観測記録の破片1 これまでの人と、これからの人(5)
蝉が煩くなく頃に、夏祭りは開催を告げるらしい、どうしてそこまで暑い中外へ出るのか、日射病になる可能性だって低くはないのにも関わらず、祭り好きな人間達はここぞと言わんばかりに外で羽目を外す準備をしていた。
今日の天気は晴れのち晴れ、晩から未明かけて雨、まぁ祭りに影響はないであろうことをお天気お姉さんがテレビを通して、誰でもない全員に語りかけていた。
勿論彼もその一人ではある、しかし体力的限界が訪れない様約束の時間は夜にしたらしい。立花巴や小山伊織が居る兵庫では夜になっても暑かろうが、ここは北海道。日本という国の中では一番北、故に本州とは違い夜はそれ相応に涼しいのであ…。
「暑―い、溶けるぅー、君は暑くないのー?夏なのに和装ななんてしてぇー…うりうり私の暑さを分けてやるぅー」
「やめてって、夏祭りは気合入れてって言ってから、態々押し入れから引っ張りだしてきたのにそっちはいつも通りっていうか、いつも以上にラフな格好だね…、まぁもう少ししたら雨降るからきっと、涼しい所か寒くなると思うけど…」
「雨降るの?まぁいいか…。で、どう?いいでしょ?へそ出しコーデ、君のパソコンにこういう画像も無かったっけ?好きかなと思ってコーディネートしてみたんだけど、どうかな?」
「離れてくれれば可愛いよー、人のPCの中身見た事は良いけど、なんであの一瞬でちゃんと内容覚えてるかな…本当に…」
「おいおーい、そんな素っ気ない態度取っていたら私が拗ねちゃうぞー?いいのかぁー、私の気持ちはまるで北海道の夏と夜の寒暖差くらいには移り変わるぞぉー」
「残念ながらここは盆地で、夏も夜も大して暑い事に変わりはないよ、はぁ―浮気されなさそうであんしーん」
と言う事で、別に北海道だからと言って涼しいという訳でもないらしい。地球温暖化という奴だろうか?だが昼頃公命と話していた立花巴曰く、こちらとあちらでは湿度も温度も違うとの事、やはりこちらの方が涼しいのかもしれない、しかし体が二つある訳ではないので、同時に自身の体で温度を測る事など不可能な訳で、とにかく日本の夏は暑いらしい。
「でー、結局何しようか?冷やかしにりおりんの所にでも電話してみる?今きっと立花君と一緒に居るんでしょ?」
「さぁ?一緒に居るかは知らないけど…、まぁきっと出雲さん以上に暑さでバテてるだろうね、小山さんは特に…。連絡するなら俺のスマホ使う?3人のグループあるから全員に通知は行くよ?」
「えぇー、何々ぃ、公命君達3人のグループあるのー?なんで私は混ぜてくれないんだよぉー、本当に拗ねるぞぉ?」
「そりゃ小学生の頃から友達してるんだから、グループの一つや二つはあるでしょ…、ていうかやーめた、なんか出雲さんの態度がうざったいからとっとと出店見に行くよー」
「うぇー、やだやだぁー、私もそのグループに混ぜてよぉー、恋人特権許してよぉー…………、って本当に置いていかないでよー、おーい公命君―?調子に乗って悪かったって…、だから待ってー」
夏には夏祭り、そして高校球児の激闘、4年に一度のその時期であれば世界中が参加するオリンピック、7月には七夕、北海道だと8月に七夕、もっとイメージするならば、亡き人に供物を届けるお盆。食欲の秋や、読書の秋の様にやるべき事が定まってなく、やる事ないからこれをしておけと言うような秋とは違い、夏には沢山のイベントが存在する。
故に意識すれば自ずとテンションは高まっていき、それが大好きな人とのデートなれば尚更と言うべきか、出雲芽生は間違いなく人生最高潮の日を迎えている。
ただ私にはそれが、成さなくてはならない事成す為に、自ら気持ちを昂らせているそう見えなくもない、私は見ている事しか出来ないが、それでも彼にとって幸せな結末への一ページである事を私は神を自称できる存在ながらも一つ祈りを捧げる。
