第25話 北ナマゾの観光地事情

 商品開発の会議を、北ナマゾにて行う。


 南ナマゾの『鹿の駅』でもよかったのだが、あちらはある程度商品がまとまっていた。実際に、販売もしている。十分に、駅としての機能を果たしていた。もっとも、住宅地や開拓地としての役割を持つ程度だが。


「労働者エリアの色が強い南側に対して、北側は自然がかなり残っている。魔物をできるだけ遠ざけて、観光地の側面を出せればと思っている」


 ただ、北ナマゾの開発を急ぐ際に、聞いておきたいことがあった。


「金持ちたちは、どの辺りから来ているんだ?」


 北側で印象的だったのは、冒険者だけじゃなくて貴族の姿もチラホラあったこと。


「オーウ。そういえばミスター・キョウマには話していませんでしたネー」


「こちらに来る貴族の面々は、主に北西のナギアン地域からの来訪者ですわ。重火器の開発で財を成した人たちが、大勢いますの」


 メンディーニとは違うタイプの鉱石が取れるらしく、いわゆる「ゴールドラッシュ」が起きている最中らしい。


「そっちと交流すれば、よかったのでは?」


「あそこは欲が深い人たちばかりデース。まともなのは一部の方だけで、正直いうと商売をしたいとは思えまセーン」


 火器開発も、よその国へのけん制が目的のようである。


「列車も、ナギアン地方が開発したのデース」


 しかし、その目的は財産や資材を盗賊から安全に運ぶためだったとか。


 となると、かなり危ない土地のようである。


「そうはいっても、銃で脅してこちらの土地をよこせとかは、言ってこないデース」


「我々も、『この土地は少々危険が残っている』アピールをすることで、貴族たちに関心を向けさせていませんの」


 だから、かなりの魔物が野放しになっているのか。


 エルフの管轄地なのも、影響しているのだろう。ヘタに手を出したら、重火器持ちと言えど敵わない、と。


「なるほど、事情はわかった」


 まずは、オーソドックスな弁当を開発することにした。

 いきなり「釜めし」でもいいが、まずは弁当を売買する風習を作るのがいいだろう。


 列車での観光に来た人たちに振る舞う弁当を、レッドアイ夫妻と考案する。


「北ナマゾは、フルーツとジビエが盛んデース。それを売り出すといいかもデスネー」


「ここのバナナは、身が引き締まってうまいもんな。よし、採用だ」


 バナナといえば南国のイメージだが、北ナマゾ地域は北側なのに気候が沖縄っぽい。土地がまだ、南半球内にあるのだろう。


「うん。バナナおいしい」


 ナタリーナは、案に出てきた料理をひたすら食べまくる。ぶっちゃけ、味見の必要はないのだが。


 みんなにはそれ以外に、出せるアイデアは全部出してもらう。


「でもエルフさんって、肉食じゃないですよね。現地の人が食べられないものなんて売って、大丈夫なのでしょうか?」


 ペペルが、モヒートに問いかけた。


「たしかにお肉は、あまり好んで食べませんわね。エルフは主に、ハチミツが主食でございますわ」


「いいですね! ここのハチミツは濃厚なんです。薬効もあって、健康にもいいです。レモンと合わせると、ノドにもいいんですよね!」


 ドリンク部門は、トロミの付いたハチミツとレモンの濃厚ポーションを売ることに。ああ、たしか日本にもあったな。「ゴクゴクなんとか村」っていうのが。


「薬草やハチミツを取るのに、エルフの許可とかは必要ないのか?」


「大丈夫デース」


「一度会ってみたいんだが」


 話だけでも通しておけば、トラブルは避けられるかと。


「では、お話してみますかー? カモン!」


 ジャックが、エルフの執事長とメイド長さんを呼んだ。


「彼らとトーキングすれば、だいたいOKデース」


「待てよ。使用人だろ?」


「我々の前だけデース」


 なんと執事長が、豪華な軍服に。

 メイド長は、きれいなドレス姿に。


 この二人は、エルフの王と王妃らしい。


「まったく、気づかなかったぜ」


「あなたたちを警戒させないために、あなたがた二人を見定めるために、わざと変装していたのデース」

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