく傾いた葛葉君は、そのままわたしを巻き込んで、二人揃って一緒に倒れちゃった。
「痛っ!」
さすがにこれには、試合中断の笛が鳴る。
それから、スズちゃんが血相変えて駆け寄ってきた。
「真弥ちゃん、大丈夫!? ケガしてない!?」
「う、うん。なんとか」
こういう時、鬼の体は丈夫でよかった。ちょっと痛かったけど、そう簡単にはケガなんてしない。
けど一応、葛葉君と一緒に、少しの間コートの外に出て休むように言われたの。
スズちゃんが付き添おうかって言ってくれたけど、大丈夫って言って断ったから、今は葛葉君と二人きりだ。
「葛葉君は平気?」
「ああ。巻き込んで悪かったな」
素直に謝る葛葉君。ムッとすることを言うことも多いから、こんな態度はなんだか新鮮。
けどこれって、葛葉君は謝るようなことしてないよね。
「謝ることないって。悪いのは荒木くんだもん」
今のでハッキリわかった。荒木くん、完全にわざとやってた。
その荒木くんは、先生から注意されていたけど、なんだかヘラヘラ笑ってて、とても反省してるようには見えない。
そして先生の注意が終わると、そのままわたしたちのところにやって来た。
「わりぃわりぃ。まさかあんなに派手に転ぶなんて思わなかった。けど、こういう事故だってたまにはあるよな」
事故じゃなくてわざとじゃない!
文句を言おうとするけど、コートに戻っていく荒木くんの背中を見て、思わず息を飲んだ。
「あ、あれって……」
荒木くんの背中には、青くて小さな小鬼っぽいのがくっついていた。
あれって、昨日見かけた天邪鬼だ!
天邪鬼は普通の人間には見えないから、くっつかれてる荒木くんは全然気づいてないし、他のみんなもそう。
けど、同じ妖怪の葛葉君は違った。
「おい。なんだアイツは!」
ああ、怒ってる。無理ないよね。
「あれ、天邪鬼って妖怪だよ。確か、取り付いた人間の心を歪ませる力があるんだって」
実は昨日、天邪鬼を取り逃してから、どんな奴か調べてみたの。
そうしてわかったのは、天邪鬼に取り付かれた人間は、操られて乱暴になったり、人が嫌がることをしたりするようになるってこと。
「なるほど。それで、取りつかれてるあいつは、あんなことをするようになったってわけか」
もう! 昨日あれだけ言ったのに、ちっとも反省してないじゃない!
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