第4話:誇りと怒り

「何と卑怯な、最初からその心算だったのか?!

 最初から騙し討ちする心算だったのか、恥知らずにも程がある!」

 

 クライン侯爵家の人が余りの事に激怒しています。

 罠、だったのですね、確かに卑怯にも程があります。


 少しでも王太子や貴族としての誇りがあるのなら、婚約を条件に非武装で呼びだし、騙し討ちするなんてことはしません、本当に恥知らずな者達です!

 そんな者達に、ミュラー伯爵家の柱石である父上を討たせる訳には参りません。


「黙れ、黙れ、黙れ、これも策略よ、余は智謀で戦っていくのだ!

 余に従えぬというのなら、お前もこの場で討ち取り、クライン侯爵家も攻め滅ぼすぞ!」


「やれるものならやっていただきましょう、王太子殿下!

 クライン侯爵家は武勇の家、私も騎士の資格を持つ正義の戦士です。

 命惜しさに卑怯な謀略に加担したとあれば、末代までの恥となります!」


 ああ、なんて男らしい方なのでしょう。

 王太子がこのような方ならば、私も父上も恥をかかされる事はなかったでしょう。


 いえ、このような方ならば、我が家に頼るような事はなかったですね。

 好きでもない、こんな醜い大女との結婚を条件に同盟を結んだりはせず、もっと他の条件で同盟を結んでいますね。


「えええい、構わん、殺せ、殺してしまえ!」


 王太子が決断しましたが、とても一国の王太子とは思えない、情けない声色です。

 重大な命令をしているのに、声が震え割れています。


 婚約披露会場のため、剣を持っていない父上が、拳を握っています。

 素手で戦う覚悟なのでしょう。


 クラウゼ公爵もクライン侯爵家の若き騎士様も、父上と同じように無手で構えておられます。


「待ってください、恥をかかされたのは私です、私が決闘を申し込みます!

 不貞を捏造され、婚約破棄をこのような場所で言い渡され、恥をかかされ名誉を傷つけられた私が、王太子とシュナイダー侯爵に決闘を申し込みます。

 女相手に、しかも二対一での決闘です。

 それを逃げるような恥知らずではありませんよね?!

 王太子殿下、シュナイダー侯爵!」


「はん、誰が女だと、この化け物が!

 お前は人間ではなく化け物なのだ、半オーガめ!」


 私の中で、何かが壊れました。

 心無い噂では、ミュラー伯爵家はオーガの血が流れている事になっています。


 ですが、父上も母上も間違いなく人間です。

 オーガのように凶暴でも残忍でもありません。

 戦では仕方なく勇敢に戦いますが、普段はとても心優しい人なのです。


 それを、私をオーガの混血だと揶揄しました。

 それは、父上や母上の名誉を踏み躙る、絶対に許せない言葉です。

 それを何度も繰り返すなんて、怒りに我を忘れてしまいました。

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