第11話:王妃の思惑と葛藤
アニカ王妃殿下は三十代半ばだったと思います。
肌には年齢が現れていますが、瞳は輝きを失わず、知識と経験に満ちた洞察力を秘めています。
多少のシミやシワはありますが、透き通るような白い肌は美しいです。
私のように直ぐ赤黒くなる肌ではないです。
シルバーとゴールドが加わった珍しい髪を優雅に編み込んでいます。
風を受けて揺れる姿が美しさを引き立てています 。
華美な宝石を身に着けず、上品な絹のドレスに身を包んでおられます。
金銀宝石を身に付けていなくても、持って生まれた王族の気品と風格が彼女を包み、誰にもまねできない魅力を放っています。
そんなアニカ王妃殿下が開口一番こう言い放たれました。
「ワグナー王家はもうだめだから見捨ててきたわ」
「……アニカ王妃殿下、ワグナー王家を見捨てられたというのが本当だとしても、何故ここに来られたのですか?
御実家のアンラン王国の戻られなかったのは何故ですか?」
父が表情も声色も不思議そうに聞かれます。
王族に生まれたのですから、実家に戻れば楽に生きて行けるはずです。
実家に何か問題があって戻れないとしても、少なくとも実の子供を殺した我が家に来る事だけは避けるのが普通です。
「最初に言っておきますが、ジョナサンの件で恨みが全く無い訳ではありません。
ですがあれば完全にジョナサンが悪いかったので、逆恨みになってしまいます。
王族として恨み続けるのは恥だと理解しています」
口にされている事は流石ですが、鵜呑みにはできません。
母性愛が理性を超えて子供を愛する事があるのは、母の件で骨身に染みています。
「恨みを忘れようとされているのは理解しましたが、身を預ける先に我が家を選ばれた理由にはなっていません」
「あら、分からないの、簡単な事じゃない」
「簡単と言われても分かりません」
「私は政略結婚を前提に育てられた王女だったのよ。
ワグナー王家が力を失ったら結婚する意味がなくなるわ」
「はぁ、我が家は比較的武に寄っていますので、政略結婚に頼る比重が少ないのですが、ワグナー王家を見限られた理由は分かります。
分からないのは、何度も言っているように、我が家に来られた理由です!」
「ここまで言ってもまだ分からないの?
私にそこまで口にさせるなんて、男として失格よ」
まさか、そんな、幾ら何でも非常識過ぎます!
「アンラン王国の王族として、ミュラー伯爵家と縁を結ぶのが良いと思ったの。
ワグナー王家から単に逃げ出してアンラン王国に戻っても肩身が狭いだけ。
でもミュラー伯爵と再婚したら実家も私を無視できないわ。
これまで通り賄領から資金を送り続けてくれるわ。
伯爵もアンラン王国を後ろ盾にできるからウインウインじゃない?!」
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