観測記録の断片3 せめて満足いく結末を(3)
12月中旬、積雪が本格化し街は雪に埋もれているという表現が間違っていない程には、一面の雪景色が広がっている。他の人よりも高い場所に居る自分に対し、少しだけ優越感に浸りながら公命は病室の窓から人々の営みが作り出す夜景を眺めていた。
こんな病人相手に誰かかしらが毎日飽きもせず誰かが会いに来てくれる、親族親戚、小中高で関りを持った知り合い、そして親友と友人そして恋人と、これだけの関りをはたして自分は本当に作っていたのだろうかとつい考えてしまう程には、毎日誰かが会いに来る。
「ひ………までは無いな、うん。暇ではない」
しかし夜にもなると窓辺から夜景を見る程度の娯楽しかないのだから、暇だと言ってしまいそうになる公命の気持ちも私は分からなくはない、私も傍観者として個人を見る事を許されなかったのならきっと退屈で仕方なかっただろう。世界に動きがあったとして、それを当事者視点で見れないのであれば、絵と比べても然程違いはない。
「読書の一つでもと思えば、痛みで集中できなくなるし、だからといってまだ強い薬は使いたくないし…、はぁ、やっぱり暇だ」
出雲芽生にでも、メッセージアプリを使い愛の言葉を連続で送ろうとも公命は考えたが、起動したスマホを足元の布団まで投げ捨てる事で、そんな雑念を払う事に成功していた。
出雲芽生に悪いからではなく、感情のまま愛の言葉を捧げた所で、その言葉に一切の責任を自分は取れないという事を冷静に考えてスマホを投げ捨てた。
「ため息しかでないねぇ、目標もなんとか芽生の為になんとか全部達成したいけれども、それは体に聞いてくれって話だからなぁー、あんとも言えないなー」
そんな戯言をほざいていると、ガラガラと病室の扉が開く音がし、看護師の見回りかと思い公命は布団をかぶり行儀のいい、言う事をちゃんと聞く都合の良い患者を演じる事を実行する。大体もう夜ご飯の時間は終わっているのだから寝ていたとしてもおかしくはない筈だ、病人だし。
「公命君?あれぇ?声がしてたから誰かいると思ったんだけど…、隣の部屋の音だったのかな?まぁいいや、今日も来たよ」
もう面会時間ギリギリだというのに、出雲芽生が来た。全ての準備が整っている出雲芽生にとっては、公命の居ない学校などロスタイムに過ぎない。けれども、だからといって毎日会いに来ているという訳ではない。彼女にもやるべき事は確かに存在するのだ、やらなくても出来るのではなく、出雲芽生はやっているからこそ出来る人間なのである、故に毎日の努力もしなければ、己がもったその才能も腐るだけ。
「寝てる?まぁいいや、私が会いたかっただけだし…、いやぁ努力の天才って言葉がある様に一切の苦を持たずに続けるのは才能だよ、私は正直投げ出したい…」
珍しく出雲芽生の口から出た、弱音を聞くのは二度目だった。眠っているふりをする為に布団を被った事がミスだった、真摯に出雲芽生の悩みを聞くのが今自分の出来る最善だと思ったが、だからといって実は起きてましたと後手で出るのは騙したような気もして気が引けるというのが公命の考えだった。
「まぁ自分が決めた道だしね、逸れる気は更々ないしもうそれを許される状況でもないしネ、お父さんにも了承して貰って、作った会社の面々にも納得してもらうのには時間を要して、誰にも弱音を吐けない状況にしたのは私自身だけど…、まぁ君になら弱音を吐いてもいいかなって思ったんだ」
自分の会社を持っていたなんて事を、公命は今初めて知った。だからこそ布団がビクンと揺れたし、出雲芽生の凄さを公命は知った。自らを好いている恋人は、人類史上でも指折りの天才だという事を、これで公命も知っただろうか?それを知らない程彼らは自らの事を自分で口にしていない。その想い、関係は本物であったとて、交流不足その一言に尽きる。