「公命君、あれを取ってよ、なんと500円であのゲーム機が手に入るかもしれないんだって!」
「こういうのに当たりは入ってないって良く聞くけども…お金の無駄じゃない?」
「いいの、いいの、こういう時はかもしれないというロマンが大事なんだよ、君も賭けて見なよロマンってやつをサ!」
「出雲さん…、いつになくテンション高いね、何かあった?」
「お祭りでテンションが上がらないJKは存在しないんだよ、ホレ彼女へのプレゼントだと思えば500円なんて安いでしょ、ホレホレー」
「兄ちゃん達、やらないんだったら営業妨害だからどいてくれ、やるかい?やらないのかい?ほれ早く決めな!」
「うわぁー、そこまで怒鳴らなくてもいいのに…、まぁいいですやります…はい500円」
当たりが入っていないだの、これはロマンでしかないだのと小さな子供もいる前で、色々言ってしまったが為か少し屋台のおじさんに嫌な目で睨まれる二人、だが公命は500円硬貨を手渡し、客として相手をして貰う事を選択した。
手渡されるくじ箱、中に入れる手、何も不自然な所はない、一つ不審点を挙げるとするのならば目玉の特賞とやらの紙きれは屋台のおじさんのポケットに入っているという事だけ、しかしこれを知るのはこの店の長である彼と、そして全てを観測できる私だけだ。
出ないと分かっているモノに一喜一憂する、それはきっと人間にしか出来ない事だ。
「どれどれ?3等?いがーいちゃんと高い当たり入ってるんだねー」
適当にくじ箱に手を入れ真ん中にあるモノを公命は手にした、その中身を開くと同時に出雲芽生は顔を覗かせ、その中身を口に出す。まさか一回で引かれるとは…、そんな何とも言えない顔で二人を見つめる屋台のおじさんは、苦虫を噛み潰した様な顔で3等の景品へ二人を案内した。
「で?何か欲しいモノあるの?」
「へ?いや全然?欲しいのは無いかなぁ、正直興味もないし…」
「じゃあなんでやらせたのさ」
「だから言ったでしょ、当たるかもしれないっていうロマンだよ、あ、おじさんこのぬいぐるみでお願いしまーす」
「あいよー、勝手に持ってけ」
「はいはい、勝手に持ってきますよーっと、どもどもー」
どこにでも売っているような3等の景品の中で恐らく一番みすぼらしいであろう、縫い込まれ無理やりにでもしない限り離れないであろう、二つで一つのぬいぐるみを出雲芽生は手に取った。絢爛なお姫様の様な姿の猫と、みすぼらしいが猫に巻きつく蛇、何かをモチーフにした訳ではなく、本当にテキトーな理由で作られたであろうこの作品が出雲芽生の目には惹かれるモノがあったらしい。
しかしながら誰にもしっぽを向けない、向けるのは信頼を勝ち得た一人だけ、そして最後の1年を最高の思い出にしたい、それは残す人へのせめてもの巻きつきという名の執着と言うべきかもしれない。
絢爛さは自らにある才能の証明を、みすぼらしさは自らの虚弱性を、正しくこの二人を表している、出雲芽生は公命の体の事は知らない筈だが、凄まじい直感と言うべきか。
「本当にそれでよかったの?なんか今流行りのキャラのぬいぐるみとあったよ?」
「いいの、いいの、なんでかな?これがいいんだ、うん、家に帰ったらベッドの横に置こう」
「まぁ、出雲さんが気に入ってくれたならなによりだよ、それでこれからどうするのさ、花火見て帰る?」
「何をおっしゃいますか、まだ祭りは始まったばかり、型抜きに、ピンボール、わたあめetc.花火の時間までやるべき事は一杯あるから張り切ってこー」
「うへぇー」
