第3話:王国の誇り、血の闘争

 父上が激怒してシュナイダー侯爵に詰め寄っています。

 シュナイダー侯爵が顔面蒼白になっています。


 でもまだ胆力があると思います、失神することもなく失禁もしていませんから。

 父上そっくりの私がいうのは何ですが、父上の容貌はオーガそのものなのです。


 身長は軽く二メートル四十センチを超えています。

 その高身長を、並みの人間では考えられないような太い骨格が支えています。

 その身体に、岩を掘り出したような筋肉が付いているのです。


 シュナイダー侯爵は私の事をオーガと謗りましたが、ミュラー伯爵家にオーガの血が混じっているという噂は、大陸では半ば信じられているのです。


 そんな父上に威圧されて、顔面蒼白になりながらも対峙するのは、とても勇気が必要です。


 私は心無い言葉に傷つきましたが、シュナイダー侯爵だけが言っている事ではないのです。


「何故俺が貴様などと決闘せねばならん、俺は侯爵だぞ!

 伯爵が侯爵に決闘を申し込むなど無礼にも程があるわ!」


「ならば僕が決闘を申し込みましょう、私なら同じ侯爵家です。

 まだ家督を継いでいませんが、嫡男として家の全権を預かってこの場にいます。

 ソフィー嬢を揶揄した陰湿な悪口、ミュラー伯爵家への無礼、どれもワグナー王国貴族の品位と名誉を傷つけた、恥知らずな行為です。

 それによってクライン侯爵家も著しく名誉を傷つけられました。

 シュナイダー侯爵に決闘を申し込みます」


「な、何をいっているんだ、これは、王太子殿下の御意向だぞ?!」


「黙れ、不忠者、全ては貴君が王太子殿下を唆したのであろう!

 娘を未来に正妃にし、王国の実権を握ろうと、殿下を誑かしたのであろう!

 そうでなければ私の決闘申し込みに王太子殿下の名を出したりしない。

 ここで王太子殿下の名を出せば、殿下が決闘に出なければならないのだぞ!

 この卑怯者が!」


 ああ、知らない人が出てきました。

 父ほどではありませんが、二メートルを越える身長です。


 肩幅は広く、胸板は盛り上がり、背中はまっすぐに伸びています。

 その胴体は鍛え抜かれた筋肉に覆われ、逞しさと力強さを感じさせます。


 腕は太く筋肉が緻密に詰まっており、一撃で敵を打ち破る力を秘めているようにみえます。


 手は大きく厚みがあり、握力の強さを伺わせます。

 遠目にも剣だこが見えますから、剣術も人並み外れているのが分かります。


 足は長く、筋肉がしなやかに動いています。

 歩く姿はまるで舞うようで、その歩幅は広く、確かな足取りで地を踏みしめます。  

 その足さばきは優れた機動力を発揮し、戦場でも敵を追い詰めるはずです。


 金髪がシャンデリアの光を受けて輝き、風になびいている様子はまるで黄金の瀑布のようです。


 その髪は柔らかく、絹のような滑らかさを感じます。

 シャンデリアの光が金髪を照らすと、その輝きは彼の優雅さと王者の風格を象徴しているかのように見えます。


 彼の碧い瞳は透明な海のようで、深みのある色彩は知識と冷静さを宿しています。

 その眼差しは鋭く聡明さと勇気を秘めているように見えますが、今はシュナイダー侯爵を視線だけで殺せるほどの迫力に満ちています。


 誰もが彼の瞳に魅了されると同時に、その内に宿る殺意に恐怖を感じています。

 父に鍛えられた私は、周囲の人間の殺意や恐怖が手の取るように分かります。


 彼の顔は完璧なまでに整っており、繊細な輪郭と引き締まった顎は王者の血を感じさせます。


 鼻筋は高く、端正な輪郭は誇り高さを表しています。

 怒りに引き締まる彼の口元は周囲に罪の意識を訴えているのでしょうか、徐々に王太子やシュナイダー侯爵への敵を伝播させています。


 ……クラウゼ公爵家の令息は味方なのでしょうか?

 ですが、もうやめてください。

 争いが長く続くほど、私が哀しく苦しいだけなのです。


 膝を折り、背を丸め、首を突き出して少しでも小さく見せようとしているのに、それでも普通の令嬢より頭二つ分背が高い私です。

 好奇と同情の眼に晒されるのはとても辛いのです。


「殿下が決闘をする、馬鹿な事を言うな!

 何故殿下がこのような化け物と決闘せねばならん。

 近衛騎士で押し包んで殺してしまえばいいことだ!

 ここで化け物を討ち取れば、ワグナー王国の武勇は大陸中に鳴り響き、攻め込んで来る国もなくなる。

 王太子殿下がオーガの混血児と結婚する必要もなくなるのだ!」

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