「人生の目標はあるんだけどね、漠然とその道を辿れるか…いや辿る気でいるけれど、まぁ君の彼女は偉大な一歩を踏み出そうとしているんだよ?知ってる?返事はなし…、それに文句は無いよ、けどその偉大になる予定の人生に君が居ないんじゃ意味が無い気もしてきた、はぁーあ…。やーめた、弱音はここまでさて今日も帰って努力の時間だ!んじゃねー」
ガラガラと病室を出た音を確認したところで、被っていた布団を持ち上げ大きく息を吸う。内容云々以前にもう冬であったとしても、ずっと布団を頭から被り続ける行為は暑いという以外の言葉が出ない。
「あちぃー………あっ………」
目と目が合う、誰かは口にする事さえ野暮なので口にしないが、まぁそこに居るのは想像通りの人間だった。
「バレバレだったから、今度はちゃんと起きて、聞いてねー、ほいじゃー」
「ほ、ほいじゃー……、だったら言ってよぉー!」
大声とまではいかない声が、病室とその病棟に木霊してはいないが、木霊したかのような気持ちで公命は心を込めて叫んでいた。
12月下旬、学校は冬休みになり、そして恋人たちが浮かれるこの日はクリスマス。
夜8時の15分を越えた、面会時間は終わりを告げて既に病院は閉じられた。この時間からの外出など許可される訳が無く、そしてそれが末期といっても過言ではない患者と言えば尚更単独での外出など許されない。そんな中公命の居る病棟で、アラームが鳴り響く。
看護師たちの慌てよう、そしてこのけたたましい音、患者の状態が急変したのか、それともついに生命に終わりが近づきその最後の抵抗をしている最中なのか。
人が行きかう先、音の鳴る先は公命の病室だった。
だがそこに公命の姿は無く、あるのは公命が使っていたスマホだけが残っている。騒音を出したはずの本人の行方や、手掛かりが本人のスマホを残して何もないのだから看護師の慌てふためき様も納得できる。
ただ居なくなった病室に残されたスマホからは、何事かと勘繰ってしまう程にメッセージが来た事を知らせる通知が鳴りやむ事無く、震えるバイブ機能と合わせて連続で響く。
冬の夜、深々と雪が降りすさむ中の事であるこんな真夜中にどうしてここに?と思うのが普通であるかもしれない、ただそこにある医科大学の前で、公命はタクシーを待っている。
犯罪という訳ではないが、計画を企てる時間は楽しかったのだろう、今頃どんな表情をしているのかと想像すると、やはりにやけが止まらずにいる。愉快犯はこうして生まれるのかと酷い誤解をしているとは分かってはいるが、そう私も思ってしまう。
目の前にタクシーが到着し、後部座席の扉が勝手に開く。古いタイプの車だ、タクシーというモノを初めて見た時、あれはどうやって自動で開けているのだろう?と、私も思った事があるが、実際には座席横のレバーで開く事を知り、私は酷く知らなくてよかった事を、知ってしまったと後悔した事がある。
まぁそれは本当にどうでもいい話だが…、北海道という広大な土地の特性上、一家に一台、もっと言えば家族一人につき一台というのも不思議な事ではない現状から実の所、公命はタクシーに乗るのが初めてだった。だからその仕組みを知るのも初めてだったのだ。
「うそぉー、そういう仕組みだったんだ…、なんかちょっとショック」
私と同じ感想を抱いたらしい少しばかり古臭い車が、ボタン一つで全て開くシステムなど組み込める筈もなく、そういった原始的なモノだという事は少し考えればわかる事なのだが、そう思いたくないのが浪漫という奴なのだろう。
「どうしましたか?お客さん」
「あー、いや、なんかタクシーって子供の頃どうやって開いているんだろう?って思ってたんですけど…、思った以上に原始的な開け方でショックを受けてました…、いや魔法なんてないんだから当然といえば当然なんですけど…」
「そうですか、新しい車種であればボタン一つでって事もできるんですけどねぇ、生憎私が乗る車は古いタイプでして、それでお客さんどちらまで?」
初老どころか、還暦を迎えていそうなお爺さんが気さくに回答してくれる。そうだ、呼ぶことはしたがどこに行くかを知らせなくては移動もできない、家族とは違って今日はここと決めて動いている訳ではない、だから公命は口にする。