強引に手を引っ張られ、二人の姿は祭りの喧騒に消えていく。型抜きで渡されたモノ全てを完璧に繰り抜いて店主に出禁を食らい、ピンボールで公命が見守る中一人延々と、ボールを稼ぎ出禁を食らい、ヨーヨーを取れるだけ取り周りの子供に上げて出禁を食らい、わたあめを食べながら金魚すくいの水槽から金魚を一度外に出す偉業を成して出禁を食らった後、射的でも異常なセンスを見せ店番のイカサマがバレそうになった所で出禁を食らい、遊べる場所が亡くなった所で、出雲芽生のいつも以上に有り余るテンションが下落し始め、一休みの為少し離れた公園で一先ずの終わりを告げた。
「はぁー、戦果はこのヨーヨー一つと怪獣が一つ、後はわたあめ…、それにこのぬいぐるみだけかぁ、もうちょっと遊びたかったんだけどなぁ」
「もう少し遊びたかったのなら、加減を覚えるといいよ…そしたらまだ遊べるさ」
「こうなったら君の浴衣の中に入って…、二人羽織でならいけるか!」
「そんなに輝かせた目をしても、入れる訳ないでしょ…」
「えぇー、まぁ良いけどサ、まぁオマケ集めは好きだけど、それはオマケでしかないからね…、オマケじゃない君と居られれば………」
「なんか言った?」
「うん言ったよ?知りたい?」
「どっちでも、知りたくないと言えば嘘になるかな?教えてくれる気はあるの?」
「あ、花火が上がった…、たーまやー、おーキレイキレイ」
どうかかな?と疑問を振っておいて全く返答をしない、公命には背を向けて、空に上がる花火に歓声を上げる。話を振っておいて、話を背ける出雲芽生に痺れを切らし、公命は彼女の前に立つ。
花火の明かりにあてられたというには少し赤すぎる頬色を残し、瞳を震わせ、足を震わせ、指が震えている出雲芽生の姿がそこにある。
「どう…、したの?俺何かしちゃった?」
「いーや、私も緊張する事があるんだなって…、だからどうしても言葉にするのに、君に伝えるのに勇気が居るんだ、だから少しだけ勇気を私に頂戴?」
「いい…けど?」
何も分からないまま、公命が二つ返事で了承すると、出雲芽生は公命の胸元に顔をうず込める。
彼女の最近の不自然さはこれが理由だったのだと、私はここで初めて理解する、なんだかんだ彼女も人の雌だという訳であったという事だ。
しかしながら婚姻が認められるのは18歳以上と言うのがこの国のルールだった気もするが、まぁ彼女のこれからにとってという気持ちの問題でもあるのだろう。
「ずっと私と一緒の景色を見て…、生涯私の傍に居て…、もう連絡も無しにどこにも行かないで…、だから…、だから……」
グイっと出雲芽生は公命の浴衣を引っ張り、公命を見上げ、そして公命の顔を自身に近づける。性別による肉体強度の差というモノを取り払い、純粋な才だけで見ればこの世に彼女を一つで上回る人間が居たとしても、総合力という点で彼女を越える存在はし得ないであろう。
何か一つで10点中満点を出す人間は確かに存在する、けれど複数で満点を叩き出す人間などそうはいない、その異常な才能を持って、誰にも歩めないような人生を歩む。そういう存在である出雲芽生が口にする言葉は、公命にとって余りに残酷なお願いであった。
「卒業したら…、私と結婚してください…、君が大好きだから…、君を手放したくない…」
出雲芽生という生物学的女性というだけの全能が、普段は自信にあふれている筈の彼女が、声を震わせ涙を流しながら、公命というこれと言って特徴も無い、強いて言えば顔は平均以上のごく平凡な男に縋りよる。
どうかずっと一緒に居てくださいという、幼女の様な幼稚な願いを、彼女は彼の眼を覗き込むが如く、真剣な眼差しでたった一つの想いを伝える。
『君が好きだから、いつまでも傍に』それこそが、出雲芽生がたった抱いたたった一つの感情の終着点、自分の意志だけでは、決して手に入る事のない特別。
「出雲さんにそんな事言って貰えるなんて本当に嬉しいよ…」
「…っ…じゃあ…」
苦虫を潰した様な顔をしながら言う少年に対し、正しく一生に一度のお願いが成就すると思い顔を上げてしまった少女、だから少女はその顔を見て理解する。
