第3話 対決、天邪鬼

 そうしてが向かったのは、校舎の裏。あんまり人はこない所だし、もうすぐ授業がはじまることもあって、わたし以外には誰もいない。そう、普通の人間には見えるかも。

 けど本当は、もう一人いるんだよね。


「ちぇっ。もう少しでボールをぶつけられると思ったのに、つまんねーの」


 そう言っていたのは、わたしが両手で持てそうなくらいの小さな奴。ずんぐりした体型で、体の色は青。そして頭には、小さな一本のツノがある。

 もちろん、こんな人間いるわけない。つまりこの子は妖怪だ。


 お父さんは、昔と比べて妖怪の数が減ってきてるって言ってたけど、たま〜にこういうのがいるんだよね。


「君、なにしてるの!」

「うわっ! な、なんだよ!」


 キツい口調で話しかけると、そいつは驚いてこっちを向く。


「お前、俺様が見えるのか?」

「見えるよ。それに、あなたがさっき何をしたかも知ってる」


 妖怪の中には、人間には姿の見えない奴もいて、この子もそうみたい。そしてそういうのの中には、見えないのをいいことに、イタズラをするのもけっこういるの。

 さっきわたし達目掛けてサッカーボールが飛んできたのは、この子がこっそり蹴ったからだ。

 それから植え込みの方に逃げてここまで来たんだけど、バッチリ見てたよ。


「どうしてあんなことしたのよ。ケガしてたかもしれないじゃない!」

「どうしてって、理由なんてあるかよ。俺様は天邪鬼だからな。人が困ったり嫌がったりするのを見るのが楽しいんだよ」

「なにそれ!」


 天邪鬼。鬼って字が入ってるけど、わたし達鬼族とは全くの別もの。本人も言ってる通り、人にイタズラして困らせるのが大好きな妖怪だ。

 そしてイタズラがバレた今も、反省する気はないみたいで。


「とにかく、もう二度とあんなイタズラはやめてよね」

「やなこった。誰だか知らねーけど、あんまり偉そうなこと言ってると、痛い目を見るぞ」

「痛い目って、どうするのよ」

「わかんねーのかよ。小さいからって人間なんかに負けねーぞ!」


 そう言うと、天邪鬼は両手を上げて、わたしに向かって飛びかかってきた。


 けど、それに怯むわたしじゃない!

 もう少しでわたしに届くってところで、それより早く、天邪鬼のオデコにデコピンをお見舞いする。


「えいやっ!」

「ギャッ!」


 バシッと弾かれ、地面に倒れる天邪鬼。さっきまでの威勢はどこへやら。オデコを押さえて、ギャーギャー悲鳴をあげている。


「嘘だ。俺様が人間なんかに負けるはずがない! 俺様の姿だって見えてるし、なんなんだよお前は!」

「言っとくけど、わたし人間じゃないから」


 天邪鬼を見下ろしながら、頭に力を集中させ、ツノをはやす。


「わたし、鬼なの。妖怪の姿が見えるし、人間よりもずっと強いんだよ」

「お、鬼ーっ!?」


 まさかわたしが鬼なんて思ってもみなかったんだろうね。とたんに天邪鬼が慌て出す。


「お、鬼なら俺様たちと同じ妖怪だろ。なんで人間の味方するんだよ!」

「決まってるじゃない。人に迷惑かけるのはいけないことだからだよ!」


 こういうイタズラ妖怪は、わたしが何とかしなきゃ、また同じことしちゃうからね。

 実はこういうことは、今までにも何度かやってるの。


 けどこれ以上手を出したら、弱いものイジメになっちゃう。


「ごめんなさいって謝って、二度とあんなことしないって約束して」


 ちゃんと反省してくれたら、それでおしまい。そう思ったんだけど、それはちょーっと甘かった。


「──っ。やなこった!」


 反省ゼロ!

 天邪鬼って妖怪は、とってもひねくれ者だったの。


 さらに天邪鬼は、クルリと背を向け、スタコラサッサと逃げていく。


「待てーっ!」


 ふんすと鼻息を荒くするけど、ちょうどその時、授業開始のチャイムが鳴り出しちゃった。


「いけない。教室行かないと!」


 悔しいけど、妖怪と追いかけっこしてて遅刻しましたなんて言っても、先生信じてくれないよね。


 ただ、天邪鬼の逃げた方に向かって叫ぶ。


「次に悪さしたら、今度こそタダじゃおかないからねーっ!」


 これで少しは懲りてくれるかな?


 わたしが鬼だってのは、みんなには絶対秘密。たけど、たま〜にこうして力を使って、陰ながら平和を守ったりもしてるんだよね。

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