「駅前のショッピングモールまでお願いします」
「はい、かしこまりました。シートベルトの着用お願いします」
そう言い公命がシートベルトをした事を確認すると、駅前というのは行き慣れているのか、カーナビなども起動せずにウィンカーを出し、車は発進した。
ブゥーンと走り始め、クリスマスだからか、それとももう夜中だからかは分からないが、公命は対向車や自車線に車が少ない事を目にする。まぁもしも自分であっても用事が無ければこんな夜中に外は出ないな、自嘲気味に笑う。振り続ける粉雪が、街灯に反射して煌びやかに見えて綺麗だと公命は思い、だからこそこう考えた、今日がこの天気で良かったと。
「そういえばお客さん、こんな夜中に医大前なんて珍しいね、それもお客さんみたいに若い人が、駅前に行くって事は誰かのお見舞いで来てたのかい?」
「いや、今日はこれからデートの約束をしてたんです。高校も折角冬休みになりましたしね、それに今日で最後ですから」
「へぇー、でも学生がこの時間に出るのはいいのかい?まぁダメだとしても私が告げ口をするなんて事はないけども、それに君みたいな若者がこれで最後って、まさか脈無しだった?」
「そもそも僕は学生じゃないですよ、相手が学生なだけで。まぁ相手が学生だからこそ、こんな時間にしたくは無かったんですけど、色々あって…、まぁ脈はもうなくなるかも…」
「ほぉー、じゃあ最後に良い所見せようとした訳だ、頑張りな、おじさん応援してるから」
優しいお爺さん、公命の姿をしっかりと見れば、公命の言っている言葉がおかしいという事に気づくだろうに、運転手は運転に集中しないといけないというのは少しもどかしい。
虚ろ気に窓から外を眺める公命を見て、脈無しと思ったのだろうか?だから最後と答えたと思ったんだろうか?その服装から、第三者で見れば公命の見た目、全てがおかしい事に気づくだろうに。
「はい、到着しました。料金は」
「あ、お釣りは要らないです、どうぞ受け取っておいてください。ありがとうございました、それと何か連絡来たとしても口留めお願いしますね?」
「お、おう?若いのに気前良くありがとうね、じゃあドア開けるよ」
「はい、ありがとうございました、それじゃ」
公命がタクシーから降りると、タクシーは次の場所に向かうのか走り出す。財布を開けば残金は7千円。帰りの分を含めてやっすいプレゼントならば買えるだろうかと言った所、その安いプレゼントを何にしようかすら考えていなかったらしい、恋人としては失格だろうかと公命は疑問に思う。
けれど定めた目標は、出雲芽生としたクリスマスデートという約束は、なんとか今日の終わりまで残り三時間ではあるが果たす事に成功した。それだけで褒めて欲しいというのは、我儘にあたるのだろうか?それは私には裁量しかねる、判断は出雲芽生本人が下すであろう。
「でもいきなり送ったし、来ないかな?まぁ待っている時間もデートだからいいや、その気になれば映画なんて一人で見れるしねー」
グデーと待ち合わせをした1階のフードコートで、真冬にアイスクリームを食べている人間が居る事は珍しいとは思わないだろう、だが上に上着を羽織っているとはいえ、下が完全に病院着であるのならば周りの目を引くらしく、食べている姿勢が酷いというのもあるが、それでも隣を通る人が二度見する程度には注目を集めていた。
「最近は好きな物を食べてなかったからねー、今日くらい罰は当たらないでしょう」
プラスチックの小さいスプーンでアイスクリームをチビチビ食べながら、公命は出雲芽生を待つ、待って、待って、待ち続ける。いつまでも待てる。例え頻繁に痛みが再発しても、デートの時ぐらいは気を逸らして見せる。
公命が言いたい事はこうだ、痛いし、色々なんか体がおかしいっていう自覚はあるけれど、恋人待ちながら食べるアイスは美味しいという話だった。
「なにやってんのさ、ビックリしたよ本当にいきなり、ここに来てだなんてサ。周辺で時間潰しといてよかったよ…、全く…」