「けどそれは無理だ…、それだけはできない。出雲さんとの約束は1年間の偽りの恋人。その間であるならば、出雲さんが望めば俺はどんな事だってする、だけどその後はダメだ」
「ど、どうして?…大学で離れるから?就職するから?…、君がどこへ行くとしても私はそれに合わせるよ?どんな苦難の道でも合わせてみせるよ?君の為なら私はできるよ…?」
「ダメだよ、出雲さんは俺なんかに合わせちゃダメだ、君は、君だけしか進めない道があるんだから、それがきっとこの世界の為になるんだから…、だからこの関係はこの1年だけだ」
「世界なんてどうでもいい、私の幸せの為なら、私は世界がどうなろうと知らない!それとも君は私には人並の幸せなんて享受するべきじゃないって言ってるの?」
「そう言ってる」
出雲芽生の願いは決して叶うものではないからこそ、公命はここで強く突き放す。公命にとってはこれ以降が無いからこそ、これ以上ない想いを抱いてくれた大切な人であった。
けれど出雲芽生には、これ以降が存在する。ならば公命以上の存在もいつか出会えるかもしれない、そう公命は思っている。
「どうして…、どうしてさ…、私には君しか居ないんだ…、君さえいればいいんだ!」
「それは盲目だよ、恋は盲目って奴だよ。俺以上の人なんてきっと世界に出れば嫌でも見つかるから…、だから俺はそれまでの代理人でしかない」
「…………………、わかっ……た……、ならせめて今だけは…君の傍に居させて、私に君の温もりをください…、別れの時には君から一人立ちする為の………、君の温もりを…」
「それなら…いいよ…」
泣きじゃくる出雲芽生を公命は抱き寄せる。自分勝手だと他の人間は言うかもしれない、けれど18分の18である公命と、80分の18である出雲芽生では、こうする事が一番ダメージが少ないのだろう。
出雲芽生は椅子に腰かけ公命の肩に頭を乗せ、生気も無く虚ろに花火を眺める。寄り添う姿は恋人らしく、二人の感情はついさっき破局した恋人、ちぐはぐな関係だが、彼らは寄り添う事を止めない、この1年で終わりだとしても、この1年に勝るモノは無いようにするために。
「少し泣きつかれちゃった、公命君の膝借りてもいい?」
「いいよ、柔らかさは保証しないけどね」
「硬くてもいいよ、公命君の膝って事が…じゅう…よ……ぅ……っすぅー…っすぅー…」
恐らく夏祭りデートを決めたその日から保ってきた出雲芽生の緊張の糸が解け、いとも簡単に眠りについてしまう。相当緊張していたのだろう、そして覚悟はしていても断られるというのは、相当心にダメージを受けたのであろう、それを回復するためか、それとも彼女なりの逃げか、それでも愛する人の膝で眠れる彼女の寝顔はとても安らかだった。
「もう寝ちゃったのか…」
公命と出雲芽生以外に誰も居ない公園で、ただ一人美しく広がる花火を見つつ、出雲芽生が寝静まった事を確認するように声に出し確認した。
「ずっと一緒の景色をか…、連絡無しに消える事はあるかもしれないけど、生涯君の傍には居るよ、君が離れようとしても…死ぬその時まで君を想って死ぬ。でもやっぱり納得できないなぁ、君と俺以外の誰かが結ばれるのは…。君が俺の事をこんなにも好いてくれて、俺も君の事がこんなにも大好きなのに…、君の横を一緒に歩く事はできない…」
花火を見上げる、綺麗な花火を。
今日のこれからの天気は、晩から未明にかけての雨。
決して強くも無い雨が、二人を濡らす。出雲芽生に雨が掛からない様に公園の軒下に移動し、彼女が起きるのをひたすらに待つ。
「馬鹿は風邪を引かないっていうけれど、夏に風邪を引くのは馬鹿の証拠だぞー」
眠り姫を起こす様に、公命は出雲芽生の顔を覆う。やがては唇が触れる、けれどこれは童話ではない故に彼女の瞳は開かない。だって出雲芽生は、目覚めの時を待つ白雪姫ではなく、完全無欠な誰かが夢想したような主人公なのだ。
