第5話 百鬼夜行の入隊希望

 お父さんの登場に、わたしと葛葉君は言い合いを止めて、一緒にお父さん達の方を向く。


 それから最初に質問したのはわたしだ。


「お父さん。この葛葉君って子、いったい誰なの? わたしやお父さんが妖怪だってこと、知ってるみたいだけど」


 突然現れて突然怒られて、わけわかんないよ。今もだって、目を吊り上げて睨んでる。

 ただ、さっきまでピンと立ってたシッポは、いつの間にかきれいになくなっていた。どうやらあのシッポは、鬼のツノと同じように、自由に出したり消したりできるっぽい。


「そうだな。それじゃ、一からゆっくり話していこうか。まず、お父さんたちが百鬼夜行を結成してるのは知ってるよな」

「うん。百鬼って言ってもほとんどいないけどね」

「うぅっ!」


 わたしの言葉に肩を落とすお父さん。

 いいから、話の続き聞かせてよね。


「た、確かに父さんの百鬼夜行は数が少ない。けどな、新たに入りたいって人だっているんだ。それがこの、葛葉信彦くんだ。葛葉君はそのためにわざわざ親元を離れて、一人でうちの近くに引っ越してきたんだ。そこの角を曲がったところに、空き家があっただろ。そこが、今の葛葉君のお家だ」

「えっ? 親元を離れてって、葛葉君って今いくつなの?」


 歳はわたしとそう変わらないと思ってたけど、妖怪は何百年も生きても若い姿のままってのもいるって聞いたことがあるし、実はけっこう歳上なの?


「12歳。小6だ」

「同い年じゃん! お父さんやお母さんいなくて平気なの!?」

「江戸時代では、10歳くらいに親から離れて働きに出た子もたくさんいたらしいぞ」

「今は21世紀だよ! 令和だよ!」

「妖怪は長生きなのも多いから、昔の感覚が残っていることも多いんだ」


 葛葉君はサラッと言うけど、わたしなら絶対無理。


「もちろん、そんなことすると色々問題も出てくるし、何より親御さんにも心配をかけることになるからな。一度は断ろうと思ったんだけど、葛葉君の熱意に負けたよ。問題になりそうなものは、今日一日かけて妖怪パワーでなんとかしてまわったよ」


 お父さんが言うけど妖怪パワーで何とかできるものなんだ。

 今朝、お仕事で大事な用があるって言ってたけど、そのためだったんだね。


「とは言っても、子供で未熟な葛葉君を正式に百鬼夜行に入るのはまだ早い。だから当分は、僕や百鬼夜行のみんなが指導し、修行を積むことになる。けど真弥が大きくなる頃には、立派な百鬼夜行の一員になってくれることだろう」


 そうなんだ。

 まだ先の話になりそうだけど、百鬼夜行に新しいメンバーが加わるのが嬉しいのか、笑顔で話すお父さん。


 けど、ちょっと待って。今までの話を聞いてると、気になることがあるんだけど。


「ねえ、お父さん。葛葉君、さっきわたしのことを、未来の百鬼夜行の長って言ってたんだよね。もしかして、葛葉君が百鬼夜行に入れるころには、わたしが後を継いでるとか言ってない?」

「ぎくっ!──い、いや。言ってない、言ってないぞ」


 あっ。今、ぎくってなった! これは怪しい。

 今度は、葛葉君に聞いてみる。


「わたしのこと、お父さんからなんて聞いてたの?」

「……いずれ百鬼夜行を継ぐ子だって言ってた」


 やっぱり言ってるじゃない!


「いや、絶対にそうなるとは言ってないぞ。ただ、もしかしたらそうなってるかも、みたいなことは、ちょっとだけ言ったかも。先のことなんてわからないからな」

「なにそれ、ずるい!」


 そんな未来絶対に来ないから!

 これには、葛葉君も声をあげる。


「幸太郎さん。こいつ、妖怪としての誇りも持ってないじゃないですか! 継ぐ気なんてゼロですよ!」


 なんだかちょっぴりけなされた気もするけど、継ぐ気ゼロってのは本当だから、そこは気にするのはやめておこう。


 お父さんが責められるのを見て、百鬼夜行の妖怪さん達が慌てて割って入ってくる。


「まあまあ。長も、そうなったらいいなという妄想を語っていただけだから」

「最後に、かもしれないってつけると、どんなことでも嘘にはならないよ」

「それより葛葉君。そろそろ修行をはじめた方がいいんじゃないのかい?」


 修行。その言葉を聞いて、葛葉君の動きがピタリと止まる。


「そうでした。修行、お願いします」


 真剣な顔で頭を下げる葛葉君。

 わざわざ親からから離れてまで引っ越してきたって言うし、百鬼夜行に入りたいってのは本気みたい。


「どうだ。せっかくだから、真弥も一緒に修行をつけてみないか?」

「わたし!? やらないよ!」


 葛葉君が真剣なのはわかったけど、だからってわたしもつきあったりはしないから。


 道場から退散しようとすると、お父さんが近くによってきて、小さな声で囁いてきた。


「修行にはつきあわなくてもいいからさ、少しずつでもいいから、葛葉君とは仲良くなっていってほしいな。親から離れて新しい暮らしが始まるんだ。なんだかんだ言っても、不安も大きいだろうからね」


 確かに、わたしならすっごく寂しいかも。

 けど、仲良くなんてできるかな?


 葛葉君を見たら、もうわたしのことなんて気にしてないみたいに、百鬼夜行の妖怪さんたちに修行をつけてもらってた。

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