「芽生―、会いたかったよぉー、一昨日くらいもあった気がするけど…、まぁいいや時間が無いしとっとと用事を済ませちゃいましょ」
「わわっ、ちょっと引っ張らないでよー、ちゃんと自分で歩くからぁー」
クリスマスにありがちな、恋人のいちゃつきだった。けれどやはり通り過ぎる人の目は引いてしまう。明らかに病院着の人間が闊歩しているのだから、けれどそういうファッションかと見逃す一方で、公命には別の懸念があった。
もし病院に連絡が言ったらどうしようと、まぁその時はその時でいいかと思える程には、今日の公命は破滅的思考をしているのだが。
「で、何するの?目標はちゃんとクリアしたんだし、カフェで一服でも私は十分に満足だよ?それに体は、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫、今日は調子が良かったからね、だからこそ黙って抜け出して、ちょっとした騒ぎになってるんだろうし………イテ」
「バカタレ…、迷惑をかけない方法は幾らでもあっただろうに…」
出雲芽生は公命の脇腹を小突く、公命もツッコミを受けたと思って大袈裟なアピールをする。だからこそ、出雲芽生は思うのだ、絶対に嘘だと。
体調なんて良くないに決まっている、立っているのもやっとに決まっている、今日は調子が良かったなんて出雲芽生を安心させる為に放った方便だという事もわかってしまう。けれどどうしようもなく彼女は嬉しいのだ、そこまで公命に思われて、そこまでこの決めた目標に向おうとしてくれた、その姿がだからついつい甘えてしまう。
「ねぇ、手、繋ごっか?」
出雲芽生はそう言って、公命に手を差し伸べる。公命もまた敵わないなといった表情で、出雲芽生と手を取った。
少しばかり出雲芽生に体重を掛ける、本当は逆の方が女性的には嬉しいのかもしれない、けれど今の公命にはこれが今できるやっとの行為だった、空元気もとうに終わり、支えて貰って歩くのがやっとだった。
けれどそれでも公命は気丈に振る舞う、その姿が嘘だと知られても少しだけ大好きな人に元気な姿を見せたかったから。
「ていうか何気無しについてきたけれど、映画見るの?今っていい映画あったっけ?」
「さぁ、知らない。でもデートっぽいし、今までしてこなかったからいいかなって映画デート、嫌だった?」
「いーや、こう見えて私は映画に口うるさいからね、君に引かれないかなって思って誘わなかっただけだよ」
「………そうだったんだ、まぁいいや時間合う奴にしよう、それと確かもう退学してるから使えないけど学生証が…、タクシーに落としたみたい…」
間違いなくその言葉は本気なのであろう、という事を出雲芽生の表情から公命は察した、確かに劣化模倣品は嫌いという事を話していた事を公命は思いだし、それならば流行りに乗っかっただけの作品なんて、もっての外であろうという事もすぐに想像が着く。
「そもそも、23時越える作品だったら学生証出した時点で見れないから、ここはそんなズルしないで大人料金で見るんだよ」
知り気に出雲芽生はご高説を垂れる、23時以降はどうあっても18歳未満は基本外出禁止という市か、道か、国が定めた決まり事の一つや二つがあった気がするが、それを彼女は常習的に破っているのだろう。
それを私は悪だとは決して言わないが、公命にとっては破っている人がこんな身近に居ると知り少し驚いた様子だった。
「てか俺は18歳だから問題ないけど、芽生は17歳だもんね、そういえば」
「そそ、3月中旬―、早生まれという名の遅生まれ―、お、これ面白そう。ね、これでいい?」
「芽生が気になる奴だったらそれでいいよ………でも3月中旬かぁー、まだまだ先だなぁ」
芽生が購入手続きをしている間、彼女に聞こえないような声で呟いた。3ヶ月弱、遠いようで短い、あっという間の期間の筈なのに、公命にはどうしようもなく天よりも遠いモノに見えていた。
「なんか言った?」