「やっぱり、俺は君の王子様じゃないんだよ」
雨で濡れたか、公命の頬からポツリ、ポツリと出雲芽生の顔に雫が落ちる。
(せめてこの時間が永遠のモノになればいいのに…)
ここからでは死角になって花火は見えない、月明かりさえ拾う事は無い。それ故なのか、彼の心情故なのか、環境故なのか、それは彼にしか分からない、けれど彼の瞳の中はまるでタールの様に澱んで見える。
きっと彼の瞳は既に澱み始めているのだろう、諦めきった筈の結末に対し、未練という形で再び現れるのだから。
「あーあ、もう少しだけ長生きしたかったなぁ、誰にも言えない文句だけどさ…、そうしたらきっといつまでも君の傍に居られるのにね…、俺も大好きだよ、芽生…」
公命の放つ誰にも隠す気のない本心は、花火に…否この世界によって、公命が望んだ結末の邪魔をしない様に、かき消される。
出会わない方が幸せだったかもしれない、けれど出雲芽生と居る時間は、間違いなく公命が彼女にそう望んだように、彼にとって今この時間は何にも代えられない、彼にとって正真正銘最後に見られた、最高な物語じんせいだ。
最後の花火が大きな音と共に、雨で作られた水たまりに反射する。その光を彼の瞳は決して通す事は無くなってしまったけれど…。
その瞳を通して、絶望という名の真っ黒な澱みが、彼の魂を変質させたことを私は理解する。この絶望、この幸福、互いに彼を形成するのに必要な要素であるのだが、それを魂にまで刻み込みきっと終わりのない旅の強制をさせてしまう。
最初の感情は驚き、私が数ある選択肢から偶々選んだ特異点(お気に入り)というだけの存在、それなのにも関わらずここまでの事が起きているのは少し異常だった。その様な事は、私達が持つ神の如き権能で成せる現象だというのに、と。けれど次に浮かんだ感情は哀れみだ、たかが一つの恋で、公命の内にある魂はいつまでもこの苦しみを味わう因果を背負ったという事を意味する。だから最後に浮かぶ感情は一つの願いになる、もう一度魂の変質を証明する、彼のその澱んだ瞳が、幸福なる結末という名の光を宿す事を私は希う。
彼がこの先どういう思いで歩むかは大まかに想像できる、それは彼自身ですら認識できる程までに、いずれ到達する未来という形で表されている事は想像に難くない。
運河公命の瞳は澱み、体は鎖で縛られ、時間制限が刻一刻と迫る。今の彼は必至に砂を集めている所なのだろう、だからこそ砂を集める為に留まる彼から一度目を離す。
少しだけ運河公命の人生という、私が見つけた特異点(お気に入り)その一人の物語から逸れてみる事にした。
間違えても彼が特異点(お気に入り)で無くなった訳ではないし、三人称的観測ではなく、本来の様に俯瞰的傍観に戻る訳でもない。
ただ理由はシンプルでこの世界、この時間軸、そして同じ場所に、もう一人だけ、決して同時観測する事はない筈の私が、唯一目を引く運河公命と同じレベルの特異点が現れた。
正確に言えば特異点(お気に入り)候補ではあったのだが、あまりに完全無欠で人間味に欠けていたのでその候補からは外していただけ、それがたった一人の少年と出会い、一人の人間となった。
だからこそ私は同時に観測を始める、初めての試みだが、どうしても見たいのだ、彼らの行く末を、誰でもない私という傍観者の目に焼き付けておきたい、そう思った。
『出雲芽生、ここまでの彼に対して、君はどういったこれからを歩むのかな?』
私が見つけ出した平凡たる命短き半端な特異点(お気に入り)を、誰よりも…そう私以上に好いていしまった、全能たるこれからもずっと完璧な新たな特異点(お気に入り)は、どう歩み進むのだろうか?
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