第2話 鬼だってことは絶対秘密!
急げ急げ!
学校までの道を、小学生記録だって塗り替えられそうなスピードで走る。
鬼であるわたしは、普通の人間には出せないくらいの力を持っていて、走るのだってすっごく速い。
鬼だってバレないために、普段は隠しているけどね。
うちから学校までの道が、人通り少なくてよかったよ。
鬼だってバレたくない。そう強く思うようになったのは、わたしが3年生の頃。
学校でキャンプに行って、その夜肝試しをした時だ。
脅かし役になったわたしは、シーツをかぶって草むらに隠れて、他の子たちがやってきたところで、ワッと飛び出すことになっていた。
けど、それじゃ全然怖くない。
そこでわたしは思ったの。鬼の姿になって脅かしたら、面白いんじゃないかって。
その頃から、鬼ってことは秘密だって、言われてたけど、少しくらいならいいかなって思っちゃった。
ターゲットは、一人で歩いてきた女の子。
すぐ近くを通ったその時、鬼の姿になって、バッと飛び出した!
これはびっくりするぞ。
そう思ってたんだけど、結果は予想通りと言うか、想像以上だった。
突然現れた本物の赤鬼に、女の子はキャーって悲鳴をあげたかと思うと、泣きじゃくって、最後は気を失っちゃった。
それからはもう大さわぎで、肝試しは中止。
目を覚ましたその子は、ショックで何があったか覚えていなくて、わたしが鬼だってことはバレずにすんだけど、すっごく怖い思いをしたってことは、なんとなく覚えてたみたい。
ワンワン泣きじゃくって、キャンプも最後まで参加せず、途中で家に帰っていったの。
そうなったのも、全部わたしのせい。
もうしわけなくて、だけど直接謝るわけにもいかなくて、心の中で何度もごめんねって頭を下げた。
そして、誓ったんだ。もう二度と、人前で鬼の姿にはならないって。普通の人間として生きるって。
なんて考えてたら、だんだん学校が近づいてきた。
遅刻ギリギリかもって思ってたけど、全力で走れば結構余裕だったよ。みんなには秘密の鬼のパワーだけど、こういう時は感謝だね。
学校の門をくぐると、後ろから声をかけられる。
「おはよう、真弥ちゃん」
「スズちゃん!」
声をかけてきたのは、同じクラスの一条鈴音ちゃん。わたしはスズちゃんって呼んでるよ。
スズちゃんは、腰まで伸ばした髪にクリッとした目がとってもキレイで、お嬢様って感じの子。
って言うか、お父さんがとっても大きな会社をいくつも経営してる、正真正銘のお嬢様なの。
けどスズちゃんは、それを鼻にかけたりはしないの。性格は、わたしとは全然違って大人しいけど、ずっと前からのなかよしなんだ。
「遅刻ギリギリなんて珍しいね。何かあったの?」
「目覚ましに気づかなくて寝ちゃってたの。それに、お父さんとちょっと言い合っちゃった」
「言い合うって?」
「それはまあ、色々かな」
まさか、百鬼夜行を継ぐかで揉めてたなんて言えない。スズちゃん相手なら特にだ。
って言うのも、わたしが肝試しの時脅かした相手ってのが、スズちゃんなんだよね。
あの時のスズちゃんの怖がる姿を思い出すと、今でも胸が痛くなる。
幸い、スズちゃんはその時のことをよく覚えていないし、わたしが鬼だってことも知らない。だけどそれ以来、オバケとか怪談とか、怖いものが大の苦手になっちゃった。
本当に本当にごめんなさい!
それはそうと、わたしの話を聞いたスズちゃんは、心配そうに言う。
「真弥ちゃん。もしかして、お父さんとケンカしたの?」
「う〜ん、ケンカって言うほどじゃないと思うよ」
百鬼夜行を継ぐかどうかで揉めるのはしょっちゅうだけど、それでお父さんを嫌いになったりはしないもん。
「そっか、よかった。そうだよね。真弥ちゃんのお父さん優しいし、ケンカなんてしないか」
「えぇ〜っ。そんなに優しいかな?」
「そうだよ。だって真弥ちゃんのお父さん、前にわたしが遊びに行ったら、友達が来てくれたってすっごく喜んでたんだもん。それに、たくさんおうちにいてくれるし……」
「あっ……」
スズちゃんは、ちょっとだけ寂しそうな顔をした。
スズちゃんのお父さん、忙しくて、ほとんど家にいないんの。 それにスズちゃんのお母さんは、スズちゃんが小学校に入ったばかりのころに亡くなってて、普段は、お手伝いさんに面倒見てもらってるの。
スズちゃんにとって、家族が近くにいてくれるってのは、それだけで嬉しいことなのかも。
なんて考えてたら……
「よけろーっ!」
突然声がして、こっちに向かって何かが飛んできた。
危ない!
すかさずスズちゃんを抱きかかえて、横にジャンプ!
次の瞬間、わたし達がいたところを、何かが通過する。
それは、サッカーボール。
「悪い悪い。大丈夫だったか。急にボールが変な方向に飛んでいったんだ」
そう言って同級生の男子がやってくる。蹴り損なったボールが、こっちに飛んできたみたい。
「もう、気をつけてよね。スズちゃん、平気?」
「う、うん。それより真弥ちゃん、わたし、重くない?」
「えっ?」
そこでわたしは気づく。スズちゃんを抱えたままだった!
鬼の力ならスズちゃんひとり抱えるのなんてわけないけど、普通の人間の女の子は、そんなに力もちじゃないよね。
「ス、スズちゃん軽いから。それに、火事場のばか力ってやつ? 普段はこんなことできないんだけどね」
「そうなの? とにかくありがとう」
これだけで鬼ってバレるとは思わないけど、ヒヤッとするよ。
するとその時、近くの植え込みで、何かが動くのが見えた。
あれは……
「ごめん、スズちゃん。ちょっと用事があるの思い出した。先に教室行っといて」
「えっ、用事って、もうすぐ始業のチャイムが鳴っちゃうよ」
「すぐに行くから大丈夫!」
不思議そうにするスズちゃんを置いて、急いで駆け出す。遅刻は心配だけど、あんなの見たら放っておけないからね。
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