「んにゃ、何も。ささ、もう上映時間がだから入りましょー」
本日のそこから先の観測データは殆ど無い、公命を主軸にしたとしても、出雲芽生を主軸にしたとしても残す価値が無いモノであったからこそ、必要が無かった。
マフィアが怪我をし、そこに勤める女医師が築く恋の物語だった。パンフレットに書かれていた先が気になるあらすじとは違い、酷く退屈な映画であったからか、公命の体が悲鳴を上げていたからか、観測データが残らなかった理由は恐らく前者だが。
それでも公命は最後の最後まで気丈に振る舞っていた、出雲芽生が『大丈夫?』と声をかけてきても『何が?』と返す、痛みで嫌な脂汗が流れ始めたとて、それを涙と言いながらハンカチで汗を拭きとった。
けれど退屈映画にも、監督や脚本が考えた見せ場というモノが存在する。そのシーンだけは明確に観測出来ている。それは二人の未来を暗示させているような展開であったからだろう、死ぬと分かっていても呼ばれた場所に行くマフィアの下っ端である主人公と、その主人公が帰ってこない事を悟っていても決して止めずに、手術室に入る女医師。
結末がハッピーエンドになる事はない、どれだけ主人公が頑張ったとて、主人公は死ぬと最初から決まっている物語では逆転の一手などありはしない、だから女医師が手術を成功させ、生きていてくれと連絡をしたとて、主人公は電話を取る事は無い、けれど何度も女は
涙を流しながら電話を掛け直す。それがこの映画の結末だった、救いも無ければ、次に繋がる事も無い、初めから先が無い関係なのだから、当然なのだが。
私は傍観者で介入を許されない、けれど死後の転生する前に魂に介入する事は許されている、する事は基本的に無いが…。
だからこそか、それ故にか、この映画を見て私は確信した、私は彼らに介入する事は決してないのだ、初めから終わっていた物語の再上演を公命は望んだ。初めから終わっていた人間に出雲芽生は恋をして、諦めるなとは言わなかった、この映画となんら変わりは無い、もう始まった時点で結末が決まっていたのだから、私が手を出す事はしない。
フラフラと出雲芽生の手を必死に握り、腕に支えられながら公命は映画館を後にする。もうとっくの昔に限界は迎えていた、けれど最後に伝えたいことがあったからか、腕を振りほどき、出雲芽生の正面に立つ。
「芽生、今日は俺の我儘に付き合ってくれて、ありがとう。本当に楽しかったし、嬉しかった…、うん、そんだけ…」
「私も…、公命君がそこまで必死に来てくれた事が本当に嬉しかったよ、やっぱり私は君の事が大好きだ、だから最後まで傍に居るよ…」
澱んだ瞳が渦を巻く、愛に狂うのではなく、出雲芽生は初恋で狂っていた。己の魂の道行を確定付けてしまう程に、その恋心は狂っていた。
「あぁ、幸せ者だなぁ、俺って。だから俺からも口にしとくね、俺も芽生の事が大好きだ…」
ようやく公命も行動ではなく言葉で自らの想いを伝えた、だからこそ彼の澱んだ瞳も狂い始める、出雲芽生と同じ様に、本心だからこそ、望まない結末だからこそ、次こそは、来世があるのならば来世ではと。
「はいはい、で私に何して欲しいの?」
「ぜぇ……、はぁ……、一緒に看護師に怒られて?」
「はいはい、再現するまでも無く知ってたよ…」
なんでやねん、そういう意図もあって会話してたのかい!とツッコミを我慢した私は偉いと思う。
そういって二人は病院へと戻る、心配した様子の両親と看護師に怒られるのだが、けれどやはり想いを口にしあった二人がどこか怒られながらも幸せそうにしていた事を私だけが知っているのは、いつぞやの高いだけで優越感に浸った公命ではないが、私もその気持ちを少しだけ理解できた。
だが身代わりを立てた公命は、両親に3倍程怒られて半泣きした事を知っているのも、私だけだ…、これは観測データには残さないで置いておこう、私だけが知りえる情報……フフッ、これこそ愉悦感…。
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